第11話 追跡するならマヨヒガで
「〈ダンジョンコア〉を回収した際、深層付近では地震のような揺れが観測されます」
後で彩華ちゃんに聞いたところによると、〈ダンジョンコア〉を回収した時に起こる現象は、あまり公表されていないそうだ。
それは、不用意に情報を流せば、〈ダンジョンコア〉を回収しようと考える人が増えるから。知ってしまうと、確かめようとする人が出てくる。知らなければ、興味もないだろう、と。
「〈ダンジョンコア〉の回収って違法なんですよね?」
「はい。このダンジョンでコア回収の予定はありません」
厳密に言えば、無断で回収するのが違法であって、冒険者協会と国が合同で〈ダンジョンコア〉を回収することはある。
彩華ちゃん調べによると、そうした合同回収の予定もない。
そもそも、〈門〉を囲う施設を建設したり、Bランク冒険者試験として調査をしている時点で、回収の予定も何もないだろう。
「ということは……」
「無断で回収にゃ!?」
「その可能性が高いです」
そういえば、このダンジョンができるに至った理由も、コアの違法回収だった。下手人はダンジョン審判教だ。
これを知っているのは、試験の説明を受けた私と愛里ちゃんだけ。けれど、今は緊急事態っぽいから、彩華ちゃんと茜ちゃんにも共有しておこう。
契約違反にはなるけどお許しください、理恵さん! あとバレなければオッケーだと思う。
「なるほど。ダンジョン審判教の仕業ですか」
「そんなのがいるのにゃ? ひどいにゃ!」
「ということは、今回の件にもダンジョン審判教が関わっていてもおかしくありませんね」
彩華ちゃんの言う通り、私もそれを疑っている。
「こういう時って、どうしたら良いんですか?」
「とりあえず一旦ダンジョンを出よう。ダンジョンが消滅する時に中にいたら危ない」
「はい。片付けて〈ダンジョンポータル〉へ行きましょう」
「そうにゃ! ポータルが使えなくなる可能性もあるにゃ!?」
「大丈夫ですよ茜ちゃん。48時間の猶予があります」
ほう。それも初耳だ。でも詳しい話は後にして、脱出しよう。
「皆、着替えて移動開始だよ」
「はい!」「はい」「にゃ!」
時間が惜しいので、移動は全力で行った。一番足の遅い彩華ちゃんは私がおんぶして、あとは全力疾走だ。45階層を縦断するだけなので、10分くらいでいけるだろう。
「明さん、地震があった直後、1階層の〈門〉前に設置しておいたドローンに、ダンジョンから出る人が映っていました。コアを違法回収した犯人かもしれません」
「どんな人?」
背中から彩華ちゃんが映像を見せてくれる。そこに映っていたのは、Bランク冒険者試験を一緒に受けていた末永兄妹だった。
「この2人は!」
ちょっとだけ驚いたけど、ぎりぎり知人と言えるかどうかの末永兄妹に対してあまり大きい感情はない。これが友人だったりすると、ショックもでかいんだろうけど、たまたま一緒に試験を受けに来ただけの人だし。
「Bランク冒険者試験を一緒に受けた、末永兄妹だと思う」
「え!? 末永さんたちがコアを持って行っちゃったんですか?」
「魔力の反応が異常なので、犯人である可能性が高いです」
「そうですか……」
愛里ちゃんは積極的にコミュニケーションをとっていたから、ショックが大きそう。愛里ちゃんを裏切るなんて、許せないね。
「できれば、捕まえてコアを取り戻したい」
「周囲の監視カメラの映像を確認しますね」
彩華ちゃんが情報収集に戻った。おんぶしているのがこんなことに役立つとは。
「そのすえにゃがって人は、明さんと愛里ちゃんの顔を知ってるにゃ? 悪い人に顔を覚えられたら大変にゃ!」
「確かにそうだね」
まだ犯人と決まったわけではないが、末永兄妹とダンジョン審判教との関りも気になる。下手に「明」や「愛里」として対応すると、危険かもしれない。
「こういうときはロールプレイ! ですよね? 明さん!」
「うん。『マヨヒガ』でいくよ。変身!」
「了解っス!」
「はい」
「にゃ! 『零ノ型 雷装(らいそう)』!」
思い思いの方法で『マヨヒガ』フォームへと変身した。
愛里ちゃんは〈水魔法〉で作っていた狩衣を、茜ちゃん製の防具に取り換えているし、彩華ちゃんも見た目はそのままに衣服を作り直している。
茜ちゃんは、ドレスアーマーを瞬時に装着するために、新しい〈マジックアイテム〉を彩華ちゃんから受け取っている。ペンダント型のそれは、起動すると指定した衣服に瞬時に着替えることができる優れものだ。ちなみに『雷装』の掛け声に意味はない。いや、ロールプレイ的には意味しかないか。
そして、玉藻の前の姿になった私もちょっとだけ変わっていて、薄手の羽織を追加している。これから冬になって寒くなるから、その対策だ。実際は全く寒くないんだけど、TPOに合わせた服装は大事だからね。
こうした衣装チェンジができるのも、生産系スキルと茜ちゃんのおかげだ。
「〈門〉を出たら、一旦上空へ上がる。キムンカムイよ、誘導はまかせたぞ」
「分かりました」
「真神は猫神のフォローじゃ」
「はいっス!」
「猫神はあわてず付いてくるのじゃぞ」
「にゃあ!」
「うむ。行くぞ」
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