第11話 夜の海ならBBQで
コテージからスタッフさんに連絡し、バーベキューの具材を届けてもらう。
女3人なのに6人前を予約していたので、届ける際にも何度も確認されてしまった。大丈夫です。しっかり完食します。むしろ足らない可能性もあるので、デザートで調整する予定だ。
肉、魚介、野菜、一部は串に刺さっていて、本当にお手軽セットだ。
「じゃあ火をつけるね。えい」
グリルに炭を並べて、〈火魔法〉で着火。魔法ってほんと便利だ。
火を通すだけならこのまま〈火魔法〉を維持していてもいいんだけど、炭火って普通の火と何か違うんだよね?
「香りや遠赤外線の効果で美味しくできるそうです」
「へぇー」
そういうことらしい。
しばらく魔法で炭を焼いていると、しっかりと火が起こってきたようだ。
「まだですか?」
「まだだよ。もうちょっと炭火が安定してからね」
お肉と野菜の刺さった串を両手に持って、愛里ちゃんがスタンバイしている。彩華ちゃんは初手お魚。アルミホイルに乗った鮭を抱えて準備万端だ。
「はい、いいよ。こっち側は弱火だから、お魚はこっちに置いてね」
「了解です! お肉お肉お肉!」
「はい。私はお魚で」
一気に大量の食材を乗せていく。普通の人なら食べるのが大変になるかもしれないけど、我ら獣人ぞ。焼いたはしからどんどんお口の中へ。
肉、野菜、魚、肉、野菜、魚! ご飯なしのストロングスタイル! お口直しの飲み物には金色のあれ、そうジンジャーエールだ。くぅー、美味しい!
「そういえば、バフ料理ってありませんよね」
スタートダッシュを終えて、ややペースを落とした愛里ちゃんが素朴な疑問を投げかけた。
「バフ料理ってゲームにあるみたいな?」
「そうです。料理を食べてパワーアップ!ってやつです」
確かに聞いたことがないね。そもそも、ダンジョンで食材がドロップするという話を聞かない。あ、でも生えてる草も食材になるっちゃなるかな。
「あるとすれば、〈料理〉スキルでしょうか。他の生産系〈スキル〉が魔力の有無に関係するとすれば、魔力の含まれる食材を調理すれば、〈料理〉スキルがあるか確認できますね」
「魔力の含まれる食材かぁ」
「草の天ぷらでも作ってみましょうか」
「もっと美味しいものがいいです!」
仮に草の天ぷらがバフ料理だとして、それを食べたいか?と問われるなら、私はノーと答える。
「発想としては面白いですし、考えがいもありそうです。少し調べてみますね」
「美味しいバフ料理ができたらうれしいです!」
私も時間があるときに考えてみよう。でも今はバーベキューだ。すでに用意された食材の半分は消費し、後半戦に突入している。肉肉野菜、肉肉魚、このリズムで行くぞ!
「2人とも満足した?」
「ふー、お腹いっぱいです」
「はい。美味しかったです」
デザートとしてスイカ半玉(持ち込み)を食べ終えてバーベキューは終了した。網と鉄板だけ洗っておけば、あとはそのままでいいらしい。
まだ燃えている炭は、〈火魔法〉で熱を奪って強制鎮火させ、洗い物は愛里ちゃんの〈水魔法〉で洗剤と一緒にぐるぐるして終わり。魔法ってやっぱり便利だ。
しばらくゆっくりと椅子に座ってバーベキューの余韻を楽しんだ。お祭りの後の静かな時間みたいな感じ。
「終わっちゃいましたー」
愛里ちゃんは名残惜しそうにつぶやいた。お腹いっぱいになって、少し眠そう。お昼寝もしたけど、その分午後もはしゃいでいたから、足し引きで言えば疲れが勝っているんだろう。
「そうですね。いろいろ遊んで、楽しかったです」
彩華ちゃんは早くもうつらうつらしている。バーベキューの前にシャワーを済ませているので、このまま寝ても問題はない。だけど歯磨きくらいはしないとね。
「愛里ちゃんも彩華ちゃんも部屋に戻ろう? ほら、立って、歯磨きもするよ」
「はぁい」
「はい」
なんとか洗面所へ誘導し、歯磨きをさせた。あと顔もきれいに拭いて、パジャマに着替えさせてっと。
「もう寝ちゃう?」
「まだ寝ませんよー」
半分閉じた目で言ってもダメだよ愛里ちゃん。そして彩華ちゃんは寝るモードに入っている。立ってはいるけど目は閉じていて、手を引かないと動いてくれない。
ああ、彩華ちゃんが座り込んじゃった。これはもうダメだ。愛里ちゃんが歩けるうちに、お部屋に移動しないと。
彩華ちゃんを背負うと、背中にお胸様の御威光が感じられる。すごい。
「ほら愛里ちゃん、こっち。お部屋に着いたよ」
「ダメですぅ。明さんは私と一緒に寝るんですよー」
ああ、前から愛里ちゃんが抱き着いてきてもうめちゃくちゃ。前門の愛里ちゃん、後門の彩華ちゃんだ。
2人とも離してくれそうもないので、もうこのまま3人で寝ちゃおう。
〈人形ダンジョン〉で何度も練習を重ねた〈火魔法〉『炎蛇手』をピロピロさせてドアを開け、そのままベッドに3人でゴール。
私も遊び疲れていたのか、すぐに意識を手放した。
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