第22話 隠密ならもふもふで

「明さんの毛色は、金色じゃなくて黒なんですね!」


「そうみたい。玉藻の前の姿は〈変身〉スキルの結果で、本来の姿はこっちだからね」


 獣化した手足や尻尾を確認すると、毛色は黒だ。体の大きさは、茜ちゃんと同じくらい。


 皆の体の大きさを比較すると、一番大きいのが彩華ちゃん(熊)。立つと頭の天辺が70センチくらい。次が愛里ちゃん(犬)で体高40センチくらい。私と茜ちゃんはそれよりも小さくて体高30センチ弱くらい。


「ボクが一番大きいです」


 足元でわちゃわちゃしている私たちを、立ち上がった彩華ちゃんが見下ろしている。手は当然腰の位置だ。


 でもね彩華ちゃん、愛里ちゃんのベッドを守護するテディベアの方が大きいよ。「あ!」って顔した愛里ちゃんがテディベアを咥えて戻ってきた。


 がおーポーズで威嚇しても、やっぱりテディベアの方が大きいね。でも可愛さなら負けてない。彩華ちゃんもわちゃわちゃしよう。


「きゃー!」


「にゃー!」


「わん!」



 さて、一通りもふもふを楽しんだ、もとい、獣化をマスターした翌日。策の2に取り掛かろう。


 やって来たのは人気ダンジョンである〈狼ダンジョン〉。


「今日からは隠密の訓練だよ」


 隠密の訓練と言っても、〈隠密〉スキルだけの訓練ではない。


「愛里ちゃんは〈水魔法〉で見た目の偽装をする」


「はい!」


 体の表面に〈水魔法〉を纏うことで、周囲の景色に溶け込むことができる。スタンピードのときに一度やったやつだ。


「彩華ちゃんは〈消音の小鈴〉で私たちから出る音を遮断する」


「分かりました」


〈消音の小鈴〉は、使用者から出る音を消す効果がある。これによって、音を気にせず隠密できる。


「私は〈火魔法〉で皆の体温を隠す」


 熱を持つ物体は、赤外線を放つ。暗闇でも映るカメラは、こうした可視光以外の電磁波を感知している。体温を周囲に溶け込ませることで、少なくとも赤外線カメラはごまかすことができる。


「茜ちゃんは……、どうする?」


「にゃ! か、〈雷魔法〉で、えっと、その、あっ! エンチャントっ、します。反応速度、とかが、上がる、と、思います」


「ちょっとかけてみてくれる?」


「はいっ」


「あっ、待ってください! 茜ちゃん、呪文を一緒に考えましょう!」


「そ、そうでしたっ」


 そうだった。茜ちゃんの呪文は、ちょっと権利関係で危ないんだった。愛里ちゃんが気付いてくれて良かった。


 2人であーでもない、こーでもないと顔を突き合わせて話し合っている。茜ちゃんもだいぶ慣れてきたようで嬉しい。


「で、できましたっ」


「うん。じゃあお願い」


「いきます。カンムr「ストップ!」わっ!」


 ストップだよ茜ちゃん。ちょっとこっち来ようか。うん、『神速』と書いて、そう読ますと。うんうん、アウトだね。もう1回考えようね。


「愛里ちゃん、わざとでしょ」


「えへへ、ごめんなさい!」


「茜ちゃんもいたずらしないの」


「えへへ」


「もう、2人で笑って」


「ふふ。仲良しですね、明さん」


 まあいいけどね。遠慮がなくなってきたってことなのかな。


「いきます。『スピードアップ』!」


 普通だ。あ、いや、エンチャントの効果自体はとっても良いんだけど……、技名が普通だ。むしろ普通過ぎて違和感があるレベルで普通だ。


 反応速度に加えて、敏捷や動体視力も上がっている様に感じる。やっぱり効果は良い。


「魔法の重ね掛けと〈マジックアイテム〉、あとは〈隠密〉を全開にしていれば、誰にもバレずに潜入できるはず」


「ちょっと試してみませんか!」


「うん。じゃあ皆、まずは獣化だよ」


「にゃ!」


「はい」


 一瞬でもふもふパラダイスの完成だ。そして、各々が魔法をかけていく。


「私の〈水魔法〉だと、お互いの姿も見えなくなっちゃいますね」


「〈消音の小鈴〉は会話さえできなくなるので、対策が必要そうです」


「私と茜ちゃんの魔法は大丈夫そうだね」


「そうにゃ!」


 いきなり問題が発生してしまった。


 姿が見えない問題は、一応〈気配察知〉や匂いでなんとかならなくもないが、〈隠密〉スキルも併用することを考えると、それに頼るのも危うい。


 会話ができない問題は、姿が見えない問題と合わせると大問題だ。意思疎通ができないと事故が怖い。


「少し待ってもらえますか。対策できる〈マジックアイテム〉を作ってみます」


 おお、さすが彩華ちゃんだ。何か良い〈マジックアイテム〉を思いついたみたい。


 熊の姿のままで、愛里ちゃんからいくつか素材を受け取り、そのまま短い両手で〈錬金術〉を発動する。可愛いね。


「できました。骨伝導マイクと骨伝導スピーカーによる通信が可能な〈骨々伝々(こつこつでんでん)〉です」


 形状は、厚みのある丸いシールのようなもの。マイクは2つのシールが線で繋がっていて、喉の左右に張り付ける形になる。スピーカーは耳の側に張り付ける。


 体毛があって装着が困難かと思いきや、スッと張り付いて少し驚いた。


『あーあー。テステス。どうですか?』


『ばっちりだよ彩華ちゃん!』


『すごいにゃ!』


『これで会話できない問題は解決だね』


 もう1つは姿が見えない問題だ。


『それはこちらを手足にはめてください』


 手渡されたのは、1センチ幅くらいの細い輪っか。名前は特にないらしい。


『そして、この〈姿見える君1号〉を装着すれば』


 モノクル型の〈姿見える君1号〉は、〈骨々伝々〉と同じようにピタリとくっついて片目を覆っている。モノクルを通すと、皆の姿に被さる様にワイヤーフレーム?っぽいのが見えた。


『愛里ちゃん〈水魔法〉を使ってみてください』


『はい! それ!』


〈水魔法〉で姿が消えると、ワイヤーフレームだけが残された。手足に着けた輪っかの動きを感知して、体の形をモノクルに映し出しているんだとか。はー、すっごい。


『すごいにゃ! すごいにゃ!』


『これで問題は解決ですね』


『さすが彩華ちゃんです!』

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