第17話 猫ちゃんならお持ち帰りで

 茜ちゃんが猫神に成りきるために、衣装を考えることにした。「まず形から」と昔の人も言っている。


「み、みんなの、衣装は、どんなのにゃん?」


「あたいは狩衣っス!」


「ボクは毛皮を羽織っただけです」


「妾は巫女服じゃ」


 イメージを持ってもらうために、とりあえず『マヨヒガ』フォームにチェンジして衣装を見てもらった。


「うわぁ、すごいにゃん!」


「何か希望はあるっスか?」


「勇者っぽいのがいいにゃん!」


 お、だんだん茜ちゃんも調子出てきたね。にゃん語が自然になってきたよ。でも本人は気付いてなさそうなので、意識させずにこのままにしておこう。


「女性用と考えると、いわゆるドレスアーマーというものでしょうか」


 彩華ちゃんが提示したものは、ロングドレスの所々に鎧がくっついたもの。勇者の頭に「姫」が付きそうな見た目だ。


「にゃあ! かっこいいにゃあ!」


「気に入ったみたいですね。ですがこれは作るのが大変そうです」


 大変というか、現実としてどういう構造になっているか分かんないね。ドレスだけならどこかに型紙がありそうだけど、金属部分ってどう繋がっているんだろう。


「そのままじゃとちと難しいのう。少し考えねばな」


「それなら私が考えるにゃ! 前世ではコスプレをしていたにゃ! 部屋の中でだけにゃんだけど……、ふふふ」


 ああ、また茜ちゃんが暗黒面に。どこに暗黒面スイッチがあるから分からないから注意しないと。ほら、なでなでなでなで。


「うにゃぁ」


「猫神さんも〈裁縫〉スキルを覚えられるかもしれませんね。そうすれば衣装を作る助けになります」


 人手はパワーだ。増えれば増えるほどできることも増える。


「あたいももう一度裁縫に挑戦してみるっス!」


「ふふ、やる気じゃのう、真神よ」


「はいっス!」


 衣装を作るといっても難しい作業ばかりじゃない。少しでも手伝ってもらえれば十分だ。


 とりあえず、ここでの相談はこれで終わり。いろいろやってる内に結構時間がたっていて、もう夜も近い。


 茜ちゃんも愛里ちゃんの家に帰るので、その前にサブボスのにゃん次郎へ引継ぎを行う。幸いにも、にゃん次郎は〈門〉のすぐ外にいた。


「にゃう、にゃにゃう、うなぁ」


「にゃ、うにゃうにゃ」


「終わったみたいです!」


 可愛いだけの引継ぎが終わった。にゃん次郎は、灰色っぽい虎柄、灰トラだ。サブボスというだけあって、体も大きく貫禄がある。これからはボスとして頑張ってほしい。


「これで安心にゃ」


「あっ! 漁港のおじいさんにも言っておかないと!」


 ああ、確かに。私たちが探してるって言った後に金トラちゃんがいなくなったら、間違いなく私たちの仕業だってバレるよね。


 変な疑いをもたれる前に、こっちで保護するって言っておいた方が良い。


「この時間ですが、会えますか?」


「とりあえず行ってみよう。にゃん次郎も来てくれる?」


「にゃん? にゃうにゃ、うなぁ」


「にゃん」


「来てくれるそうです!」


 急いで漁港に向かい、おじいさんを探したが、残念ながら見つからなかった。これはまた後日になるかな。


「ちょっと待ってください。おじいさんのSNSアカウントを発見しました。これで連絡をとってみます」


 ナイスだ彩華ちゃん! その後無事におじいさんに会えて、金トラちゃんを引き取ることや、次のボスがにゃん次郎であることを伝えられた。


「なんでぃあんたら、猫の言葉が分かるってのかい」


 ズバリな指摘にびっくりしたが、とりあえず納得してくれたのでヨシ。


「それじゃあ我が家に帰りましょう!」


「うん。茜ちゃんはどこかで人の姿になってね。電車で帰るのに猫ちゃんの姿はまずいから」


「分かったにゃ」


 茜ちゃんの数少ない荷物は、〈門〉を囲う建物の側に埋めてあった。それらを回収し、無事帰宅。久しぶりの人間姿での外出に、茜ちゃんがひっつき虫になったけど、無事帰宅だ。


「ふわー。疲れましたねー」


 帰宅してすぐにもふ玉へダイブした愛里ちゃん。海へ遊びに行ったはずなのに、猫ちゃん騒動で茜ちゃんが増えちゃったりして疲れたからね。


 腰を下ろす前に、旅行で溜まった洗濯物を片してしまおう。3人から回収し、洗濯機へシュート。ついでに今日のお夕飯も作る。


「茜ちゃん、何か食べたいものある?」


 いまだにひっつき虫のままの茜ちゃんに尋ねた。


「明さんの、ご飯なら、な、なんでも、大丈夫、です」


 何でもと言うのが一番困るってやつだ。お魚は食べ飽きてるかもしれないから、やっぱりお肉かな。


「あ、ああ、あの、それなら、オ、オム、ライスが、食べたい、です」


「オムライスね。茜ちゃんはお料理できる? できるなら手伝ってほしい」


「で、でき、ますっ」


 茜ちゃんは自炊派でお料理は得意だった。教えずとも包丁を使えたので、野菜のカットをまかせて私は鶏肉を下処理。


「ふぐっ、ううっ、ぐすっ、うぅっ」


 今日だけで見慣れてしまった茜ちゃんの涙は、玉ねぎのみじん切りによるものだ。もう半玉残っているから頑張って。


 材料を切ったら、2人並んでチキンライスを作って、卵を薄く焼いたら完成だ。ちなみに卵は硬めのオムライスです。こっちの方が失敗が少ないからね。


「ご飯できたよー」


「はい!」


「明さん、茜さん、ありがとうございます。運びますね」


 茜ちゃん用の食器は、「こんなこともあろうかと」愛里ちゃんが余裕をもってお揃い物を準備してある。確か5人用のセットだったはず。つまりもう1人増えても大丈夫ってこと。


 さすがにまた茜ちゃんが泣きだすようなことはなく、ご飯を食べ終わった。洗い物は愛里ちゃんと彩華ちゃんにおまかせだ。


 そして私と茜ちゃんはお風呂へ。まだまだひっつき虫は持続中です。


「は、離れたら、消えちゃう、かも」


 こんなこと言われたら、離れてなんて言えないよね。とにかく今日は茜ちゃんと一緒にいてあげることにした。


 でも膝の上にくるのは、湯舟の中ではいいけど洗い場ではやめてね。危ないからね。

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