第3話 クリーンなら必須で
小一時間ほど理恵さんから説明を受けて、家へ帰宅した。
説明の内容は、家族へも話してはダメだから、彩華ちゃんや茜ちゃんにも内緒だ。
「秘密保持契約ですから! 秘密なんです!」
秘密とか、契約とか、ちょっと大人な経験を積んで、愛里ちゃんが舞い上がっている。その気持ちはちょっと分かる。
でも愛里ちゃん。あなた彩華ちゃんの所有するネクター社とも契約を結んでいるんだよ。忘れちゃったの?
というのも、彩華ちゃんが愛里ちゃんの家に居を移すのを切っ掛けにして、扶養とか同一生計とか税金とか、色々と複雑になってきたので、皆まとめてネクター社と専属冒険者契約を結んだのだ。
その中には、秘密保持契約(みたいなもの)も含まれている。
まあぺらぺらと秘密をしゃべる子じゃないから心配はしていないけどね。一応後で念押ししておこう。
「Bランク冒険者試験を受けることになったから、いろいろと準備しないと」
「そうですね! 臨時パーティーを組みますから、いつものようにスキルも使えませんし」
普段との一番の違いは、愛里ちゃんの〈アイテムボックス〉が使えない点だろう。
〈アイテムボックス〉は愛里ちゃんの持つ転生特典スキルで、容量が半端ない事もそうだけど、内部の時間が停止するというのが、マジックバッグとは大きく異なる。
これを利用して、私たちのダンジョン攻略では、事前に用意しておいた温かい料理をいつでも食べられる様にしていた。
今回の冒険者試験ではそれは無理だろう。
「レトルトのおかずを増やそうか。あとは缶詰とか?」
「缶詰、猫缶は嫌だにゃ……!」
猫缶が嫌過ぎたのか、茜ちゃんから思わずにゃん語が飛び出した。猫ちゃん生活の中で、何かトラウマになる事件でもあったんだろうか。どうしても必要な時以外は、茜ちゃんに缶詰を出すのは止めてあげよう。
「試験は最大2週間でしたよね。余裕をもって人気のレトルト食品を用意しておきます」
「ありがとうございます、彩華ちゃん!」
レトルト食品や缶詰といっても結構種類はあって、和食や中華、フレンチにイタリアンなんてものもある。これもダンジョンが現れてから需要が高まった影響だ。
「水は愛里ちゃんの魔法があるし、火は私が起こせる。他に何かあるかな」
「テントも片付けてからマジックバッグに収納しないとダメですね!」
「あ、そっか。じゃあベッドも持ち込めないね」
〈アイテムボックス〉の容量にまかせて、展開状態のテントやベッドなんかも持って行っていたんだけど、それらもなし。
公式に私たちパーティーが持っているマジックバッグは、1立方メートルのマジックポーチが2つに、10立法メートルのマジックリュックが1つ。無駄なものは持ち込めない。
これは辛いダンジョン攻略になりそうだ……。
「もふ玉もなしですか!?」
いやそれは持っていこう。
「それなら、使っていない『もぅふ』と『も布団』も持っていきましょう! 圧縮袋があればリュックに入るはずです!」
「愛里ちゃん天才」
『もぅふ』と『も布団』は、もふ玉と同じくフェイクファーを利用した〈裁縫〉スキル製のアイテムだ。どちらもネクター社で好評販売中!
私たちが使うものは、彩華ちゃんの〈錬金術〉スキルで快適効果を付与してあるので、市販品よりも使い心地が良い。これから寒くなっていくので、ダンジョン外でもきっと大活躍だ。
「着替えは愛里ちゃんが『クリーン』をできるからそんなにいらないし、食器もそうだし。意外と必要なものって少ないね」
「そうですね!」
「普通はダンジョン内でお洗濯なんてできませんから、もっと荷物が多くなると思います。あ、ここにも商機がありましたか」
そうか。普通はお洗濯できないのか。それは確かに厳しい。というか、体を洗うこともできないのか。
「普通の人ってどうやって体を洗ってるだろう?」
「2日ほどならそのままで、それ以上だとタオルで拭く程度らしいですね」
「うわぁ……。私、現代でも〈水魔法〉とってて良かったです」
「うん」
ありがとう愛里ちゃん。私も毎日体を洗えないなんて耐えられない。
「言われてみればまずいですね。早急に『クリーン』を使える〈マジックアイテム〉を作製しましょう。残された私と茜ちゃんの行動に支障をきたす可能性があります」
「が、がんばって、彩華ちゃんっ」
「すぐに作りますからね、茜ちゃん」
確かに言われてみれば大問題だ。それに今回必要にならなくても、今後はどうか分からない。あるにこしたことはないだろう。
「必要な素材はある?」
「まだ試験までは時間がありますからね。素材集めなら私たちも手伝いますよ!」
「水に強い素材がいくらか追加で必要です。この辺りだと、〈甲虫ダンジョン〉が良いですね」
関東15〈甲虫ダンジョン〉はCランクダンジョンだ。全員が問題なく入ることができる。
「それなら、皆でとりに行こうか」
「お、おでかけっ」
「予備も含めて皆さんの分を作ってしまいましょう」
「良いですね! 出発、おー!」
おー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます