第10話 海で遊ぶなら全力で
「あははは、水の扱いにおいて、私の右に出る者はいません!」
「きゃっ! おかえしです、えいっ!」
「ぷわっ、あははは!」
「飲み物置いておくから、こまめに飲むんだよー」
「「はーい!」」
一直線に海へと駆けて行った2人は、波打ち際で水の掛け合いっこをしている。
いつもはあまり表情の動かない彩華ちゃんも、にっこり笑顔が眩しいね。愛里ちゃんがぐいぐい引っ張っていってくれるので、良いコンビだ。
私はというと、しおしおに潰れた浮き輪を抱え、シュコシュコと空気入れを踏んでいる。
そうだよ泳げないんだよ。悪いか。
というか、そもそも人間って陸の生き物だから、浮くようにできてないと思う。だって私は沈むもん。どうやったら浮くの? お胸様か?
獣人パワーと何らかのパワーを合わせて、ドーナツ型2つ、イルカ型1つの浮き輪を素早く完成させた。その内のドーナツ型1つを持って、私も海へ。
「気持ち良いー」
ドーナツの穴にすっぽりと嵌り、ぷかぷか浮いているだけで気持ち良いね。プールは人が多くて苦手だけど、プライベートビーチなら何の気兼ねもなく浮いていられる。最高!
きゃっきゃと水の掛け合いをしている2人の声をBGMにまったりしていたんだけど、劣勢になった彩華ちゃんが私の方へと逃げてきた。
「明さん、助けてください!」
「ずるいですよ彩華ちゃん!」
「明さんシールドです!」
あらあら~。2人の笑顔が太陽よりも眩しいね。
でもちょっと浮き輪につかまるのはやめて。あっ、バランスが、あっ、あぶっ、危ない!
「はい。これは彩華ちゃんの」
「ありがとうございます」
私が必死にバランスを保とうとしている間に、浜に置いてあった浮き輪を、愛里ちゃんが〈水魔法〉で回収していた。彩華ちゃんがドーナツ型で、愛里ちゃんがイルカ型だ。
私と同じように穴にすっぽり嵌った彩華ちゃんと、勇ましくイルカに跨った愛里ちゃん。
「イルカ号発進!」
元気な掛け声とともに、イルカ号が動き出した。動力は〈水魔法〉だ。
なぜか私たちもイルカ号に水で繋がれていて、スイスイ進むイルカ号の後ろをぷかぷかと連れ立って進んでいく。これ結構気持ち良いかも。
浮き輪と一緒に愛里ちゃんが回収していた飲み物を片手に、優雅なクルージングだ。
「気持ち良いですね」
「うん」
「海って最高です!」
その後、調子に乗った愛里ちゃんがスピードを上げ、イルカ号ともども転覆してしまったのも楽しかった。次があれば、バナナボートとかで疾走しても楽しそう。
「お昼になったから一旦休憩だよ」
「はーい!」
「はい!」
たっぷり遊んだ後はお昼ご飯だ。レストランに行くのも検討したんだけど、彩華ちゃんのこともあるし、事前に作った料理を愛里ちゃんの〈アイテムボックス〉に入れてきた。
作ったのは、海鮮焼きそばだ。
愛里ちゃんたっての希望で――、
「海と言ったら焼きそばです!」
「そうなの?」
「そうなんです!」
という会話が行われた結果だ。
「お昼を食べたら少し休憩して、海はそれからね」
「わかりました!」
「はい」
午前中はかなりのはしゃぎっぷりだったから、獣人基準でも少し疲れていると思う。それに、ずっと日の下にいたわけだから、体調を整える意味でも少し休憩だ。
「午後からは何しましょう!」
「ボクは少し泳いでみたいです」
彩華ちゃんが積極的だ。私は潜るのだけは得意だ。沈んでいるだけと言う人もいるが、要は気の持ちよう。それに息継ぎするときは、〈呪符〉で海面に顔を出せば問題はない。完璧だ。
「シュノーケルがあるから、それで遊びましょう!」
「休憩してからね。はいジュース」
「ありがとうございます! ごくごくごくっ」
「彩華ちゃんも」
「ありがとうございます、明さん」
あれだけ午後も遊ぶんだと言っていた2人なんだけど、焼きそばを完食した後、今はぐっすり夢の中だ。私の膝を枕にして気持ち良さそうに眠っている。
〈火魔法〉の応用で、周囲は快適な温度にしてあるし、不快な湿気は部屋の隅に置いたペットボトルにまとめてシュウウウ!!だ。
このまま寝かせてあげたい気持ちと、起こして遊ばせたい気持ちが半々。
「うーん。また来たらいっか」
海に遊びに来られるのは今日だけじゃないんだし、遊び足りなかったらまた来たらいい。そういうことで、このまま寝かせておくことにした。
2人が起きたのは、それから2時間ほどたってから。
3時のおやつの時間を回って、海で遊べる時間ももう短い。いくら日が長いといっても、夜の海は危ないからね。
「寝過ごしました!」
「失敗です……」
「また来た時に遊べばいいでしょ。はい、おやつ代わりのアイスフロートだよ」
ちょっと沈んだ気持ちも、カラフルなアイスフロートを食べれば急上昇だ。準備しておいて良かった。
今から海に入るのは諦めて、代わりに砂遊びをすることに。
「でっかいお城を作りますよ!」
「立派な天守閣を作ります」
砂の像を作るコンテストなんかは、砂に接着剤のようなものを混ぜて崩れにくいようにしているらしい。そんな仕掛けが無いにも関わらず、2人のお城はなかなかのものだ。
愛里ちゃんのお城は、とにかく高い。愛里ちゃんと同じくらいの高さがある。周りが逆に陥没し、海水が入って天然の水堀だ。城の造形についてはノーコメントで。
彩華ちゃんの方は、30センチくらいの小ぶりながら、細かな装飾が多く、どうして崩れていかないのか不思議だ。え? 落ちてた海藻から粘性のある液体を抽出して混ぜた? はい、どうやらこっそりズルしていたようです。
完成したお城を写真に撮ったり、城下町を作ったり、堀を繋げたり、愛里ちゃんのお城が崩壊したりしている間に日は落ちて、夜のメインイベント、バーベキューの開始だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます