第13話 猫ちゃんを探すならダンジョンで

 テーブルの下から走り去った猫ちゃんの動きは素早い。


「愛里ちゃん、鑑定!」


「あっ、むん! いけました!」


「追いかけるよ」


 逃げた猫ちゃんは何かおかしい。正体を確かめたい。


「どうだった?」


「私たちと『同じ』です!」


 やっぱり。


 どうして猫ちゃんの恰好をしているのかは分からないけど、私と同じような〈変身〉や彩華ちゃんのような〈マジックアイテム〉での変装で姿を偽っているのかも。


「猫ちゃんの姿だと追いかけるのも難しいです」


「そうだね」


 すでに見失いつつある。


 トップスピードなら負けないんだけど、小回りでは圧倒的に分が悪い。その上、小さい隙間に入られたら、それだけで追いかけるのは無理だ。


 そんなことを考えている間に、金トラ猫ちゃんの姿を見失ってしまった。


「あー、どこに行ったか分からなくなっちゃいました」


「猫ちゃんを探す良い方法は無いかな」


「愛里ちゃんが他の猫ちゃんから話を聞いてみるのはどうでしょう」


「それは無理です! 金トラちゃんの言葉が通じたのって、たぶん〈人語理解〉スキルの効果ですよ。ただの猫ちゃんの言葉は分かりません!」


〈人語理解〉は愛里ちゃんの転生特典スキルの1つだ。『人が』話す言葉なら、どんな言葉でも理解できるというもの。


 あの金トラちゃんが私たちと同じ獣人だったから、何を言っているかが理解できたわけだ。


「鑑定では他に何か見れた?」


「獣人かどうかだけですね。一瞬ではそれが限界でした」


〈鑑定〉も万能ではなく、詳しい情報を知ろうと思ったらそれなりに時間がかかる。


「休憩スペースのおじいさんに話を聞いてみるのはどうでしょう。金トラちゃんも利用していたようですし、普段どこにいるのか知っているかもしれません」


「良いですね! あのおじいさんなら何か知っているかも!」


 確かにおじいさんはそんな雰囲気を持っていた。きっと長老とかドンとかオヤジとかそういうの。


 漁港に戻っておじいさんを探そう。


「猫の住処? そいつを知ってどうしようってんだ」


 おじいさんはすぐに見つかった。


「いえ、その、確認したいことがあって」


「まあいいけどよ。有名だからすぐに分かるだろう。でもよ、猫にひどいことしようってんなら……」


「違いますよ! そんなことしません!」


 おじいさんの眼光は鋭い。当然ながら私たちはそんなことしない。金トラちゃんに話を聞きに行くだけだ。


「わかったわかった。ここからちょっと行ったとこにダンジョンがあるだろ。そこの建物の中にいるんだよ」


「この近くですと、関東17〈スライムダンジョン〉ですね」


〈スライムダンジョン〉はその名の通りスライムしか出てこないダンジョンで、ランクは下から2番目のEランクダンジョンだ。


 ドロップがおいしくないことから、不人気ダンジョンの名を欲しいままにしている。猫ちゃんがねぐらにするにはもってこいの場所ということだね。


「ああ、そんな名前だったか。そこでチビからデカいのまで一緒にいらぁな」


「ありがとうございます! 行ってみます!」


「ちゃんと魚を持って行ってやれよ」


「はい!」




 ダンジョンの近くまでやってきた私たちは、こっそり様子をうかがっている。


「いました?」


「いないね」


「外にはいないようです」


〈門〉を囲う建物の外にも猫ちゃんはいて、その中に金トラちゃんの姿はなかった。


「中にいるんですかね?」


「行ってみようか」


「はい」


 ゆっくりと建物に近づき、少しだけ扉を開ける。その隙間にドローンカメラを侵入させ、内部を調査だ。


「あ、いました!」


 ドローンを操る彩華ちゃんが、金トラちゃんを発見した。


〈門〉の前でお座りして、くしくしと顔を洗っている。可愛い。


「私と愛里ちゃんで接触、彩華ちゃんは入り口を確保しておいて。『マヨヒガ』は無しで」


「了解です!」


「分かりました」


「よし、行くよ」


 建物の扉を開けて、体を滑り込ませる。金トラちゃんにはまだ気付かれてはいないようだ。こっそり、こっそり。


「愛里ちゃん、話しかけてみて」


「はい。金トラちゃん、こんにちは。マグロ、美味しかったですか?」


「うなぁん」


「美味しかったそうです」


 新鮮だもんね。そりゃあ美味しいよね。


「今のうちに鑑定しちゃお」


「そうですね」


「うにゃ? にゃんにゃー!?」


「あっ! 逃げちゃう!」


「『水蛇手』!」


「うにゃうにゃー!」


「避けられた!」


 空中で身をくねらせて華麗に水蛇手を回避すると、一目散に〈門〉へと駆け込んでいった。ダンジョン内なら、むしろ好都合だ。監視カメラなどがない分、好きに暴れられる。


「追いかけよう。彩華ちゃんは1階の〈門〉前で待機、もしもの時はお願い。愛里ちゃんは私と追いかけっこだよ」


「行きましょう!」


「ここはまかせてください」


〈身体強化〉を全力でかけつつ、曲がり角は〈疾駆〉で慣性制御を行う。


 関東17〈スライムダンジョン〉のダンジョンタイプは、屋内型洞窟ダンジョンだ。人が3人並べばいっぱいになるくらいの広さの洞窟が続き、関東02〈関東局ダンジョン〉とほぼ同じ感じ。


 隠れる場所が少ないため、金トラちゃんを追いかける障害は少ない。


「いた」


「はぁ、はぁ、先に、行って、ください」


 愛里ちゃんはまだ〈身体強化〉のレベルが低いため、速さが足りない。曲がり角では〈水魔法〉をクッション代わりに使って、ピンボールのように向きを変えている。


「分かった。後からついてきて」


〈呪符〉をこっそり使って、さらに速さを足した。この速さになると、壁は道になる。〈軽業〉、〈跳躍〉そして〈疾駆〉を使い、金トラちゃんを捉えた。


「待って、話がしたい」


「うにゃにゃんでー!?」


「ん、捕まえた」


 私の速さがナンバーワンだ。

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