第8話 寂しいなら会いに行こう
「あっ、茜ちゃんからメッセージが届いてますよ!」
「なになに?」
お夕飯をすませ、テントへと引っ込んでスマホをいじっていた愛里ちゃんがメッセージに気付いた。
「『さびしい』だそうです!」
まだ1日目だよ茜ちゃん。
「やっぱりダメみたいですね。すぐ会える距離で別行動するのと、会えない距離に行っちゃうのとは違うってことですね」
愛里ちゃんの分析が鋭い。つまり、お母さんが見守っているお庭では1人で遊べるけど、お母さんのいない公園では無理って感じか。
「通話はできないけど、メッセージを送っておくね」
「そうしてあげてください!」
『良い子で待っててね』っと、これでヨシ。
彩華ちゃんからも、いかに茜ちゃんが1人で頑張っているのかの報告がきている。『帰ったらビデオを見ます』こっちの返信も完了だ。
おっと、すぐに茜ちゃんから返信の返信がきた。これにも返信してっと。またきた。あ、まただ。また、また……。
続くBランク冒険者試験2日目。
15階層まで進み、階層ボスを倒したところで終了。階層ボスは、リーダーウインドイーグルとイーグルの集団で、風魔法によって速度を上げたイーグルが強襲してくるという、なんとも激しい相手だった。
ただ、強襲してくる軌道は一直線なので、慣れてしまえば作業でしかなく、特に被害もなく倒せた。遠距離で魔法をパシパシやられるより、よっぽど対応は楽だ。
その後は少し攻略スピードが落ち、2日かけて5階層進むといった具合。
試験開始から6日がたち、私たちは25階層に到達していた。
一方その頃茜ちゃんたちは――、
「さ、さびしい、です」
「困りました」
1日目は耐えられた。2日目もなんとか耐えられた。3日目からは彩華ちゃんにくっ付き虫になり、4日目には抱き着き虫になり、5日目以降は抱き着いて離れない。
明たちがいなくなった家で、茜ちゃんの寂しさは限界を突破した。
毎夜メッセージを送り、その返信はあるが、それがさらに寂しさを加速させる。返信があるのに会えない。かと言ってメッセージを送らないという選択肢は無い。
「しょうがないですね。茜ちゃん、明さんたちに会いに行きましょう」
「え? で、でもっ、試験中だって」
「はい。ですから、『こっそり』会いに行きましょう」
◇ ◇ ◇
夜の闇を駆けるのは、2つの影。1つはずんぐりとして力強く、1つはしなやかで俊敏。音を立てることなく、誰からも気付かれることなく、建設途中の鉄骨の林を抜けて、2つの影は〈門〉へと入っていった。
「侵入成功です」
「やったにゃ!」
その2つの影とは、獣化した彩華ちゃんと茜ちゃんだ。
Bランク冒険者試験が行われる場所は秘密であったが、そんなことは彩華ちゃんの前では無意味だ。ハッキングするまでもなく、明たちのDギアの反応をたどれば、目的の場所はすぐに分かった。
善は急げと即行動し、こうしてダンジョンへやってきたのだ。
「明さんたちが試験を開始してから6日もたっています。おそらく20階層以上進んでいることでしょう」
「追いかけるにゃ!」
「そうですね。モンスターは無視して、駆け抜けましょう」
「分かったにゃ! 〈雷魔法〉でエンチャントするにゃ! 『壱ノ型 瞬雷(しゅんらい)』!」
エンチャントの技名は『スピードアップ』じゃなかったのかって?
その疑問はまったくもって正しい。
冒険者協会へこっそり忍び込む際は、『スピードアップ』だった。ただ、後日茜ちゃんから物言いが入った。茜ちゃん曰く、「私の技名も漢字が良い」。
その結果できあがったのが、『壱ノ型 瞬雷』だ。ちなみに、弐ノ型以降もある。
技名が納得できるものに変わったおかげか、エンチャントの効果が20%ほど向上したのは些細な事だろう。たぶん。
「報告書によれば、このダンジョンは飛行型モンスターが出現するようです。上空にも気を配って進みますよ」
「はいにゃ!」
彩華ちゃんは、移動用に『ベアトリクス』というクマ型の騎乗ゴーレムを持っているが、もし見つかってしまうと試験中の明たちに迷惑になるだろうから、今回は使用しない。
愛里ちゃんの〈水魔法〉があれば、カムフラージュしながら上空を飛ぶという選択肢が取れただろうが、無いものは仕方ない。
「1階層の階段はこっちです。行きましょう」
「にゃ!」
明たちが進んだ経路は、理恵さんによって冒険者協会へ報告されている。したがって、ただ階層を下るだけなら、一直線に階段へ向かうことができた。
人よりも圧倒的に小さい獣化状態で、獣人としての身体能力を十全に活かし、明たちに会いたいという熱意を燃やして、彩華ちゃんと茜ちゃんは一晩で10階層まで到達した。
明たちに会いたかったのは茜ちゃんだけではない。彩華ちゃんも程度の差はあれ、明たちに会いたかったのだ。
次の日も、また次の日も、彩華ちゃんと茜ちゃんは明たちを目指してひたすら駆け続けた。
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