第4話 自己紹介なら簡潔に

 Bランク冒険者試験当日。バッチリ準備を整えた私たちは、またしても関東局へと来ている。ダンジョンへは、ここから車で移動するらしい。


 案内された部屋には、すでに男女1名の冒険者がいた。おそらく彼らが同時に試験を受けるという2人なんだろう。


 軽く会釈をして、私と愛里ちゃんも席に着いた。


「……」


「……」


 いや私に社交性を求められてもちょっと困る。ロールプレイ中はともかく、そんなに口数が多い方じゃないし。


 くそ、理恵さん、早く来てくれー!


「遅くなってごめんなさいね」


 きたー。


「いえ、時間通りです。お気になさらず」


「時間ぴったりですよ、理恵さん!」


 向こうのお2人さんは、男性の方がリーダーなのかな。理恵さんに対応したのは男性の方だった。


 その理屈で行くと、私たちは愛里ちゃんがリーダーということになるか。


「それじゃあ、お互いに自己紹介しましょうか。まずは私から。試験内容の説明の時にも顔を合わせたけど、後藤理恵よ」


 理恵さんの正式な役職名は、『支援課課長補佐』というらしい。支援課というのは、いわゆる何でも屋で、他の課やダンジョンで色々するのがお仕事。色々ってなんだろうか。


「次はこちら側から順番にお願いね」


 指名されたのは、さっき理恵さんに対応した唯一の男性だ。


「わかりました。私の名前は末永宗次(すえなが そうじ)。剣を使う前衛です。スカウトスキルもあります」


 末永さんね。彼を一言で表すなら、『硬』って感じ。表情から口調からすっごく硬い。容姿は軍人ですって言われても違和感ない感じ。


 顔や表情だけだと30代後半くらいに見えるけど、たぶん20代だと思う。私のカンがそう言ってる。


「末永希美(すえなが のぞみ)、風魔法を使います。近接用の武器として棍を使います」


「私の妹です」


 硬い! 硬すぎるよ末永さん兄妹!


 妹の希美さんはショートカットで前髪が長め。お化粧もほとんどしていないようで容姿には無頓着なのかも。そして全く表情が変わらない。


 なんだかすっごく試験が不安になってきた。この兄妹とちゃんとやっていけるんだろうか。


「次は私ですね! 山本愛里です! 水の魔法が得意です! 接近戦ではこん棒を使います!」


 あー、元気な愛里ちゃんに癒されるー。最後は私の番だね。


「前田明です。槍を使います。体は小さいですが、身体強化が得意です。あと火の魔法も使えます」


「私のおかあ、じゃなくて、お姉さんみたいな人です!」


 ふいー、なんとか自己紹介終了。


「はい、皆ありがとう。最後にこの臨時パーティーのリーダーを決めましょうか」


「私は前衛なので遠慮します」


 すぐに末永兄が辞退した。


「私も辞退します」


 すぐに末永妹も辞退した。


 早い! 決断が早すぎるよ! あと行動も速いよ!


 理恵さんがちょっと困った顔をしている。こうなると、同じく前衛の私も適任とは言い難く、消去法で愛里ちゃんになっちゃう。


 いや、私も後衛アタッカーになれば……。ダメだ。その場合、前衛が1枚だけになるのがよろしくない。


「愛里ちゃん、できそう?」


「まかせてください! 私がリーダーになります!」


「異論ありません」


 末永兄も異論なしと。


「それじゃあリーダーは愛里ちゃんね」


「よろしくお願いします!」


 マヨヒガでダンジョンに入る時は、リーダーなんてわざわざ設定したりしない。基本的にモンスターは各自が処理して、罠も各自が処理して……、あれ、私たちって協調性なさすぎ?


 リーダーを置いてダンジョン攻略をしたのは、『世界冒険者月間』の臨時パーティーのときくらいだ。あのときは、後衛のしおりちゃんがリーダーをしてくれていた。愛里ちゃんはその隣で後衛アタッカーをしていたので、リーダーの動きというものを私よりかは分かっていると思う。


「リーダーも決まったことだし、早速ダンジョンへ移動しましょうか。車を用意してあるから。こっちよ」


 Bランク冒険者試験を受けるような人なら、マジックバッグの1つや2つは当然持っているようで、末永兄妹も私たちもほぼ手ぶらだ。


 用意されたミニバンに乗って、その身一つでダンジョンへ移動する。


 1時間ほどかけて、目的地へと到着した。山の裾野といった場所で、もう少し踏み込めばうっそうとした森や山が広がっている。


 新たに出現したダンジョン――〈門〉の周囲には進入禁止のフェンスが設けられており、さらにその内側には、工事用の足場や覆いがかかっていた。〈門〉を囲う施設を急ピッチで建造中のようだ。


「まだ施設が建っていないけど、ダンジョンへは入れるから。こっちよ」


 理恵さんの案内に従って工事用の覆いを抜けると、そこは鉄骨の林であった。ダンジョンブレイクに備えた施設であることは知っていたけど、こんな風になってるんだね。


「ふぇー、すごいですねー」


 愛里ちゃんのお口もあんぐりだ。末永兄妹も珍しいのか、キョロキョロとあたりを見回している。


「あまりウロチョロしていても迷惑だから、まずは中へ入りましょう」


「はい」


「分かりました!」


 私たちは新しいダンジョンへと踏み入った。

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