第25話 質疑応答ならロールプレイで

「うむ。協力した理由、それは――、世界を楽しむためじゃ」


 冒険者が弱くなると、ダンジョンの攻略が進まない。ダンジョンの攻略が進まないと、ダンジョンブレイクが危ない。するとどうだ、ロールプレイで遊んでいる場合じゃなくなる。


 そんなのはダメだ。


 この現代ファンタジー世界を、そしてロールプレイを楽しむためには、強い冒険者は必須! そのためには協力するのだってやぶさかではない!


 というのを、幾重にもオブラートに包んで、叩いて成型し、丁寧にラッピングして、見栄え良く語った。もはや別物だった。


「というわけじゃ」


「ありがとうございます。冒険者協会としてもご協力にお礼申し上げます」


「よいよい。川口もこれで良いか?」


「はい! お答えいただきありがとうございます!」


 立ち上がり、きっかり90度のお礼をして、川口さんが座った。着席した川口さんは、隣に座る同僚?から肩を叩かれ、目元を手で覆っている。何なんだ一体。


「他に質問のある方。はい、そちらのグレーのスーツの方」


 おっと、質問に集中しないと。


「全日放送の下村と申します。『マヨヒガ』の皆さんはとても特徴的なお姿をされていますが、どういった種族――という言い方が適切か分かりませんが、失礼でなければ教えていただけないでしょうか」


 これは皆気になっていることだろう。耳と尻尾が生えてるもんね。気にならないわけがない。


 でもそれに対する答えを私たちは持っていない。


 何かから進化してこの姿になったとか、遺伝子の影響だとか、ダンジョンの影響だとか、はたまた異世界からの来訪者だとか、そういう説明を受けて転生したわけではない。


 けれど、人に類するものであるのは確実であろう。つまり人類だ。健康診断でも特に異常はない。


「玉藻の前さん。この質問にお答えいただくことはできますか?」


「うむ。問題ないぞ」


 山根ちゃんの質問に問題ないと言ったものの、さてどう説明しようか。


「玉藻さん、ここは私にまかせて欲しいっス!」


 愛里ちゃん、何か策があるの? まあ何を言ったところで、確認する方法はないんだし、まかせてみるのも良いか。


「では真神、頼んだぞ」


「はいっス! えー、あたいたちの種族っスが……、人類っスね。進化した人類と思ってもらえれば良いっス!」


『人類』と『進化』のワードに、記者たちがどよめいた。


 え、そうなの? あっ、〈鑑定〉か! 〈鑑定〉で確認したの? いや待て、あの愛里ちゃんの顔は、口から出まかせの顔だ。ちょっと口がむにむにしているぞ。


 自分から新たな設定をぶっこんでいくとは、愛里ちゃんもロールプレイが楽しくなってきたんだね。いいでしょう。その設定、採用!


 いやー感慨深いものがあるね。最初は名前を決めるのさえ戸惑っていた愛里ちゃんが、新しい設定を考えるだなんて。これが成長ってやつか。


「あの、進化の条件などは……」


「それは秘密っス!」


 良い笑顔で言い切った愛里ちゃん。楽しそうだね。


 きっと研究者たちは、この言葉に踊らされて苦労するんだろうなぁ。頑張って欲しい。わんちゃん進化する可能性もなくはないしね。悪魔の証明ってやつだ。


「あ、でも……。『非人道的なことをしたら、永劫に進化できぬからな』……なんちゃってっス!」


「……」


 でたー! 愛里ちゃんの地の底から響く声だー! お顔もニコニコ顔から一転して凶悪になって、部屋の中の温度が少し下がっております。これは〈水魔法〉も併用しているね。芸が細かいよ愛里ちゃん!


 真神ロールプレイが固まってきた感じがするね。とっても良いよ。うん。


「説明ご苦労じゃ」


「はいっス!」


「研鑽を積めば自ずと答えは見えてこよう。下村よ、これで良いな?」


「は、はい」


 下村さんの顔が少し青い。でもこれロールプレイだから、許して欲しい。ごめんね。


「他に質問のある方」


 そして山根ちゃんはいつも通り。挙がる手はちょっと減っちゃった。


「はい。そちらの方」


 次はどんな質問だろうか。できれば、彩華ちゃんや茜ちゃんが答えられるような質問がいいな。2人にもロールプレイを楽しんでほしい。


「中央テレビの小林と申します。生産系〈スキル〉として5つご説明がありましたが、その他の〈スキル〉はないのでしょうか。推測でも良いので、もしあればどのようなものか教えていただきたいです」


 お、これは彩華ちゃん向けの質問じゃないだろうか。転生特典スキルの〈錬金術〉の効果か、彩華ちゃんは生産系〈スキル〉に鼻が利く。推測でも良いって言ってるし、彩華ちゃんにまかせてもらおう。


「キムンカムイよ、どうじゃ?」


「はい、ボクの推測で良ければ。まず〈料理〉です。食材に魔力を持たせることができれば、〈料理〉スキルが取得できると考えられます。次に〈付与〉。これは人工的に〈マジックアイテム〉を作り出せる可能性があります。ただし、かなり生産系〈スキル〉に精通していないと取得は難しいでしょう」


「しょ、食材に魔力、ですか」


「はい。重ねて推測ですが、ダンジョン内でモンスターを倒した動物には魔力が宿る可能性があります。人間がそうですから。そうした動物を繁殖させれば、魔力を持った食材が得られるのではないでしょうか」


 彩華ちゃんは推測と言っているが、確信を持った言い方だ。海へ遊びに行ったときに、〈料理〉スキルについて考えてみると言っていたけど、何か情報を得たのかも。


 バフ料理とかあるのかな? あれば食べてみたいね。


「にゃ! 猫はダンジョンで戦えば魔力を得られるにゃ!」


 おっと、ここで茜ちゃんが参戦!

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