第7話 1日目なら終了で

 6階層から10階層の〈ダンジョンポータル〉へと向かう道中は、おおむね順調だ。


 なんとなくこっちかな、という方向に階層を下る階段があり、特に迷うこともなく進めている。


 各階層のマッピングをしなくても良いのか?、と疑問に思うかもしれないが、そちらは別で調査――というか、一般開放されてからの情報収集で済ませるのが普通らしい。


 冒険者協会だって、すべてのダンジョンの、すべての階層を調査するリソースは持ち合わせていない。


 最低限、ダンジョンのランクはいくつで、階層は何階で、どんなモンスターが出るのか。それくらいの情報があれば管理はできる。


 あとはダンジョンへ入る冒険者の自己責任の範囲だ。


「ん。少し反応の違うモンスターがいる」


「了解です! 一応、そちらに向かいましょう!」


「あっち」


 9階層に入ってから、オウル系とは違う反応が感じられた。気配が大きく、オウルよりも俊敏に動き回っている。


「いた」


 現れたのは、階層ボスと同じような見た目のイーグルだ。ウインドイーグルから風魔法を除いたモンスターで、基本的にはオウルの強化版みたいな感じ。4匹のグループを作っている。


「宗次さん、何か情報を持っていますか?」


「はい。イーグルは一撃離脱で素早い攻撃をしてきます。後衛も狙ってくるため注意が必要です」


「なるほど」


 愛里ちゃんは宗次さんとのコミュニケーションに成功しつつある。こうやって質問することで、言葉を引き出しているのだ。


「希美さんはイーグルの攻撃に対応できますか?」


「はい」


「それなら心配いりませんね」


 一方希美さんは強敵だ。自己紹介の時以上の長文はいまだに発していない。でも、答える前の沈黙がなくなってきているのは成長だと思う。


「各自イーグルの強襲には注意してください! 明さん、戦闘開始です!」


「ん、イーグルへ向けて前進する」


 いるのが分かっていれば、こっちに向かって来てくれる分対応が楽だ。1人につきちょうど1匹が強襲してきて、それぞれが打ち払っておしまい。理恵さんは〈隠密〉かなにかでターゲットにならないようにしていたので、狙われずにすんだ。


「オウルと混じることもあるかもしれません! 注意しつつ10階層を目指しましょう!」


「ん、出発する」



 ほどなくして10階層の〈ダンジョンポータル〉へと到着し、登録も済ませた。ほぼ一直線にここまでこれたので、まだ17時前だ。


「今からだと、10階層の階層ボスまではいけそうですね! 皆さんどうしますか? 今日のうちにボスまでやっちゃいますか?」


「はい。行きましょう」


「ん、まだ余裕はある」


「はい」


「了解です! それじゃあ階層ボスまでやって、11階層への階段で今日の攻略は終わりにしましょう!」


 10階層を駆け抜け、階層ボスは、ウインドイーグル2匹とウインドオウル8匹の集団だった。5階層と比べていきなり倍の数だ。


 遠距離からパシパシ魔法を撃ってきて、普通ならちょっと面倒そうだけど、こっちには愛里ちゃんがいる。さらに私と希美さんも加わって、魔法戦で圧倒して終わった。宗次さんは皆の壁役だ。


 ここでようやく、パーティーにヒーラーが居ないことに思い至った。ダメージの検証以外で被弾したことないから、回復するという発想がなかった。これは反省しないといけないね。


「たしかに回復方法について決めていませんでしたね。宗次さんたちは普段どうしているんですか?」


「特に何も」


「HPが減ってきたら撤退ですか?」


「はい」


「なるほど」


 潔いというか、冒険者協会がポーションを量産する前は、それが普通だったという感じ。今は徐々に流通が増えていて、気軽に使えるようになるのも遠くないだろう。


「私たちはHPポーションをいくらか持っているので、もし必要になったら言ってくださいね!」


「はい」


 私たちには、愛里ちゃんが〈調合〉スキルのレベル上げに作ったポーションが大量にある。少しくらい分けても問題ないし、なんなら道中で補充することもできる。


 そう考えると、〈調合〉持ちってダンジョン攻略にすっごい便利だね。


 末永兄妹に2本ずつポーションを渡して、緊急時には使ってもらうことにした。ちなみに理恵さんは自分の分をしっかり持っていた。さすがだ。


「それじゃあ今日はここまでですね! 野営の準備をしましょう!」


 暗くなり始めたダンジョン内で野営の準備だ。ちゃちゃっとテントを組み立てればそれで終わり。


「宗次さんはそれで良いんですか?」


「はい」


 私たちがテントを立てている間、末永兄妹は、シートを敷いて終わり。あとは毛布にくるまって休むそうだ。たしかにダンジョン内の環境は安定しているので、雨や風を警戒する必要はあまりない。それでも吹き曝しは体が休まらないんじゃないだろうか。


「いつもこれです」


 ま、まあ、本人が慣れているならいいのか。


『もぅふ』と『も布団』がもふもふに敷き詰められている私たちのテントと比べてしまって、少し罪悪感が湧き出てきた1日目の夜だった。

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