第1話 混雑するなら控えよう
【まえがき】
5章開始です。よろしくお願いします。
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冒険者協会での生産系〈スキル〉の発表を終えて、私たちはダンジョンでの活動を控え、少しゆっくりすることにした。
生産系〈スキル〉の反響は凄まじく、冒険者になろうとする人、冒険者として復帰する人、野次馬、ダンジョン研究者などが、冒険者協会やダンジョンに殺到し、一時は入場制限がかかるまでになった。
その混乱に巻き込まれるのも嫌なので、落ち着くまでゆっくりしようというわけだ。
で、この期間に何をしていたかというと――、
「あ、明さんっ。次はこれっ、これを、着てみて、くださいっ」
「これは、チャイナ服?」
ひたすら生産活動をしていました。換言すると、コスプレ活動とも言う。
一番やる気に溢れていたのは茜ちゃんで、〈裁縫〉スキルがレベル6になったと言えば、その熱量が分かるだろう。
きっとダンチューブでのセーラー服生配信が大うけしたのが嬉しかったんだね。
茜ちゃんの熱量を直に感じている身からすると、コスプレ冒険者が量産されるのも、そう遠くない未来の出来事なのかもしれない……。ちょっと和ロリ専門店『流々(りゅうりゅう)』に相談してみようかな。
「茜ちゃん、コスプレはいいけど、冒険者試験の日程は決まったの?」
コスプレ活動をする一方で、冒険者協会が対処に追われているため、茜ちゃんのCランク冒険者試験が延期となってしまった。
「つ、次の、土曜日、ですっ。1人で、大丈夫ですっ」
ようやく今の環境にも慣れてきた茜ちゃんは、最近1人でも外出できるようになった。以前は誰かにくっ付いていないと不安で、自由に時間が取れる私か愛里ちゃんと常に一緒だった。それが成長したもんだ。
「私がこっそりついて行きますので、心配しないでください!」
愛里ちゃんがこそっと提案してくれた。でも茜ちゃんにもバッチリ聞こえていると思うよ。
ほら、茜ちゃんの顔が赤くなって膨れてる。あれは、一人で大丈夫だもんという反抗心がありつつも、でも嬉しいという気持ちもあって、文句が言えないって顔だ。
「愛里ちゃん、からかったらダメですよ。茜ちゃんも膨れない。なでなでしてあげますね」
「うぅ~っ」
お姉ちゃんが板についてきた彩華ちゃんが、茜ちゃんをなでなでしている。
愛里ちゃんが茶々を入れて、茜ちゃんが膨れて、彩華ちゃんがなでなでする。これが私たちの最近の黄金パターンだ。
で、結局試験の日が休日と言うこともあり、全員で茜ちゃんのCランク冒険者試験に同伴している。
普段は猫背で自信がなさそうなのに、剣を構えるとスッと達人のように背筋が伸びるのは、何度見てもちょっと可笑しい。これも転生特典スキルの影響なんだろう。
「それでは、始めっ!」
「ふっ!」
開始1秒で試験官の剣を断ち切って、余裕の合格だ。剣を仕舞った瞬間、また猫背に戻っちゃった。
「や、やりましたっ。合格しましたっ」
「おめでとう、茜ちゃん!」
「おめでとうございます」
「帰ったらお祝いだね」
お祝いにはもちろん鶏の照り焼きだ。しかもただの照り焼きじゃない。プレーン、はちみつ入り、スパイス増量の3種の照り焼き盛り合わせだ。
「明さんと愛里ちゃんのBランク冒険者試験はいつになりそうですか?」
食後に茜ちゃんを甘やかしていると、彩華ちゃんが質問してきた。ちなみに甘やかしスタイルは、私の膝の上に茜ちゃんが座り、左右から愛里ちゃんと彩華ちゃんがサンドイッチする密着型陣形だ。
「なかなか日程が決まらないみたい。今はどこも忙しいから」
「Bランク試験って特殊みたいですよね。試験できる人も少ないみたいです」
愛里ちゃんが言うように、Bランク冒険者試験はCランクのものと違って、ダンジョン内での専門性を特に重視する。
アタッカーなら戦闘力が、斥候なら索敵や罠発見能力が、ヒーラーなら回復能力が、といった具合だ。
Bランク冒険者となれば、最高難易度のAランクダンジョンへも入ることが可能になる。そこで十分やっていけるかどうかを判断するには、試験官にも相応の実力が求められる。
そうすると、必然的に試験官になれる人も少なくなる。
「ど、どんな、試験を、するっ、んですか?」
「それは特に決まってないみたいなんですよね。訓練場で手合わせしたり、ダンジョンへ入って実際にモンスターと戦ったり、いろいろみたいです」
「まだまだBランク冒険者以上は少ないですから、冒険者協会としても手探りなんでしょう」
「無理にランクを上げる必要もないし、連絡があるまでゆっくりしよう」
「そうですね!」
そんなことを言いながら、久しぶりに4人で眠り、翌朝。私と愛里ちゃんに、Bランク冒険者試験実施のお知らせが届いた。
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