第7話 快適衣類ならダンジョン素材で

「愛里ちゃんと彩華ちゃんは〈裁縫〉スキル増えた?」


「私はダメみたいです」


「ボクは〈裁縫1〉が増えました」


 生産系〈スキル〉は人によって生えやすい、生えにくい傾向があるみたいだ。これは戦闘系〈スキル〉でも一緒。


 特に〈属性魔法〉では顕著で、ダンジョンが発生してから10年間ずっと訓練していても、生えてこない属性がある人もいる。検証を兼ねているらしいんだけど、すごい忍耐力だ。


「愛里ちゃんどうする?」


「うーん、私は〈調合〉に専念しましょうか。それでポーションを作って、その代わり彩華ちゃんが他の生産をする、でどうでしょう」


「彩華ちゃんはそれでいい?」


「はい。ボクは〈木工〉スキルがあるか試してみます」


「うん、わかった。私はセーラー服の練習、愛里ちゃんはポーション作り、彩華ちゃんは〈木工〉の確認だね」


「彩華ちゃん、〈木工〉で何を作るんですか?」


「まずは木彫りの狐を作ってみようと思います」


 そこは熊じゃないんだ。


「良いですね! 私も1個欲しいです!」


「できたら愛里ちゃんにあげますね」


 彩華ちゃんが木と格闘することしばらく、立派な木彫りの狐ができあがった。少し振り返りつつ耳がピンと立っていて、何かに気付いた様子の狐だ。


 一瞬の動きを切り取ったかのような躍動感と、キリリとした目、木目はまるで風になびく毛のよう。イケ狐だ。


「可愛い!」


「まだ〈木工〉スキルはありませんが、なんとかできました」


「すごいね。スキルがなくても上手だね」


 むしろスキルなしでこの完成度、やはり生産系において彩華ちゃんの腕はぴかいちだ。


 私にもあとで1つ作って欲しい。熊型のレッサーパンダでお願いします。もちろんがおーと威嚇するポーズで。


「色も塗りたいですね。〈調合〉で染色液が作れないかやってみます!」


「色のついた花弁と適当な安定剤で作れそうです。これは売れますね」


 また彩華ちゃんが商機を見つけたみたい。というか私たちが生産系〈スキル〉の先頭を走っているので、作るものすべてが商材になると思う。


『市販の防具より強いセーラー服!』も売れそうかな? いや、需要を考えると、薄手のシャツなんてどうだろうか。男女ともに使えるし、防具の下に着ても良い。作るのも簡単だ。


 ダダダっと女性用のS・M・Lサイズを作ってみた。


「彩華ちゃん、これに〈錬金術〉で快適になる効果を付与したら売れないかな?」


「売れると思いますが、需要が大きすぎて怖いですね……」


 そんなにか。でも1人で何枚も使うことを考えると、大量に必要になるのも分かる。ポーション作りから解放されたのに、今度はシャツ作りでいっぱいいっぱいになったら意味ないね。


「私たちの分だけにしよう」


「そうですね」




 夕方遅くまでダンジョンにこもり、彩華ちゃんは〈木工1〉を手に入れた。そして、私は〈裁縫2〉、愛里ちゃんは〈調合2〉だ。


「ここまでの生産系〈スキル〉の情報を君枝ちゃんに共有しておく?」


「良いと思います。君枝ちゃんと絵里さんなら上手くやってくれそうです!」


「はい。でも少しだけ時間を空けた方がいいと思います。今はポーション作りで忙しいでしょうから」


「そうだね。人の選出が2週間くらいって言ってたから、それが終わってからにしよっか」


 ポーション作りが滞るのは本意じゃないから、ひと段落付いたところで共有すればいいだろう。


 なんだか、次から次へと仕事を振る、嫌な上司みたいになってる気もするけど、冒険者の強化のために頑張って欲しい。こっちも検証結果は共有するので許してね。


「パジャマを作ろう」


 愛里ちゃんの家に帰ってからも、〈裁縫〉スキルのレベル上げ、もとい、快適衣類の作製だ。ダンジョン内で作っていたシャツ。これがすこぶる快適で、パジャマを作ったら暑い夜でも快適なんじゃないかと愛里ちゃんが言い出した。


 着る物全部がダンジョン素材から作ったものになりそうな予感がビンビンだ。


「問題は可愛い生地がないってことです!」


「これは早急に手配しておきましょう」


 そうなのだ。ダンジョン素材から作った手持ちの生地は無地の物しかない。


 愛里ちゃんも彩華ちゃんも、今着ているパジャマは可愛い系の柄もので、新しく作る物もそういったものが良いらしい。ちなみに私はシンプルな無地のものを着ている。


「はい! 色違いのお揃いにしましょう!」


 元気よく手を上げて愛里ちゃん。お揃い物がブームだ。最近はほとんど愛里ちゃんの家にいるので、お皿やコップ、スリッパなど、何かにつけてお揃いだ。


「生地を選びましょう。どの柄がいいですか?」


 素早くタブレットをたたき、生地を販売しているサイトを開く彩華ちゃん。熊耳を見なくても楽しみなのが分かるし、熊耳を見るともっと良く分かる。


「1人1つ柄を選べばいいと思います! 私はこの猫ちゃん柄です!」


「では、ボクはこのひよこ柄にします」


「2人とも決めるのが早いね。じゃあ私はこの肉球柄で」


「色は、明さんが赤、私が青、彩華ちゃんが黄色です!」


「はい。それで良いです」


「うん。良いよ」


 柄が3種に3つの色で、合計9通りのパジャマを作ることになった。とは言っても生地が手に入るまでは作れないので、今日の所は無地のパジャマを作ることにする。


 本番の練習にもなるので、ダダダっと作りますよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る