第5話 連携するなら言葉は不要で?

 新しいダンジョンの中は、ザ・森といった感じ。


 同じくザ・森なダンジョンである〈狼ダンジョン〉とは雰囲気が違っていて、木々は針葉樹林で下草が少ない代わりに苔が多い。北よりな森の感じ。雪が降っていてもおかしくない。〈狼ダンジョン〉は生き生きとした広葉樹林だ。


「少し寂しい感じですね」


「うん」


 愛里ちゃんが言うように、なんというか静かでちょっと寂しい森だ。ここを走り回っても〈狼ダンジョン〉ほどはテンションが上がらなさそう。


 でもたまに来る分にはちょっとした気分転換になるかも。


「ここからはリーダーに従うわ。愛里ちゃん、よろしくね」


「はい!」


 いよいよBランク冒険者試験の開始だ。


「まずは分かっている範囲で、このダンジョンの情報をおさらいしましょう!」


 うんうん。認識のすり合わせは大事だね。


 まずこのダンジョン、推定Cランク以上のダンジョンランクがある。これは初期調査でのモンスターの強さから推定したものだ。最終的には踏破証での確認をもってダンジョンランクが確定する。


 今回の調査では、踏破までは必要ない。できればそれはそれでいいんだけど、2週間という制限の中での調査になるのでまず無理だろう。私と愛里ちゃんが全力を出せば……、できるかもね。


「5階層までは出現モンスターが判明しています! 宗次(そうじ)さん、何が出ますか?」


「オウル系統のモンスターが4匹程度のグループで出ます」


「はい、フクロウさんですね!」


 オウル(フクロウ)はその名の通り空を飛ぶ鳥型モンスターだ。体長は、羽を除けば40センチ、羽を広げると1メートルちょっと。5階層までは物理攻撃しかしてこないが、魔法スキルを使うオウル系統のモンスターもいる。


「罠の情報はありますか、希美(のぞみ)さん!」


「5階層までは見つかっていません」


「その通り!」


 屋外型のダンジョンでは、あまり罠の類はない。それでも、くくり罠や落とし穴などがあったりもする。


「階段の位置は分かりますか、明さん!」


「ん、1階層は北北西」


「はい! 5階層までは地図がありますから、移動しながら連携を確認しましょう!」


 すごい。愛里ちゃんがちゃんとリーダーをやってる。たぶん私がやるよりちゃんとしてる。もう愛里ちゃんは合格でいいんじゃないかな。


「理恵さん。説明があった日から数日たちましたが、追加の情報はありますか?」


「良い質問ね。5階層の階層ボスの情報があるわ」


 ほう。聞かれるまでは教えるつもりが無かったのかな。ちょっといじわるだ。


「階層ボスはウインドイーグルと4匹のオウルだったわ」


 どちらも鳥型だ。このダンジョンは鳥型モンスターが出るダンジョンなのかも。


 ウインドイーグルは、風の魔法スキルを使ってくるモンスターで、オウルよりも2回りほど体が大きい。オウルの牽制にウインドイーグルの魔法にと、近接アタッカーだけだと苦戦しそうな階層ボスだ。


「なるほど。どうやって戦うかは直前で相談しましょう! まずは5階層の〈ダンジョンポータル〉を目指します! 道中で皆さんの連携を確認しましょう!」


「はい」


「うん」




「えい」


「はっ」


 私が右、末永兄の宗次さんが左のオウルを切り捨てた。〈気配察知〉にはまだ左右にオウルの気配がある。


「せいっ」


「えい」


 無言で左右に分かれ、それぞれがもう1匹ずつオウルを倒した。これで周囲のモンスターは全部だ。警戒しながら、末永妹の希美さんがドロップアイテムを集めるのを見守る。


 あ、回収が終わったみたい。


 ひとつ頷いた宗次さんが先導するように歩き始めた。今の隊列は、先頭から、宗次・私・希美・理恵・愛里の順だ。宗次さんは前方重視で索敵しているので、私は左右を補うように重点的に索敵する。これで抜けはない。


「はいストーップ!」


「?」


 愛里ちゃんがストップをかけた。末永兄妹も何かあったかと首をかしげている。


「もっと、言葉を使いましょう!」


「どういうこと?」


 代表して、私が質問した。


「明さんも末永兄妹も言葉が少なすぎです! 掛け声とか、出発しますとか、いろいろ言うことがあると思います!」


 え、だって、急にパーティー組んだ知らない人だし……、ちょっと緊張する。


 しおりちゃんたちみたいな女の子パーティーだったら緊張も少ないけど、末永兄妹って大人だし、寡黙だし、話しかけるハードルが高い。


「私ももうちょっと言葉を使った方が良いと思うわ。今のパーティーは問題ないけど、他のパーティーを組むことを考えたらね」


 ここまで何回か戦ってきたけど、連携については全く問題ない。目線と頷きだけで何をしようとしているかは大体わかる。


 でもこれは察してもらう前提の連携とも言える。


 愛里ちゃんとは付き合いが長いし、末永兄妹は察する力が強いので問題はないが、他の人たちに通用するかは確かに微妙だ。


「頑張って言葉を使います」


「出発時に声を掛けます」


「努力します」


 ちょっとずつ頑張ります。

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