第24話 出演するなら生で

『こちら「フォックス」。周囲に人影無し。どうぞ』


『「ウルフ」了解! リューちゃんを召喚します! どうぞ!』


『こちら『ベアー』。監視カメラに欺瞞映像を送信しました。オールクリアです。どうぞ』


『にゃ!『キャット』はリューちゃんに乗ったにゃ! どうぞ!』


『よし。関東局に潜入成功。プレスルームはこの先だよ。どうぞ』


 ステルスゲームごっこをしながら潜入しているのは、本日生産系〈スキル〉の発表が行われる冒険者協会日本支部・関東局だ。


 無線でもないリアルタイム通話なので、コードネームとか「どうぞ」とかいらないんだけど、そこは成り切りと言うことで楽しく潜入しています。


『あった。プレスルーム』


『今のうちに中に入っちゃいましょう!』


 記者の入室に合わせて、プレスルーム内へと侵入成功。まだ生放送は始まっていないので、ざわつく騒音に紛れて難なく入れた。


『彩華ちゃん、出演映像の方はどう?』


『ばっちりです。最後は皆さんの動きに合わせてリアルタイムで修正します』


『わかった。あとは出番を待つだけだね』


 冒険者協会が行う発表への出演を打診され、それには「映像出演をする」と返答した。


 プレスルームに設置されている大型ディスプレイは、映像出演用でもあり、生放送に合わせて、Web会議システムで映像を表示させることになっている。


 だが待って欲しい。「映像出演をする」とは言ったが、映像出演『だけ』をするとは言っていない!


 山根ちゃんも言っていた。「どのような形でも良い」と。どのような形でも良いってことは、どのような形でも良いってことだ。


『あ、生放送が始まりました』


『にゃ! 映ったにゃ!』


 しばらくして、プレスルームに山根ちゃんたちが入ってきた。いよいよだ。あとは出番を待つだけ。


 一応の流れとしては、一通り説明した後、質疑応答にはいり、『マヨヒガ』に関する質問があれば私たちの出番となる。質問がなければ、最後に「実は……」という形で私たちの出番だ。


 わくわくしてきたぞ!


 君枝ちゃんの説明が終わり、山根ちゃんの説明も終わり、いよいよだ。


「そちらのグリーンのネクタイの方」


「ありがとうございます。関東放送局の小田と申します。長谷川局長は『ある団体』の協力の下、生産系〈スキル〉の発見に至ったとご説明されましたが、その『ある団体』とはどういった団体でしょうか。お答えいただけますでしょうか」


『きた! 「マヨヒガ」関連の質問ですよ!』


『皆準備して。順番は私、愛里ちゃん、彩華ちゃん、茜ちゃんだよ』


『了解っス!』


『はい』


『にゃあ!』


「お答えいたします」


 山根ちゃんの声が聞こえた。ここからは、ディスプレイに『マヨヒガ』の映像が映る手筈になっている。


 まあ映るのは、獣化した私たちの映像なんだけどね。


 あ、映像を見た山根ちゃんが驚いている。ツッコミはなしだよ。


『さあ、いくよ』


 映像に合わせて、ディスプレイの前へ飛び出した。


〈隠密〉、魔法、〈マジックアイテム〉の効果を消して、姿を現す。くるりと1回転し、ここで変身!


 玉藻の前の姿になりつつ、尻尾の先までミステリアスを意識する。正面からは、広がった髪と尻尾で満月のように見えただろう。そして、一瞬だけ〈呪符〉を使って滞空した後、ふわりと着地した。


 ――決まった。100点満点のミステリアス出現だ。


 私に続いて、真神、キムンカムイ、猫神が現れた。


 さあ、山根ちゃん、お願いします!


「こほん――、お答えいたします。ある団体とは『マヨヒガ』の皆さんです」


「『マヨヒガ』の玉藻の前じゃ」


「真神っス! よろしくっス!」


「キムンカムイです。よろしくお願いします」


「猫神にゃあ!」


 時が、止まった。記者たちの目は、これでもかと大きく開き。中には口まで開いている者もいる。むしろこの場面で動けた山根ちゃんがすごいのか? さすがだ。


「ふむ。小田と申したか。質問の答えはこれで満足かえ?」


「あ、え、はい。あっとぉ、はい。ありがとうございました」


「ふふふ。まるで狐につままれた様な顔じゃな」


 これがお狐様ギャグです。


「『マヨヒガ』の皆さんありがとうございます。改めてご紹介する必要はないとは思いますが『マヨヒガ』の皆さんです。彼女らのご協力の下、生産系〈スキル〉の発見に至りました」


「「「「おおおお!!」」」」


 そして時が動き出した。何かを吐き出すような咆哮が記者から放たれる。ちょっとびっくりしちゃった。でも気持ちは分かるよ。良いリアクションをしてくれて大満足だ。


「静粛に願います。静粛に。質疑はまだ受け付けます。挙手をして、指名されてから発言してください」


 ピタリと咆哮が止み、指先までピンと伸びた挙手は、記者たちの熱意を感じさせる。


 映像出演の場合でも、質問は受け付ける予定であったので、このまま質疑を続けるようだ。


「はい。そちらのメガネをかけた方。はい、あなたです」


「ありがとうございます。冒険者新聞の川口と申します。『マヨヒガ』の皆さんがご協力したとのことでしたが、どういう理由から冒険者協会と協力するようになったか、ご説明いただけないでしょうか」


「この質問は妾が答えた方が良いじゃろう」


「ありがとうございます。玉藻の前さんの方から説明いたします」


 冒険者協会には、冒険者の強化について、ということから始めた協力だ。特に私たちの意図とかは説明してない。まあ、ダンチューブのあれこれとか、戸籍とか、対価を貰っているので、それが理由と考えているのはあるかも。


 でもそれらは別に重要じゃない。重要なことはもっと他にある。


「うむ。協力した理由、それは――、世界を楽しむためじゃ」

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