第18話 冒険者試験なら合格で
数日も経てば、茜ちゃんのひっつき虫も少しおさまってきた。少しね。
そして次にやることと言えば、そう、お勉強だ。冒険者になるためには、学科試験に合格しなくてはならない。
とは言っても、少し前に学科試験を突破した私たちがいるので、それほど心配しなくても良いだろう。
今は、手が空いた彩華ちゃんが勉強を見てくれている。
「茜ちゃん、そこはよくある引っかけです。以下なのか未満なのか問題を良く読みましょう」
「は、はい」
「正解です。良くできましたね」
「な、なでなで」
すっかり末っ子としての立場を確立した茜ちゃんをなでなでしながら、彩華ちゃんがうっすらと笑った。
茜ちゃんの存在は彩華ちゃんにも良い影響を与えているようだ。あといつの間にかちゃん付けに変わっている。
「できました! これが茜ちゃん用のもふ玉です!」
愛里ちゃんは、宣言通り裁縫を頑張り、無事〈裁縫1〉を獲得した。〈調合〉スキルもあることから、ポーションにもふ玉にと日々生産スキルを磨いている。
私はと言うと、ひたすら〈裁縫〉スキル上げだ。シャツ、パジャマ、ブラウス、スカート、彩華ちゃんが用意してくれた型紙を使って、快適衣類を作りまくり。皆は着まくり。
たまに茜ちゃんも一緒になって作業する。そういう時はひっつき虫になっていることも多いので、作業半分、茜ちゃんを甘やかすのが半分って感じ。
愛里ちゃんや彩華ちゃんがちょっと遠慮しがちになることもあるので、2人のこともちゃんと甘えさせてあげないとね。
「どうしたんですか明さん? 急に私の頭をなでて。嬉しいですけど」
「明さん?(高速耳ピコピコ!)」
「もっと、な、なでなで」
よし、今日は3人一緒に寝ようか!
「茜ちゃん、いつも通りやれば大丈夫です!」
「しっかり勉強しましたからきっと受かりますよ、茜ちゃん」
「うん。皆で応援してる」
「は、ははは、はい!」
9月の第一土曜日は冒険者試験の日だ。保護者が応援に来るほどのものでもないが、心配だったので皆でついてきた。
初めて幼稚園に子供を預ける親は、こんな気分なのかもしれない。……さすがにそれは言い過ぎか。
「茜ちゃんは大丈夫でしょうか」
一番熱心に勉強を教えていた彩華ちゃんは、茜ちゃんが力を出し切れるかが心配のようだ。
知識自体は十分あるので、普段通りにできれば合格することは分かっている。
「大丈夫ですよ! 私は午後の体力測定でやらかさないかの方が心配です!」
午前中の学科試験に合格すれば、午後の実技試験――という名の体力測定――が行われる。
茜ちゃんはすでに〈ステータス〉を得て、〈身体強化〉スキルも持っているため、普通の人より圧倒的な身体能力を有している。
本気を出せば、期待の新人!みたいに注目されること間違いなしだ。
周りの人に合わせるように、とは言い含めてあるが、周りを観察する余裕があるかどうかが心配だ。
「その心配も学科試験を通ってからだよ。まずは合格できるよう応援しよう」
「そうですね! 茜ちゃん、頑張って!」
「頑張って!」
試験時間中、3人でむにむに祈り、ようやく茜ちゃんが戻ってきた。顔を見る限り、力は出し切れたようだ。
「だ、だだ、だいっ、じょうぶ、です」
その言葉通り、学科試験は合格。午後の体力測定も難なくパスして、無事冒険者試験に合格した。
翌日のダンジョン講習も基本的には、話を聞きながらダンジョンを歩くだけ。人見知りを発揮しつつもなんとか熟し、茜ちゃんはようやく冒険者としての第一歩を踏み出した。
「家に戻ったらお祝いですね」
「茜ちゃんは何か食べたいものある?」
「そ、それならっ、鶏の、て、照り焼きが、食べたいっ、です」
「良いですね!」
鶏の照り焼きか。作るのは簡単だし全然問題ない。
「み、皆と会って、初めて、食べたっ、思い出の、味」
もうね。いくらでも作ってあげちゃう。これからは好きな時に食べられるからね。
「それじゃあ皆で買い物に行きましょう!」
「そうですね。茜ちゃん、手を繋ぎましょう」
「は、はいっ」
「私も!」
茜ちゃんを真ん中にして、左右に彩華ちゃんと愛里ちゃんが手を繋いで歩く。あんまり横に広がっちゃ迷惑だよ。そうそう、邪魔にならないようにね。
スーパーでお買い物の最中も、カートを押す茜ちゃんの左右を彩華ちゃんと愛里ちゃんが固めて、末っ子をかまう姉妹のようだ。
茜ちゃんもそれを喜んでいるので、お母さん兼お父さんの私は優しく見守るのみ。
そのまま帰宅し、お料理の時も自分たちで作ると3人で並んだままだ。今日はとことんこのままで行くらしい。お夕飯を食べるときもそのまま、お風呂も3人で、ベッドも3人で。
そうすると、私は1人だけになってしまうわけだが……。くっ、これが親離れか。
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