第9話 試験なら終了で
「それで会いに来ちゃったんだ」
試験が始まってから9日目。30階層の〈ダンジョンポータル〉前で野営をしていた私たちのテントに、熊ちゃん(レッサーパンダ)と猫ちゃんがやってきた。
もちろん彩華ちゃんと茜ちゃんのことだ。
「にゃぁ」
「はい。あのままだと茜ちゃんがどうなってしまうか不安だったので」
人の姿に戻った茜ちゃんは、私の膝の上に陣取り、左右には愛里ちゃんと彩華ちゃんを侍らせたストロング甘やかされスタイルをとっている。
思わずにゃん語が出るほどの甘やかされだ。
「メッセージでも寂しい寂しいって言ってましたもんね。茜ちゃーん、もう寂しくないよー。なでなでなでー」
「にゃぁぁん」
さらにストロングなでなでによって茜ちゃんはぐでんぐでんだ。人の姿に戻っても、顎下や耳の付け根を撫でられると気持ち良いようで、私の膝の上でふにゃふにゃの液体になりかけている。
いつまでも甘やかしていたいが、そうもいかない。
「あんまり長居すると理恵さんが戻ってきちゃうよ」
2人がテントにやってきたのは、理恵さんの不在を狙ってのことだ。
Bランク冒険者試験としての都合上、試験の経過を冒険者協会に報告する必要がある。また、後続の調査のために、作成した地図を渡す意味もある。
〈ダンジョンポータル〉前で野営する場合、短い時間ではあるが、理恵さんがパーティーを離れるのはそうした理由あってのことだ。
「そうですね。茜ちゃん、そろそろ離れますよ」
「んにゃぁ……」
「また来ても良いから。ちゃんと待っててね」
「わかったにゃぁ……」
しぶしぶではあるが、彩華ちゃんと茜ちゃんがテントを出ていった。〈門〉からダンジョンへ入ってすぐの場所には、彩華ちゃんがドローンを仕込んでいるので、理恵さんとバッタリ出会うこともない。
この後は、私たちの少し後ろを追跡し、隙があればテントに突撃するつもりだそうだ。
「びっくりしましたね」
「うん。でも茜ちゃんたちが元気になって良かった」
毎夜届くメッセージから全く元気が感じられなかったので、愛里ちゃんと一緒に心配していたのだ。Bランク冒険者試験中でありながら、他のことに気を取られているのはよろしくなかった。
それも彩華ちゃんの機転――あるいは行動力――によって解決だ。残りは5日ほど。気合を入れて試験を熟そう。
5日後、Bランク冒険者試験最終日。目の前には、40階層の階層ボスが倒れている。
時間的に、ダンジョンの調査はここで終了だ。まだ階層は続いているので、このダンジョンがBランク以上であるということは確定した。
また、モンスターの強さからAランクではない可能性が高いので、おそらくBランクダンジョンであろう。
結局、末永兄妹とはあまり仲が進展せず、事務的な会話を一言二言する関係で終わった。少し残念な気もするが、相性と言うのはどこにでもある。ご縁が無かったと言えばそれまでだろう。
「試験はここまでだけど、末永兄妹と明ちゃんたちはどうする?」
「先へ進みます」
宗次さんは相変わらず判断が早い。
情報提供は求められるだろうが、末永兄妹のように続けて進むことはできる。
未知のダンジョンの素材は、それはもう価値があり、深層のものであればなおさらだ。こうして優先的に攻略できれば、得られる報酬も期待できる。そして、ダンジョンランクが確定すればボーナスもある。
意外と末永兄妹はお金稼ぎに貪欲なのかも。
「私たちはどうしようか?」
「とりあえず、一旦出ます?」
「ん、そうだね」
裏の意図、というほどでもないが、後ろから彩華ちゃんたちが追ってきているので、一度合流したい。それから進むかどうかを決めたい。
「それじゃあここで解散ね。末永兄妹も、いくら自己責任とはいえ未知のダンジョンだから気を付けて」
「はい」
うーん。最後まで『硬』だ。たったかと階段を降りていく末永兄妹を見送って、理恵さんは苦笑い。私たちも苦笑いだ。
「私たちは〈ダンジョンポータル〉まで戻りましょうか」
「はい」
「はい!」
無事に〈門〉まで帰還して、理恵さんとはここで解散だ。試験の結果は、後日メールで通知がある。
「明ちゃんたちもまた入るなら気を付けてね。人数も減ってるんだし」
「はい。気を付けます」
「ありがとうございます、理恵さん!」
むしろ人目を気にせず動ける分、攻略は楽になると思う。それに彩華ちゃんたちも合流するから、人数の面でもマイナスはない。
「また今度、食事でも行きましょう。それじゃあね」
「はい。新しい子もいるので一緒に」
「さようなら!」
「新しい子、ふふ、気になるわね。またね!」
理恵さんが去っていくのを見送り、私たちも家へ帰る――前に、彩華ちゃんたちと合流だ。
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