第14話 猫ちゃんならお友達で

「明さーん!」


「愛里ちゃん、金トラちゃんを捕まえたよ」


 首根っこつまむと足をピーンと伸ばして大人しくなった。お尻を抱えてあげれば確保完了だ。


「うなうにゃいにゃ」


「ひどいことなんてしませんよ! ちょっと聞きたいことがあるだけです!」


「にゃんにゃ?」


「その前に……、新藤茜(しんどう あかね)さん、人の姿には戻れますか?」


「にゃんで知ってるにゃー!?」


「すごい。しゃべった」


 若干そんな雰囲気は感じていたが、猫状態でもしゃべれるようだ。「な行」の発音が「にゃ行」になるのと、語尾の「にゃ」はキャラ付けかな?


「私たちも、耳や尻尾が生えている獣人なんですよ」


「にゃ? でもそうは見えにゃいにゃ」


「隠す方法があるんです」


「にゃんと!」


 ふふん。私が発見しました。


「教えて欲しいにゃ! もう猫の姿で生きていくしかにゃいって諦めてたところにゃ!」


「良いよ。私が教えてあげる。耳と尻尾に力を入れて、ギュギュワンっとしてシャーだよ」


「明さん、私が――」


「にゃ! にゃるほどにゃ! やってみるにゃ! ちょっと放して欲しいにゃ」


「ん、どうぞ」


「ギュギュにゃんっとしてにゃー!」


 手足を曲げて力を蓄えた金トラちゃんは、にゃーすると同時に手足をぐっと伸ばして力を開放した。その結果、見事に耳と尻尾が消えて、ねこっぽい何かになった。違和感がすごい。


「できたにゃ!」


「良かったね」


「あの説明で出来る猫――、ああ違った、人がいるなんて……」


 ぴょんぴょん飛び回って喜んでいる金トラちゃん。でも人の姿でやらないと意味ないよ?


「にゃんと!?」


「最初の質問に戻りますけど、人間の姿にはなれますか?」


「できるにゃ、でも、その……。恥ずかしいにゃぁ」


 恥ずかしさが限界に達した金トラちゃんは、くしくしと顔を洗って気持ちを落ち着けようとしている。そんなことしても可愛いだけだよ。


「あっ、もしかして……、裸になるとかですか?」


 あ、そういう。金トラちゃんは今裸だ。猫ちゃんだからね。そのまま人間の姿になるとすれば、当然裸だ。恥ずかしがるのも無理はない。


 でも大丈夫。愛里ちゃんの〈アイテムボックス〉の中には、着替え用の服も入っている。裸になっても安心だ。


「ち、違うにゃ! 私はそんにゃ変態じゃにゃいにゃ!」


 違うのか。じゃあ何を恥ずかしがっているんだろう。


「実は……、陰キャにゃのにゃ」


「陰キャ?」


「そうにゃ! 人間の私はすっごい陰キャにゃのにゃ!」


「え、でも、今は普通ですよね?」


「それは猫だからにゃ」


「なるほど」


 納得だ。


「え、明さんは納得したんですか?」


「納得しかない」


「猫だからにゃ」


「わ、分かりました」


 愛里ちゃんも納得してくれたようだ。でも困ったな。金トラちゃんは悪い子ではなさそうだし、仲間になって欲しいんだけど、人間の姿で活動できなければちょっと難しい。


 猫ちゃんの姿のままダンジョンへ連れていく、なんてことをしたら悪目立ちすること間違いなしだ。


「よし。金トラちゃん、私たちと友達になろう」


「友達にゃ?」


「友達なら、恥ずかしくない」


「にゃ!? 天才だにゃ!」


「??」


 当然の理論だ。


 ついでに彩華ちゃんもこっちに呼んで友達になってもらおう。


「もう1人こっちに来るから、4人で友達になろう」


「すごいにゃ! 友達にゃんて初めてだにゃ!」


 金トラちゃんを捕まえたの場所が〈門〉からすぐ近くだったのもあって、彩華ちゃんもすぐに合流できた。


「初めまして、竹内彩華です。彩華って呼んでください」


「よろしくにゃ!」


「あ、そういえば自己紹介してなかったね」


 しまったしまった。友達になのに名前を知らないって事態になるところだった。自己紹介しましょう。


「さて、自己紹介もできたし、これで友達だね」


「嬉しいにゃ!」


 ようやく金トラちゃんが人間の姿になる準備が整った。


「人間ににゃるにゃ! うにゃうにゃうにゃ、にゃうん!」


 耳と尻尾を消した時と同じように、手足を曲げて力をためてぐっと開放した金トラちゃん。体が徐々に大きくなり、毛が短くなって肌が見えてきた。


 数秒の変化の後、金トラちゃんは人間の女性へと変化した。


「ど、どど、ど、どうも……」


「よろしくね茜ちゃん」


 人間の姿になったので、ちゃんと名前を呼ばないと失礼だろう。彼女の名前は新藤茜(しんどう あかね)ちゃん。


 金トラちゃんと同じ金色の髪をショートにしていて、インナーカラーの黒がチラリと見えている。背丈は私たちの中で一番大きいと思う。今は何故か『お座り』の体勢でいるので、目線は下だけどね。


 本人の言った通り、裸ではなくちゃんと服を着ている。夏なのに長袖のワンピースで、今は『お座り』の体勢なので盛大に裾がめくれ上がっちゃてるよ。


「お、おおお、お友達っ」


「うん。お友達だよ」


「う、うれ、うれ、ううっ、うう~っ」


 あー、泣いちゃった。愛里ちゃんの家に初めて行った時と同じ感じだ。1人だけで頑張って頑張って、つらかったんだね。


「よしよし」


 お座りした茜ちゃんの頭の高さはちょうど私のお腹の位置だ。ぎゅっと抱きしめて頭をなでてあげよう。


「茜ちゃん、苦労したんですね。でも大丈夫です! 私たちがお友達ですから!」


「そうですね。明さんに任せておけば大丈夫です」


「皆でぎゅってしよう」


「はい!」


「はい」


「ううぅ~っ!」


 よしよし。もう大丈夫だよ。

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