第9話 日焼け止めなら塗り合いっこで
海、それは生命のゆりかご……、あ、他には思いつかないや。とにかく海だー!
「海だー!」
「う、海だー」
愛里ちゃんと彩華ちゃんも、海に向けて叫んでいる。プライベートビーチを貸し切りなので、羞恥心は捨てていこう。さあ彩華ちゃん、もう一度。
「う、海だー!」
うんうん。
貸し切りにした理由は、もちろん彩華ちゃんのためだ。初めての海水浴で、初めての水着ということもあるし、女社長モードを解除して、元の姿で楽しんでほしいというのもある。
「さっそく水着に着替えましょう!」
着替えや宿泊は、プライベートビーチの側に建てられたコテージで行う。ログハウス風の見た目で、入り口の脇には夜に使うバーベキューセットがすでに準備されている。
「お部屋は3つあります。皆で着替えて、いっせーのーで、で出ましょう!」
「うん。じゃあ後でね」
「はい。わかりました」
部屋に入って荷物から水着を取り出した。
「ビキニ……」
今更ながら、ビキニの水着に着替えることが恥ずかしくなってきた。布面積で言ったら下着と一緒だからね。
ラッシュガードを着て出ていったらダメかな。彩華ちゃんは許してくれそうだけど、愛里ちゃんはぶーぶー言いそうだ。
ええい、女も度胸! 夏の冒険をするんだ! 私は羞恥心を捨てるぞー!
「準備できましたかー?」
「はい。ボクは着替え終わりました」
「良いよ」
「じゃあ、行きますよー。いっせーのーで!」
行くぞ!
「わあ!」
「わっ!」
まず隣の部屋の愛里ちゃん。トップスはオフショルダービキニで、確かバンドゥビキニとか言うやつ。鎖骨や首筋のラインが綺麗に見える。ボトムスはショートパンツタイプだ。薄い水色で爽やかさんな感じ。
そして、愛里ちゃんの隣の彩華ちゃん。タンキニっていうのかな? 着丈の短いトップスなのか、ばーん!となったお胸様につられておへそがこんにちはしてる。ボトムスがビキニなのがちょっと意外。淡いオレンジで元気が出そう。
「うわぁ、彩華ちゃんって改めてみるとおっきいですね!」
「うっ、元々こうだったので増やしたわけではないんです」
転生のときのキャラメイクでばーん!したわけではなく、生まれつきのお胸様だったのか。私はあえてお胸様を小さくしたからね。あえてね。あえてだよ。玉藻の前と差別化するためにあえてね。
「愛里ちゃんはオフショルダーが爽やかさんだね」
「お気に入りです!」
ちょっと清楚っぽくも見えるんだけど、ニコニコ元気顔だからやっぱり爽やかさんだ。
「明さんはすごく可愛いです」
「リボンが可愛いですね! とっても似合ってます!」
「ありがと」
ふふん。羞恥心を捨てた私にはもはや敵はない。2人の賛辞を真正面から受けても大丈夫だ。
「それじゃあ海に行きましょう!」
「待って、ちゃんと日焼け止めを塗らないと」
「私は〈水魔法〉でUVカットしているので大丈夫です!」
なんと。温度調節だけでなく、UVカットまでできるのか。愛里ちゃんの魔法は、ますます器用になっていくね。
「じゃあ彩華ちゃんは私と日焼け止め塗ろっか」
「はい。最初はボクが塗りますね」
「ありがとう。背中を塗ってくれる?」
ぬりぬりと背中を彩華ちゃんの小さな手が動き回ってる。絶妙な力加減ですっごくくすぐったいんですけど!
「くふっ、うっ、ひぅっ、あっ、彩華ちゃん、ちょっと止まって、くすぐったい」
「あ、すみません。くすぐったかったですか」
「ふぅ、はぁ、私ってくすぐったがりなのかも」
尻尾を愛里ちゃんにもふられた時も、すごいくすぐったかった。でも不思議と寝ている時は大丈夫なんだよね。意識し過ぎるとダメなのかも。
「ふぅ、よし。続きをお願い」
「はい。塗っていきますね」
気合を入れ直してくすぐったさを耐えている間に背中は塗り終わった。あとは自分でできる。
「じゃあ次は私が塗るね」
「待ってください! 私も日焼け止めの塗り合いっこがしたいです!」
あー、仲間外れみたいで寂しくなっちゃったか。じゃあ彩華ちゃんは愛里ちゃんにまかせて、私は愛里ちゃんに塗ることにしよう。それなら誰も仲間外れにならないね。
「うふっ、確かにちょっと、ふふっ、くすぐったいです」
「これはどうです? さわさわさわ~」
「きゃっ! もう、愛里ちゃん意地悪しないでください」
「えへへ」
あら~。楽しそうで良いね。その後も何度かさわさわ~からのきゃっを繰り返して、彩華ちゃんの背中は終了。次は愛里ちゃんの番だ。
「明さん、ボクの敵(かたき)をとってください」
「まかせて」
「私は全然平気です!」
私のさわさわ~は全然効果がなかった。途中から彩華ちゃんも参戦し、2人であれやこれやとやってみても、愛里ちゃんは気持ち良さそうにしているだけで、全くくすぐったそうにはしていない。
「愛里ちゃんにくすぐりは効かないね」
「そうみたいです」
「ふふん! それじゃあ改めて海に行きましょう!」
「楽しみですね」
「いきなり飛び込んだりしたらダメだからね。深いところには行かない。水分補給はこまめに」
「はい、明さん! 彩華ちゃん行きましょう!」
「はい!」
たったか走り出す2人を追いかけて、私も海に向かった。
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