第12話 狂信者ならお手上げで

〈門〉の外は夜でもまだ明るかった。防犯上の理由でライトが設置されているのもあるし、晴れていて月が出ていれば獣人にとっては十分な明るさだ。


 素早く狐型狐火のココを生み出して空へと上がる。続くのは、白熊型騎乗ゴーレムのベアトリクスにまたがった彩華ちゃん。シュワッチ!と声が聞こえてきそうなポーズだ。


 さらに後方では、大きな金猫――あるいは金虎――にまたがった茜ちゃんが飛び上がっている。『マヨヒガ』フォームでの初めての実践なのに、じっくり見てて上げられなかったのは後で謝っておこう。


 最後尾にはリューちゃんに乗った愛里ちゃんが付いてきている。もしものときにも愛里ちゃんがいれば安心だ。


「ここまで来れば良いか。キムンカムイよ、犯人の足取りはつかめたかの?」


「はい。ここから南東の方角で、東に向かって進んでいます。〈姿見える君1号〉で確認できるように、マークしておきます」


〈姿見える君1号〉は、以前冒険者協会へ潜入する際に使用した、モノクル型の〈マジックアイテム〉だ。あの時は、透明化したお互いの姿を映すために使用したが、今回は犯人の位置を確認できるようになっている。


 皆がモノクルを装備すると、お揃いでなかなか似合っている。


「下手人はダンジョン審判教の可能性もある。皆、注意するのじゃぞ」


「はい!」「はい」「にゃ!」


 マークの移動速度から、おそらく車で移動していると予想できる。しかしこちらは空中を一直線だ。すぐに追いつけることだろう。


「そうじゃ、冒険者協会にも連絡をしておかねばな」


「それなら、すでに山根ちゃんに連絡してあります。彼ならば冷静に対処してくれるでしょう」


「やまにぇなら安心にゃ!」


「間違いないっス!」


 うむ。山根ちゃんはいつも冷静だからね。きっとすぐに諸々の手配をしてくれるだろう。あ、でも、今は勤務時間外かな。もし家族とゆっくりしている時間なら、迷惑になっちゃうかも。


 でも緊急事態だから、許して欲しい。


 マークを追いかけることしばらく。車の向かう方角は、東京都の中心部だ。あまり悠長にしていると、何が起こるか分かったものじゃない。


「あっ、見つけたっス! あの白い車っス!」


 幹線道路を東へと走る車を愛里ちゃんが見つけた。周囲には車もおらず、これなら堂々と捕らえることができそうだ。


「よし。真神よ車ごと捕らえよ」


「行くっスよ! 『水景・大水獄(だいすいごく)』!」


 出た! 愛里ちゃんのかっこいい技名だ!


 車の前方に巨大な水球が出現すると、そのまま車の前部を飲み込んだ。普通なら衝撃で水がコンクリートのように固くなるはずが、ねっとりと粘性のある動きで車を止めている。


 割とノープランでお願いしたんだけど、ナイス愛里ちゃん!


 ついでにエンジンに水がまわって故障もしているみたい。これで犯人の足は完全に奪えた。いっちょご対面といこうか。


「そのまま車中の犯人も拘束しておくのじゃ。妾が見てくるでの。皆はここで待っておれ」


「気を付けてくださいっスよ」


 あまり皆を犯人に近づけたくない。どう考えたって教育に悪い。ここは大人である私の出番だろう。


 とりあえず『炎蛇手〈狐火魔法〉ver.』でドアを開けて、犯人を引きずり出す。


 普段は物理的な力を持たない〈狐火魔法〉ではあるが、魔法をギュッとすることで物理的な力を持たせることができる。その代わりMPを消費するのが欠点だ。


 犯人はやはり末永兄妹だった。あれだけ『硬』とした表情が、今は憎々しげに歪んでいる。初めて見る表情の変化がこのような形になって残念だ。やっぱり皆には近づけたくない。


「のう主らよ。〈ダンジョンコア〉を奪ってどうするつもりじゃ」


「世界はぁ! ダンジョンによって浄化されるぅ! はぁはぁ、お前たちの力などカスだぁ! このようなことで俺たちを止められると思うなぁ!」


「神の御業を妨げる愚か者が! 獣は人に使役されていればいいのだ! 早く私たちを放せ! この汚い獣が!」


 うわぁ……。例えるなら、『狂』だ。もう目がイっちゃってるし、口角泡を飛ばしまくりで尋常な様子ではない。手足を拘束されているのに暴れまくっている。すっごい怖い。


 何かやばいお薬をやっていると言われても、思わず納得してしまうくらいの暴れっぷり。話を聞きに来たんだけど、まともな会話は無理だねこれ。


「「おお神よ! 我らの身を捧げます!」」


「なんじゃ……」


 なんというか、末永兄妹の魔力が急激に大きくなっていくような、そんな嫌な気配がする。


「とりあえず気絶させるとするか」


〈狐火魔法〉で、末永兄妹の周囲の酸素だけを焼失させた。人は、あまりに酸素濃度が低い気体を吸い込むと瞬時に気絶してしまう、という話を聞いたことがある。


 狙い通り、末永兄妹はパタリと倒れた。


 何を起こそうとしたのか気になるところではあるが、ひとまず危機は去った――、と思ったその時、末永兄妹の体内から爆炎が上がり、車や周囲を巻き込んだ爆発を引き起こした。


「玉藻さん!?」


「あっ!?」


「にゃあああ!?」


 爆炎は上空まで伸び、衝撃波で塵が舞っている。


「びっくりしたのう」


 当然これくらいではノーダメージです。

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