第12話 漁港に集まるなら猫で
翌朝。寝た時間が早かったから、まだ薄暗い時間に目が覚めた。
両脇には愛里ちゃんと彩華ちゃんがひっついたまま。室温調整の〈火魔法〉は切れていないので、寝汗でびっちょりなんてこともなく快適だ。
なんとか2人の拘束を解き、朝の海を見に外へ出た。
静かな波音と、少し太陽が顔を出して明るい東の空。海での楽しみが終わって、少ししんみりしちゃうような感じ。
ただ、海への旅行はこれで終わりじゃなく、これから近くの漁港へ行ってお昼を食べたり買い物をする予定なんだけどね。
「ふわぁ、おはようございます、明さん」
「おはようございます。ここにいたんですね」
「起こしちゃった?」
2人とも目を覚まし、一緒に外へ出てきた。両隣に座り、一緒に海を眺める。
「楽しかったですね」
彩華ちゃんの表情は、いつもより少し軟らかい。
「また来ましょう!」
愛里ちゃんはいつも以上に元気だ。
「そうだね。何回でも来ようね」
「しんみりするのは終わりですよ! 今日はこれから海鮮食べ歩きツアーです!」
朝食は軽く済ませ、宿泊施設をチェックアウトした。これから向かうのは近くの漁港だ。
「魚市場が近くにあって、新鮮なお魚が食べ放題らしいです!」
早朝と言う時間は既に過ぎていて、市場の活気は業者から観光客へと移っている。
そこかしこで新鮮なお魚がさばかれ、焼く・炒める・煮る・揚げる、いろいろな出店が良い匂いで私たちを誘惑中だ。
「気になったのがあったら、じゃんじゃん食べましょう!」
すでに、右手にイカ焼き、左手に焼きホタテを持った愛里ちゃん。行動が早い。どのお店もDギアウォレットサービスが使えるので、支払いも楽ちんだ。
「彩華ちゃん、美味しい?」
「はい、美味しいです」
彩華ちゃんも真似して、両手にサバの塩焼きとタコの揚げ串を持っている。
私? 私はウニいくら丼をかき込んでいます。ちょっと今話しかけないでね。濃厚なウニがもう最高!
ペロリと初動をキメた後は、気になる食べ物を片っ端からさらっていった。あら汁で一旦リセットし、イカそうめん、アジのたたき、サザエのつぼ焼き、なんか白身の焼き魚、刺身、他にもいろいろ。
出店エリアの端まで到着するころには、時刻はお昼を回り、何故か私たちの買い食いを見物するお客さんまでいる騒ぎになっていた。
「あんたたちの良い食いっぷりのおかげで、今日は大繁盛さ!
というのは、お店のおばちゃんの談だ。私たちに釣られて、他のお客さんの財布のひもも緩んだみたい。
「もうお腹いっぱいです!」
ややぽっこりしたお腹に手を当てて、愛里ちゃんが満足宣言。彩華ちゃんと私も同じ様な感じだ。
数時間にわたって食べ続ければ、さすがの私たちでも限界が来る。ちょっと食べ過ぎな感じもする。
「ちょっと休憩しよう」
「そうですね。少し食べ過ぎました」
「あっちに休憩スペースがありますよ。行きましょう!」
買った食べ物をゆっくり食べるための休憩スペースには、テーブルとイスが用意されている。
そして何故か、1つのテーブルにつき1匹の猫が脇に控えていて、利用しているお客さんからお魚を貰っては美味しそうに食べていた。
「あんたら、ここは初めてかい?」
物知り顔なおじいちゃんが話しかけてきた。いかにも常連といった雰囲気だ。
「あの猫どもはちょっと前からいついてな。市場の方には入りゃしねえし、粗相もしねえ。お利口にテーブルの下でくつろいでんだ」
見ていると、満腹になった猫がテーブルの下からでると、別の猫が代わりにテーブルの下へとやってきた。順番待ちの猫たちもいる。
「大人しくしてるんなら俺たちもかまやしねえってんで、好きにさせてんだ。それに、猫がくつろぐ休憩スペースつって、SNSで話題にもなってな」
なるほど。スマホを構えているお客さんも多いし、話題性はばっちりなんだな。猫はお魚を貰えて良し、お客さんは可愛い猫を見れて良し、漁港はお客さんが増えて良し、三方良しのwin-win-winだ。
「教えてくれてありがとうございます、おじいちゃん!」
「良いってことよ」
ニヤリと笑って去っていくおじいちゃん。クールだ。
「お魚をあげてみたいです」
「私も!」
私たちが向かったテーブルにいた猫は、金と黒の毛並みがきれいな虎柄。金トラとでも言うのだろうか。
「小さいお魚がいいですよね。小アジにしましょう! はい、彩華ちゃん!」
「ありがとうございます。猫ちゃん、お魚食べる? 美味しいよ?」
「にゃぁん」
か、可愛い! 体は自動的にスマホを構え、恐るべき速度で撮影を始めた。ドローンカメラももちろん起動している。
「小アジは骨が多くて微妙って言ってますね!」
「そうなんですね。じゃあ切り身ならどうでしょう」
サッとナイフで小アジを2枚におろし、骨が付いていない方をお皿に入れて猫ちゃんへ。
「ぅみゃい、みゃう、みゃい」
「美味しいって言ってますね! 次は私があげます!」
「にゃぉん」
「え、お水が欲しい? いいですよ!」
別のお皿へお水を出して、あげる愛里ちゃん。
「なぁーん、なぁーん」
「猫ちゃんってグルメなんですね! はい、マグロです!」
「にゃぁん! ぅみゃい、みゃい、みゃい。にゃん」
「いや、お醤油はダメですよ。塩分が多くて、猫ちゃんの体に悪いって聞いたことがあります」
「うなぁー」
「ダメですよ」
「愛里ちゃん」
「どうしたんですか、明さん?」
「愛里ちゃんって、猫ちゃんとお話できるの?」
「え? できませんけど?」
「ボクにはさっきからそこの猫ちゃんとお話しているように見えましたけど」
「え?」
「にゃん!?」
同時に彩華ちゃんの方を向いた愛里ちゃんと猫ちゃん。
「うん。私にもそう見えたよ」
「うにゃ!」
あ、猫ちゃんが逃げた。
――――――――――――――――――――
【あとがき】
この話で、閑話や登場人物紹介を除いて100話目になりました。
今後もよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます