第26話 退出するならミステリアスで
「きっと牛や豚も同じにゃ!」
「ありがとうございます、猫神ちゃん。というわけです。質問の答えとして、これでよろしいでしょうか」
「あ、はい」
強引に押し切った! 猫ちゃんって魔力得られるんだ。ということは、茜ちゃんとダンジョン前で生活していた猫ちゃんたちも魔力を得ていたのかな。
確かに普通の猫ちゃんよりも賢い気がしていたけど。特にボスの座を継いだ灰トラちゃんね。漁港や市場との良い関係は、ちゃんと続いているみたい。
「時間ですので、最後の質疑とします。質問がある方は挙手を」
最後はびしっと決めたいね。さあ、どんな質問が来るのか。いや、私たちに向けた質問じゃない可能性もあるか。
「はい。そちらの奥の女性の、はい、あなたです」
「ありがとうございます。ニッポン新聞の宮地と申します。『マヨヒガ』の皆さんは全員女性ですが、伴侶などはいらっしゃるのでしょうか」
これまたずいぶんプライベートな質問だね。今回の発表とは全く関係ないけど、最後の質問がそんなので良いの?
「あたいはいないっス! しいて言えば玉藻さんっス!」
「ボクも同じです」
「そうにゃぁ!」
え、ちょっと待とうか。なんかこれじゃあ、『マヨヒガ』が私のハーレムパーティーみたいになってるよ。
こら、記者さんたちも興味津々って顔をしない。君枝ちゃんなんて、すっごく笑顔じゃないの。山根ちゃんを見習いなさい山根ちゃんを。
「ふふ、冗談はさておき。あいにくと伴侶はおらんのう。ところで、最後の質問がこのようなもので良かったのか?」
「はい!」
「元気が良いのう」
まあ周りの記者さんたちも頷いているし良いか。
「それでは質疑応答を終わります。『マヨヒガ』の皆さんありがとうございました」
「うむ。こちらも珍しい機会を得て、楽しめたぞ」
「楽しかったっス! またやりたいっスね!」
「ボクも楽しかったです」
「にゃあ、頑張ったから帰ったら褒めて欲しいにゃ! バイバイだにゃ!」
「それではの。研鑽を怠らぬよう、遠くから見守っておるぞ」
よーし、ここからが本番! ミステリアス退出だ!
「ほっ」
柏手を1つ。開いた掌からは多数の呪符が飛び出した。
これを、こうじゃ!
皆の体に呪符が張り付いていく。全身を覆った呪符が一瞬だけ発光し、弾けた。
あとに残るものは何もない。呪符が消え去れば、『マヨヒガ』がいた痕跡は1つも残らずに消えた。
『むふ、完璧』
『決まりましたね!』
『緊張しました』
『は、早くお家に、か、帰り、ましょう』
呪符が体を覆った瞬間、獣化し全力で隠れたのだ。さすがに大勢の人の目が向いている時に、姿を消すのは難しい。だから呪符で目隠しをしたわけだ。
あとはこの場が収まった後に、こっそり部屋を抜け出せばミッション完了だ。
「『マヨヒガ』の皆さんはお帰りになられたようです」
さすが山根ちゃん。さす山だ。いち早く正気を取り戻した。予定通りにこの発表を終わらせるつもりだ。
「これで生産系〈スキル〉についての発表を終わります。本日使用した資料は、本協会ホームページからダウンロードが可能です。また、Q&Aページも開設いたしますので、そちらも併せてご確認ください。では最後に長谷川の方から挨拶を」
「本日はお集まりいただきありがとうございました。生産系〈スキル〉の可能性については、まだまだ確認段階であります。ですが、その有用性の一端は、本発表で示せたと考えています。また、この情報を与えてくださった『マヨヒガ』の皆さん。彼女たちにはスタンピードの際にも大変な助力を頂きました。彼女たちに失望されないよう、冒険者協会として尽力していく所存です。ありがとうございました」
『おー、君枝ちゃんかっこいいですね!』
愛里ちゃんが言うように、最後の挨拶をする君枝ちゃんは気力というか迫力というか、なんかすごかった。それを聞く記者さんたちも、心なしか背筋が伸びている気がする。
『ボクたちの情報が役に立ったならうれしいです』
まずはポーション生産からだけど、そのうち武器や防具も良いものが作られるだろう。そうしたら、ますますダンジョンの攻略が進む。ロールプレイも安泰だ。
『は、早く帰りたいにゃ……』
ああ、よしよし。もうちょっとだからね茜ちゃん。もうちょっとだけ頑張ろうね。
その後、ドアが開いた隙に一目散に脱出し、リューちゃんに乗ってちょっぱやで帰宅した。
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