第6話 やっぱり言葉は必要で

「〈ダンジョンポータル〉に到着ですね!」


 5階層までは地図があるので、それほど時間をかけずに到着できた。時刻はお昼を少し回ったくらい。


「ちょうどお昼なので、ここで休憩にしましょう!」


「はい」


「ん、分かった」


 愛里ちゃんの背負ったマジックリュックから、お昼のレトルト食品を取り出す。今回は手早くすませるために丼ものの中から牛丼を選んだ。


 小鍋に愛里ちゃんの〈水魔法〉でお湯をはって、レトルトパウチを突っ込んだら準備完了。できあがるまでにテーブルとか椅子とかを用意しておく。


「前から思っていたけど、愛里ちゃんってずいぶん器用に魔法スキルを使うわよね」


「そうですか?」


 牛丼が温まるのを待つ間、理恵さんが話しかけてきた。理恵さんが言うには、今愛里ちゃんがやっているような、水が沸騰する温度を保ち続けるというのは、結構な難易度らしい。


 私たちの感覚としては、それほど難しいとは思わなかった。一応の確認として、唯一通常スキルの〈属性魔法【地】〉を持っている彩華ちゃんに色々と試してもらった上での結論だ。


「ただ呪文を唱えてオートで魔法を撃ってるから成長しないんです。もっと術式を意識しないと」


 なんだか愛里ちゃんが意識高い系みたいなことを言い出した。


 何度か話題に上がっている術式とやら。私も良く分かってない。


 この世界の魔法スキルは、「魔法はイメージだ!」なんて曖昧なことは一切なく、術式によって起動する。


 でもたいていの場合、「ギュッ」ってするか「ギュギュッ」ってするかでなんとかなる。だから術式って言われても良く分かんない。


「愛里ちゃんは頑張ってるのね。希美ちゃんはどうかしら」


「はい」


「……」


「……」


 うっ、空気が、一瞬で周囲の空気が微妙になった。


「魔法スキルは得意なの?」


「はい」


「……」


「……」


 これには理恵さんも苦笑い。でも道中では少し発言するようになったし、会話するのが苦手なのかもね。私もちょっと分かる。


「明ちゃんも魔法スキルを使うわよね。何か意識してることとかあるの?」


「はい。ギュッてしたり、ギュギュッてしたりします」


「?」


「理恵さん、明さんは感覚派ですから、私たちの常識なんて通用しませんよ!」


 またもや理恵さんは苦笑い。なんでだ。茜ちゃんにはちゃんと分かってもらえたのに。


「それはそれですごいわね。審判教が邪魔してたスタンピードの時も、すごかったしね」


 ピリリと視線を感じたら、希美さんが理恵さんの方を見つめていた。


「希美ちゃんもスタンピードの時のことが気になる?」


「いいえ」


「……」


「……」


 うーん。



 休憩を終えて、5階層の階層ボスへと向かう。休憩したはずなのに、精神的にはちょっと疲れたのはなんでだろうか。


 ボス戦での作戦は、私、愛里ちゃん、希美さんの3人による魔法でオウルに先制攻撃し、数を減らしたところへ宗次さんが突っ込むというシンプルなもの。


 愛里ちゃんお得意の『水蛇・ヤマタノオロチ』が使えれば一瞬だけど、それは禁止魔法にしている。使えるのは、『水蛇手』まで。ピロピロ1本だけだ。


「スリーカウントで魔法を撃ちます!」


 階層ボスはある程度近付かなければ反応しない。だから先制攻撃は簡単にできる。


「3、2、1、ゴー!」


 それぞれが、○○アローを1本ずつ撃って、3匹のオウルを仕留めた。残りはオウル1匹とウインドイーグル1匹だけ。


 近付いた宗次さんが最後のオウルを切り捨て、ウインドイーグルの注意が宗次さんの方へ向いた瞬間、愛里ちゃんの2本目のアクアアローがウインドイーグルに突き刺さった。


「はっ」


 宗次さんがトドメの一撃を入れ、ドロップアイテムが出た後に全員の注意が解かれた。


「バッチリでしたね!」


「はい」


「うん」


「拾い終わりました」


 希美ちゃんもちゃんと発言をしてバッチリだ。


「それでは6階層に進みましょう! ここからはほとんど情報がありません! まずはモンスターの情報を集めます! 隊列はこのままで! 宗次さん、モンスターとの戦闘を優先にお願いします!」


「はい」


 愛里ちゃんのリーダーシップが留まることを知らない。立派だ。


 宗次さんの先導に従って、何度か戦闘をこなした。出てきたモンスターは、5階層までと同じくオウル系で、モンスターのグループに魔法を使うウインドオウルが混じっている。


 普通のオウルとほとんど同じ見た目をしているため、急に魔法を使われるとビックリするかもしれない。それに、混じっているのが1匹とは限らないところもいやらしい。


 何らかの遠距離攻撃手段を用意するか、先制で数を減らすことが重要だろう。


「だいたいモンスターの情報は分かりましたね! ここからは階層を下ることを目的にします! 隊列を明さん先頭に変更します!」


「ん、分かった」


「はい」


 モンスターの傾向は大体5階層毎に変化するので、モンスターの情報収集は十分という判断だ。あと〈気配察知〉のスキルレベルは、たぶん私の方が宗次さんより高い。なので、私を先頭にして、戦闘を避けつつ移動優先ってことだね。


「それじゃあ出発します! おー!」


「おー」


「はい」


「……はい」

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