第15話 事情を聞くなら猫ちゃんで
「それで、どうして茜ちゃんは猫ちゃんになってたの?」
「それには深い訳があるにゃ」
ダンジョンの一角にテントを立てて、その中で事情を聴いている最中だ。
人間状態の茜ちゃんではまともにお話できなかったので、金トラ猫ちゃん状態でお話し中。ポジションは私の膝の上だ。
ふむふむ。仕事を探そうとしたけど、耳と尻尾を隠すのが難しくて断念したと。それに加えて、まともに会話もできなくて、そもそも無理だった。
「冒険者になろうとは思わなかったんですか?」
「実は……、冒険者を知った時には、もうお金が残ってなかったのにゃ……」
「あー……」
冒険者協会だって慈善事業じゃない。試験を受けるには費用がかかるし、試験に受かってからも登録費がかかる。武器を買えば武器の分の費用もかかる。
そのためのお金がなかったと。
「高級マンションだったから家賃がすごい高かったんだにゃ……」
そういうトラップもあったのか。
私のマンションは1人暮らし用のお手頃物件で、彩華ちゃんも同じ感じ。愛里ちゃんは1軒家で家賃いらず。こういう差が悪い方に向いたんだね。
「あれ? じゃあ茜ちゃんって今、お家は?」
「お家はこの外の建物にゃ、ふふふ……」
ああ、茜ちゃんが暗黒面に! 耳の付け根をカリカリして、顎をさすさす。ライトサイドに戻ってきなさい!
「野宿するのに、猫の姿はちょうどいいにゃ。それに食べ物ももらえるにゃ」
「茜さんは苦労されたんですね」
漁港で猫ちゃんたちを訓練したのも茜ちゃんだった。
1つのテーブルに1匹ついて、食べ物を貰ったら次の猫ちゃんと交代する。こうして食べ物をもらいやすい下地を作り上げ、なんとか生活をしていた。
「虫なんて食べたくにゃかったから、必死だったにゃ、ふふふ……」
あー、また暗黒面に! もふもふもふもふ!
「茜ちゃんさえ良ければ、私の家で生活したら良いですよ! というか、明さんも彩華ちゃんも家に来てください!」
「そうだねぇ……」
最近は、ほぼ愛里ちゃんの家で生活しているし、ほとんど使わない部屋を借り続けるよりは、愛里ちゃんの家でお世話になる方が資金的にはベストだ。
生活費はすでにパーティー資金から出ていて、茜ちゃんも仲間になるというなら何の問題もない。
「愛里ちゃんが良ければ、ボクは賛成です」
「私からさそったんですから、ウェルカムです!」
「ありがとう、愛里ちゃん」
「いえいえ!」
「茜ちゃんも愛里ちゃんの家で暮らそ?」
「嬉しいにゃ! ちゃんとしたベッドで寝られるにゃ! うにゃうにゃうにゃ!」
茜ちゃんの喜びの舞は、ちょっとヘンテコな動きだ。両手で耳を抑えて、後ろ足で立ちながら頭をふりふり。ああ膝の上から落っこちそう。
「ここの猫ちゃんたちは茜ちゃんがいなくなっても平気なんですか?」
「大丈夫にゃ。サブボスのにゃん次郎はできるやつにゃ」
ほう。意外にもきっちりとした権力構造ができているようだ。サブボスの下にはサブサブボスがいて、さらに下にサブサブサブボスがいるらしい。もっと別の名前にしたら?
「それじゃあいつでも家に来れますね!」
「良かったですね、茜ちゃん」
「にゃうん!」
再度喜びの舞を披露する茜ちゃん。頭をふりふり、尻尾もふりふり。
「あ、そうだ。ずっと漁港にいたからお魚ばっかりだったでしょ。お肉食べる?」
「にゃんと!? お肉、食べたいにゃ!」
「愛里ちゃん、鳥の照り焼きサンドイッチがあるから出してあげて」
「はい! 私たちも一緒に食べましょう!」
そういうわけで小休止。鳥の照り焼きサンドイッチとオレンジジュースで。
「障りがあるといけないから、人の姿で食べてね」
「分かったにゃ! うにゃうにゃうにゃ、にゃうん!」
「はい、どうぞ!」
「あ、あり、ありり、ありが、とう」
辛うじてお礼を言った茜ちゃんがサンドイッチを受け取り、何故か私の膝の上に戻ってきた。
身長差がかなりあるので、子供の上に親が乗ってるみたいになってる。いや、私は子供じゃないですけどね。
「お、おいひぃ、れす、えぐっ、ふぐぅ」
久しぶりのお肉――というか調理されたご飯かな――に感極まった茜ちゃんが、また泣き出しっちゃった。
「あー、可愛いお顔がぐちゃぐちゃだ。ほら、一回サンドイッチは置いて、お顔を拭こうね」
「あい」
なんというか、茜ちゃんは3人の中で一番精神年齢が低いかもしれない。茜ちゃんの年齢は、転生前が18歳の高校生で、転生した後も18歳だ。
私のイメージとしては、長女が彩華ちゃん、一番しっかりしてる。だけど自分からはわがままを言わないので、ちゃんとかまってあげないとダメ。
次女は愛里ちゃん。皆を引っ張っていく元気いっぱいな子だ。結構寂しがりやだから、皆一緒が好きなんだよね。
そして末っ子の茜ちゃんって感じ。前世の年齢で言えば長女ポジションだけど、ここでは甘えん坊だ。
「オレンジジュースも飲んで」
「あい」
くぴくぴと美味しそうにジュースを飲んでいるのを見ると、やっぱり末っ子だなと感じる。
さしずめ私は皆のお母さん兼お父さんといったところ。転生前で大人だったのは私だけだしね。
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