第16話 ロールプレイなら猫ちゃんで
サンドイッチを食べて小休止したあと、テントの中で皆でお昼寝をした。これは何て言うんだろうか。中休止? 大休止?
このダンジョンで出てくるのはスライムだけなので、テントをテキトーに何かで囲っておけば、問題はない。今回は彩華ちゃんの〈属性魔法【地】〉で土壁を作ってもらった。
問題になったのは、お昼寝する時の配置だ。私以外の3人による議論の結果、私を真ん中にして左右に愛里ちゃんと彩華ちゃん、そしてお腹の上に猫ちゃんになった茜ちゃんの配置に決まった。
別に人のまま茜ちゃんが乗っかっても大丈夫なくらいの体の強さはあるんだけど、見た目がね。
休憩した後は、改めて茜ちゃんの〈ステータス〉チェックをした。それがこちら。
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名前:新藤茜(しんどう あかね)
レベル:10
HP:260/260
MP:265/265
所有スキル:〈格闘術2〉、〈身体強化3〉、〈気配察知2〉、〈隠密1〉、〈軽業3〉、〈魔力操作1〉
転生特典スキル:〈剣術〉、〈盾術〉、〈雷魔法〉、〈回復魔法〉
状態異常:猫化
ダンジョン踏破証:Eランク
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転生特典スキルは、〈剣術〉と〈盾術〉の物理戦闘系に、〈雷魔法〉と〈回復魔法〉の魔法系。いわゆる魔法剣士というやつ。
「これで勇者ににゃれると思ったんだにゃ」
「茜ちゃんは勇者になりたかったの?」
「だって、勇者って陽キャだにゃ」
陰キャな性格をなんとかしたくて、まずは形からということで勇者になろうとしたらしい。方向性は議論の余地があるが、努力しようとしている点はえらい。
「〈雷魔法〉ってどんなことができるんですか?」
「使ってみるにゃ。デ〇ン!」
聞き覚えのある呪文を唱えると、尻尾の先から紫電がほとばしり、狙いとなった壁は一部が溶融している。
「茜ちゃん。その呪文は禁止ね」
「にゃ!?」
「愛里ちゃん。茜ちゃんが呪文を考えるときには相談にのってあげて」
「分かりました! かっこいい呪文を考えましょう!」
版権物はダメだよ版権物は。この世界にもしっかりと竜な冒険はあるからね。
続いて〈回復魔法〉。これは〈神聖魔法〉とだいたい同じ。臨時パーティーを組んだ悠ちゃんが使ってたやつだ。
あくまでHPやMPなどに作用するもので、肉体の怪我や病気を治す効果はない。むしろ無くて良かった。下手にそういう効果があると、誇張抜きに全世界から狙われただろう。
「怖いにゃ……」
「お金を手に入れた人の次の関心は健康です。茜さんにその能力がなくて良かったです」
健康のありがたみが一番よく分かっている彩華ちゃんの言葉は重い。誰を治すか、どこまで治すか、そんな悩みを茜ちゃんが抱え込む事態にならなくて良かった。
「〈剣術〉と〈盾術〉は試したことあるの?」
「にゃいにゃ。買うお金もにゃかったし……」
入ったことのあるダンジョンは、この〈スライムダンジョン〉だけで、猫ちゃんの姿で戦っていたため道具を使った経験もない。
私の〈鉄扇術〉には基本装備の鉄扇が付いてきたけど、茜ちゃんはどうだろうか。物理戦闘系の転生特典スキルを持っていたのが今まで私1人だったので、他の人がどうなるかは分からない。
「人間の姿になって、剣と盾出てこいって思ってみて」
「やってみるにゃ。にゃうん! け、剣さん、盾さん、で、出てきて、くださいっ」
「おおー」
これぞ初期装備、と誰もが言うような剣と盾が茜ちゃんの手の中に現れた。
「で、で、出ました!」
ちょっとテンションの上がった茜ちゃんが剣を掲げる。パリパリと剣が紫電を纏っていて、ロールプレイ適正が高そうだ。良いね。これは引き込むしかない。
「茜ちゃん。茜ちゃんは勇者だよ。まずは名前を考えよう」
「な、名前?」
「あっ! 茜ちゃんも『マヨヒガ』に入るんですね!」
「ま、まよひが?」
かくかくしかじかで、とスマホを見せながら愛里ちゃんが『マヨヒガ』について説明している。
猫ちゃんの姿でいるときは普通におしゃべりできているし、茜ちゃんは何かの役に成りきっていれば陰キャを克服できると思う。
そうやって少しずつ慣らしていけば、普段であっても大丈夫になるだろう。という理論武装を私はした。
「わた、私も、マヨヒガに、な、なり、ます」
うんうん。おいでおいで。
「じゃあさっきも言ったように名前を決めよう。茜ちゃんは何か希望はある?」
「サ、サマル――」
それはいけない。
「あっ、は、はい。そ、それ、じゃ、猫又」
「でも茜ちゃんの尻尾って1本ですよね?」
「あ、ぁううぅ……」
確かに2つに分かれてない。1本だけだ。それで猫又っていうのは無理がある。
私も尻尾1本なのに玉藻の前を名乗ってるって? それは別にいいじゃん……。それに、その内尻尾が9本になる予定だからいいの。
茜ちゃんの名前に話を戻すよ。
「それなら、シンプルに猫神(ねこがみ)はどうでしょう。私の真神も同じような感じですし」
お揃い好きの愛里ちゃんらしい提案だ。
「海外にはバステトという猫の神様がいます。こちらはどうでしょうか」
海外の神様か。ちょっと海外の宗教観が分からないから怖いところだ。けしからんと怒られたらごめんなさいするしかない。
「そ、それなら、猫神が、良いな、って、お、思いまし、た」
「シンプルだし問題になりそうになくて良いね」
「じゃあ茜ちゃんは、猫神様ですね!」
「口調はどうするんですか?」
「それは猫ちゃんの時と同じ感じで良いんじゃないかな。茜ちゃんも慣れてるだろうし」
「にゃんにゃん口調ですね!」
「や、やってみるにゃん……。うぅ、恥ずかしぃ」
少し練習が必要そうだ。
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