第23話 特番!冒険者協会日本支部・関東局の発表とは!?(第三者視点)

 闇夜に紛れ、小さな4つの影が忍び行く。


 音もなく、その身は見えず、側を通ってもあるのは少しの風だけ。


 アスファルトの上を走り、時に塀の上へ、時に木々の合間を、4つの影は夜の街を行く。


 目指すは冒険者協会日本支部・関東局。




 冒険者協会日本支部が重大発表を行う。その告知は、公式ホームページ、公式SNS、マスメディアへの通知、発信できる全ての媒体へ同時に行われた。


 当然世間の反応は大きいものだった。


 直近でそうした発表が行われたのは、6月の終わりのスタンピードの際だ。今回もそうしたものかと身構えそうになるが、悪い発表ではなく、むしろ良い発表が行われるとのことであった。


 これを受けて、どういった発表が行われるか、(自称)専門家たちは無いこと無いこと好き勝手に予想している。それに対して(自称)専門家が反論するところまでがいつもの光景だ。


 そして今日、冒険者協会の発表が生放送で行われる。全ての放送局(1つを除く)が緊急特番を企画し、中継放送を行う。


『あ、今、冒険者協会職員が入室されました。ここからは、中継映像のみでお届けいたします。どのような発表が行われるのか、私どもも知らされておりません。皆さんお見逃しの無いよう、そのままご視聴ください』


 ざわざわとした音がする中、冒険者協会職員が3名、プレスルームへと入室した。


 2人は女性。協会のトップである長谷川君枝と、協会所属冒険者の後藤理恵だ。後藤理恵に関して言えば、『マヨヒガ』と交流を持った冒険者としての方が有名だろう。


 最後の1人は男性で、総務課長の山根博。


 3人が席に着いた。ほぼ中央に座るのは山根。そこから向かって左に後藤と長谷川が座った。右側の空いたスペースには、説明用なのか大きな液晶ディスプレイが設置されている。


「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。冒険者協会日本支部・関東局、総務課課長の山根です。事前にご説明した通り、本発表の間、撮影等は一切禁止いたします。それでは長谷川より、本発表の趣旨を説明いたします。また、詳細については私、山根が説明いたします」


 山根が話し始めると、ざわついた室内は一気に静まり返った。撮影が禁止されているため、一般的な会見のようなシャッター音はない。


 また、パソコンやスマホの持ち込みも制限されている。そのため、唯一持ち込める紙とペンの音のみが書き鳴らされ、さながら大学の講義のようだ。


「冒険者協会日本支部・関東局局長の長谷川です。本日はお集まりいただき、ありがとうございます。さっそくですが、本発表の趣旨をご説明いたします。当協会では、ある団体の協力の下、生産系〈スキル〉の発見に成功いたしました。本日は、当該〈スキル〉の情報を公開いたします」


 発表を聞く記者たちの動きが、一瞬だけ止まった。


 冒険者協会へ派遣される記者たちは、当然だが協会や冒険者についての知識を有している。もちろん〈スキル〉についても、十分な知識を持っている。


〈スキル〉とは、〈ステータス〉と同時に得られる力であり、モンスターを倒すための力である。


 生産系〈スキル〉は、存在こそ予想されていたが、どの国も、どの団体も発見することはできず、いつしか〈スキル〉とは戦闘に関するものだけだと思われるようになった。


 それを発見したと。


 声なき声が室内を満たし、熱気は否応にもなく上がっていく。世紀の大発表、その瞬間が今ここである。


「詳細は山根より説明いたします。山根」


「まずはこちらのディスプレイをご覧ください。こちらが当協会で確認した生産系〈スキル〉です」


 山根の向かって右側に置かれたディスプレイに、5つの〈スキル〉名が表示された。


『〈調合〉、〈裁縫〉、〈鍛冶〉、〈木工〉、〈細工〉』


 カリカリと筆記用具の音が大きくなる。残念ながら、発表資料を紙媒体で配布してはもらえなかったため、必死に手書きでメモをとっているのだ。


「各〈スキル〉について説明いたします」


 さながら大学の講義と言ったが、これは完全にそのものだ。


 ディスプレイに映し出された資料、山根の一言一句、記者たちはそれらを必死にメモしていく。疑問点を明確にしておくのも忘れない。何故なら、質疑応答の時間があるから。


「以上で各〈スキル〉の説明を終わります。最後に、皆さんの質疑に答える時間をとります。質疑のある方は挙手をしてください」


 ザッ!


 全員の手が、これでもかと真上に上がった。


「そちらのグリーンのネクタイの方」


「ありがとうございます。関東放送局の小田と申します。長谷川局長は『ある団体』の協力の下、生産系〈スキル〉の発見に至ったとご説明されましたが、その『ある団体』とはどういった団体でしょうか。お答えいただけますでしょうか」


 これはある予想に基づいた質問だった。


 この場にいる全員が薄々感付いていた。尋常でない発見には、尋常でない団体が絡んでいるだろう。


 そのような団体には、1つしか心当たりがない。


「お答えいたします」


 説明用の大型ディスプレイに動画が映し出された。


 ややアニメ調の草原に、4匹の動物が映っている。


 1匹は、金色の狐。丸まって眠っているのか、前足を枕に目を閉じている。


 1匹は、水色の狼。他の2匹の周りをぐるぐると駆けまわっている。


 1匹は、茶色の熊。座り込んで、手に持った猫じゃらしをふりふりと振っている。


 1匹は、金色の猫。熊の膝の上に寝転がり、猫じゃらしに向けてパンチを繰り出している。


 金色の狐の耳が不意にこちらへ向いた。顔を上げ、こちらを見ている。それに釣られるように、残り3匹もこちらを向いた。


 そして駆け出し――、大型ディスプレイから飛び出した。

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