第6話 生産スキルの特訓ならダンジョンで

 ポーションのお礼のお金は、かなりの額だ。すぐに使えるものでもないし、とりあえずはそのまま放置。見てないふりとも言う。


 私たちは予定通り、生産系〈スキル〉の訓練を集中的に行うことにした。


 やってきたのは関東06〈人形ダンジョン〉。ここはダンジョン内が室内型で、廊下と部屋で区切られているため、人目を気にせずいろいろ作業がしやすい。


 それに、アニマルドールからはフェイクファーがドロップするし、適当なパペットモンスターからは『操り糸』という糸素材がドロップする。


 そのため、針さえ持ち込めば、延々ともふ玉を作り続けることができる。


「そうそう。慣れないうちは針は真っすぐ刺して、うん。HPがあるから大丈夫だけど、気を付けてね」


「家庭科の授業以来です。むむむ。難しいです」


「こんな感じでどうでしょう」


「彩華ちゃんはさすがだね」


 愛里ちゃんは、細かい作業がちょっと苦手。魔力の制御はすっごく細かいんだけど、自分の手となるとダメみたい。


 彩華ちゃんは、転生特典スキルの〈器用〉がすごい威力を発揮していて、何十年お針子をやっているんですか?という勢いで、もふ玉を完成させている。


「このもふ玉には、『ソフトコットン』を詰めてみましょう」


『ソフトコットン』というのも、〈人形ダンジョン〉でドロップする素材アイテムだ。至れり尽くせりで、〈人形ダンジョン〉は、まさに〈裁縫〉スキルの特訓の聖地と言えるだろう。


「できました。愛里ちゃん、どうですか?」


「うわぁ。すっごいもふもふで、さらにふわふわです」


「私にも……。これは良い。とっても良い」


 これは売れる!


「〈錬金術〉で付与もしてみましょう。錬金!」


「あっ、これはダメです。私のです」


「愛里ちゃん、独り占めはダメ」


 なんだこの……、なんだ。もふもふで、ふわふわで、とろけるような感触。体が沈み込んで、ふわぁ……。これは人をダメにするもふ玉だぁ。


「これは新たな主力商品になりそうです。冒険者以外の一般層にも訴求できますし、販売戦略を考え直す必要がありますね。いえ、冒険者にこそ癒しが必要でしょうか……」


 何かを考え込んでいる彩華ちゃん。でもそんなの関係ないもんね。私はこのもふ玉でもふもふするんだ。


「もふ~」


「ふわぁ~」




 何故か午前中の記憶がない。いやまあ眠っていたから当然なんだけどね。


「このもふ玉ver.2はダンジョン内では使用禁止にします」


 禁止もやむなし。今回はもふ玉の大きさの関係で、彩華ちゃんがもふれなくて起きていたけど、3人同時にもふって眠ってしまったら危険だ。家で堪能するだけにしよう。


「その代わりあと2つ作って、1人1個にしよう」


「はい! 1人2個がいいです!」


 採用!


 お昼ご飯を食べて午後。愛里ちゃんと彩華ちゃんはもふ玉作り。私はセーラー服作りの練習だ。


 型紙は彩華ちゃんが準備してくれたやつを使う。まずはシンプルなセーラーブラウス(半袖)から。どこかの企業が持っていた資料なのか、ちゃんと作業手順書まである。


 使う布は、ダンジョン産の糸を織った布で、普通に市販されている。かなり高価だけど、耐久性に優れていて汚れが付きにくいらしい。


「あれ、これで企業にセーラー服を作ってもらえばいいんじゃ?」


「それだと、衣装からボクたちの正体がバレますよ」


 素朴な思い付きはすぐに彩華ちゃんによって破壊された。そう都合良くはいかないか。地道に〈裁縫〉スキルを上げよう。


 さて、まず型紙に合わせて布を裁断していくんだけど、ここで〈裁縫1〉スキル発動! しっかりした型紙があれば、フリーハンドで裁断ができます。


 いちいち型紙を切ったり貼ったりしなくて良いから大変便利だ。サクッと裁断を済ませ、待ち針で合わせを確認する。所々を仮縫いして、後はミシンで仕上げだ。


「しまった。アイロンがない」


 ミシンは魔石稼働のものがあるけど、アイロンが手元にない。これは困った。なくてもぎりぎりなんとかなるけど、ミシンを使うのがかなり面倒になる。


「ないなら作りましょう」


 トンテンカンと彩華ちゃんが〈鍛冶〉で作ってくれたのは、黒鉄製のコテ。


「これを明さんの〈火魔法〉で熱すれば、アイロンになると思います」


「彩華ちゃん賢い。あ、アイロン台も」


 トンテンカンと黒鉄製の台に布を巻いて簡易アイロン台の完成。今日の作業ならこれで十分だ。


 アイロンでジュっと形を整え、ミシンでダダダっと縫ったら完成。〈裁縫1〉でどこまでできるかの確認も兼ねていたんだけど、市販品にあと一歩って感じ。結構な出来だ。


「生産系スキルってすごいね。レベル1でもとっても役に立つ」


「もう完成したんですか? このサイズだと彩華ちゃん用ですね!」


「着てみても良いですか?」


「うん、良いよ」


 いそいそと着替える彩華ちゃん。こうなるならもうちょっと気合を入れて作るべきだったかも。初めてということで、細かい手順は飛ばしたところもある。


「どうでしょうか」


「可愛い!」


「似合ってるよ」


「ありがとうございます」


 スカートもすぐに作ってあげよう。

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