第2話 Bランク冒険者試験の説明なら理恵さんで

 Bランク冒険者試験のお知らせが届いた私と愛里ちゃんは、試験内容の説明を受けるために冒険者協会・関東局に来ている。


 メールや電話では説明できないって、どんな内容なんだろうか。


「気になりますね」


「うん。どんな内容なんだろ」


 通された部屋でしばらく待っていると、見知った顔が入ってきた。


「お待たせ、明ちゃん、愛里ちゃん」


「理恵さん!」


「お久しぶりです、理恵さん」


 その人とは、6月の『世界冒険者月間』に臨時パーティーを組んだ後藤理恵(ごとう りえ)さんだった。その後は『マヨヒガ』として何度か顔を合わせている。


「今日は私から説明するわ。その前に、話を聞くなら、秘密保持契約書にサインしてもらわないといけないんだけど、分かるからしら?」


「秘密保持?」


「契約書?」


 愛里ちゃんと2人で首をかしげてしまった。もちろん私は秘密保持契約がどんなものかは分かっている。それよりも、いくらBランクの冒険者試験といっても、契約を結んで秘密にするくらいやばい話なのかが疑問だった。


「内容がまずいっていうより、時期がまずいって感じね。契約書にも書いてあるけど、契約期間は3ヶ月だけ。その間だけ秘密にしてもらえればいいわ」


 とりあえず契約書を読んでみよう。愛里ちゃんも不安がっているし、1項目ずつしっかりと確認しながら読んでいく。


 内容としてはオーソドックスなものだ。前世でも何度か見たことがある。理恵さんが言ったように、期間は締結日から3ヶ月。Bランク冒険者試験に際して得た情報を第三者に漏らしてはいけない。


「もちろん断ってもらってもいいわ。その場合、申し訳ないけれどBランク冒険者試験は最低でも3ヶ月は受けられないでしょう。これは関東局の処理能力の問題よ」


 ふむ。生産系〈スキル〉のこともあって、冒険者協会の処理能力は限界に近いってことかな。でもそれだけだと、秘密保持契約を結ぶこととは繋がらない。


「話を聞いて、冒険者試験を受けないということはできますか?」


「大丈夫よ」


「それなら私はサインします。愛里ちゃんはどうする?」


「私も聞きたいです」


「うん。分かった。理恵さん、よろしくお願いします」


「ありがとう。じゃあここにサインしてね」


 サクッとサインし、契約書をそれぞれが保管する。これでお口チャックだ。


「まず何から話そうかしら……。『ダンジョン審判教』は覚えているわよね」


 うげっ。思わず渋い顔になってしまった。


 忘れるわけもない。理恵さんと一緒に戦った、あのスタンピードを引き起こしたテロ組織だ。愛里ちゃんの顔も渋くなってる。


「そのダンジョン審判教が、〈ダンジョンコア〉を違法に回収したの。それで1つのダンジョンが消滅したわ」


「うわぁ……」


 本当にうわぁだ。〈ダンジョンコア〉とは、ダンジョン最奥に鎮座する巨大な魔石だ。これを回収することで、ダンジョンは緩やかに消滅していく。


 まあダンジョンの数自体は変化しないと考えられているので、消滅しても新しいダンジョンが出現するんだけどね。


 それでも問題がある。


 それは、新たに出現するダンジョンのランクは、完全にランダムだということだ。


 これは、ダンジョン黎明期に実際にある国で起こった有名な出来事だ。その国は〈ダンジョンコア〉の回収を積極的に行う施策をとった。1個回収すれば、一生を遊んで暮らせるお金が支払われる。


 するとどうなるか。コアを回収しやすいFランクやEランクダンジョンが根こそぎ消滅した。Dランクダンジョンもほとんど消滅し、Cランクダンジョンも大きく数を減らした。残ったのは、攻略が難しく、誰も手を付けないBランクとAランクダンジョン。


 実力のある冒険者はコアを売却したお金で早抜けし、FランクやEランクダンジョンが無いせいで新規の冒険者が育たない。結局その国は、Aランクダンジョンから発生した〈ダンジョンブレイク〉によって、事実上主権を失った。


 この出来事を受けて、世界冒険者協会では、積極的な〈ダンジョンコア〉の回収を非推奨としている。


 日本もその方針に沿って、慎重に回収するコアを選定している。その努力の結果、日本のダンジョンは、AランクとBランクの数が全体の25%、CランクとDランクは35%、EランクとFランクは40%となっている。


「消滅したのは関東局エリアのFランクダンジョンよ。それで、新たに出現したダンジョンは推定Cランク以上。この新たなダンジョンの調査が、今回のBランク冒険者試験というわけね」


「こういう試験は過去にあったんですか?」


「状況は違うけれど、新たなダンジョンの調査が試験になったことはあるわ」


「ダンジョン審判教の関与が、秘密保持契約の理由ですか?」


「審判教なしでも秘密保持契約は結ぶ手順になってるの。だけど無関係ではないわね」


 つまりは、新しいダンジョンが出現した理由の部分が少し――、いや、かなり問題ではあるけど、ダンジョンの調査を冒険者試験にすること自体は普通のことということだ。


「どうかしら。私としては明ちゃんと愛里ちゃんに手伝ってもらえるとありがたいんだけど。ああ、言い忘れていたわ。調査には私を含む5人パーティーを組んでもらうわ」


 理恵さんの強さは折り紙付きだ。臨時パーティーを組んでいる時は知らなかったんだけど、Aランク冒険者だったみたい。そりゃあ強いわけだ。


「私はやってみても良いと思うんだけど、愛里ちゃんはどうする?」


「私も良いですよ。理恵さんとは知らない仲じゃありませんし!」


 ストーカーに間違えられたりしたもんね。あの時は愛里ちゃんがお世話になりました。


「ありがとう2人とも。それじゃあ詳しい話は資料を見ながらにしましょうか」

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