第2話 会議するならWebで

 私たちは、愛里ちゃんの家の一室を改造した、配信ブースにいる。防音、防盗聴、防魔力、とにかくいろいろ「防」した部屋だ。


「楽しみっス!」


 すでに皆で『マヨヒガ』フォームになっていて、ここで行われるWeb会議の開始を待っている。


「操作と説明はボクがやります。玉藻さんは最初の挨拶をお願いします」


「うむ」


「やっぱり玉藻さんがリーダーっスからね!」


 そういえばリーダーとか決めてなかったなと思ったけど、私がリーダーだったみたい。まあロールプレイに一番詳しいのは私だからね。まかせたまえ。


 今日のWeb会議のお相手は、なんと冒険者協会日本支部・関東局トップの長谷川君枝(はせがわ きみえ)さんだ。


 いきなりトップとの会議だなんて緊張する。


 あとの参加者は、いろいろとお世話になった後藤理恵さんと、総務課課長の山根さん。


 3対3のWeb会議バトルだ。


「時間ですね。あ、冒険者協会からWeb会議の招待が来ました。繋げても良いですか?」


「うむ。頼んだぞ」


「わくわくするっス!」


 愛里ちゃんが相変わらずでなんだか安心する。


 待機状態であった真っ黒の画面が、パッと切り替わり、どこかの会議室のような場所を映し出した。


 そこには、2人の女性と1人の壮年の男性が横並びに座っており、なんだか記者会見みたいな感じだ。


『あー、繋がってる? 繋がってるのね。玉藻の前さんと真神さんはお久しぶりです。キムンカムイさんは初めまして。私は後藤理恵です』


「久しぶりじゃな」


「お久しぶりっス!」


「初めまして、キムンカムイです」


『えー、そして、こちらは当協会局長の長谷川君枝、こちらは総務課長の山根です』


『山根です。よろしくお願いします』


『長谷川君枝だ。親しみを込めて君枝ちゃんと呼んでくれ』


「よろしくっス、君枝ちゃん!」


「よろしくお願いします、君枝ちゃん」


 濃っ! キャラが濃いよ君枝ちゃん! え、そんなキャラなの? 隣の理恵さんが頭を抱えているよ?


「よろしく頼む、君枝ちゃん」


 まあ別に拒否しないけど、あとで理恵さんに胃薬でも届けた方が良いかな。彩華ちゃん特製のやつ。


 とりあえず話を進めよう。


「今日は妾たち『マヨヒガ』の呼びかけに答えてくれて感謝する」


『いえ、こちらこそ『マヨヒガ』の皆さんとこうして会えて光栄です。スタンピードの件では、とてもお世話になりました』


「よいよい。お主らの頑張りに答えただけじゃ」


『ありがとうございます。それで、本日は「冒険者の強化について」ということでしたが、どのようなお話でしょうか?』


 冒険者協会には、冒険者を強化する方法について話がある、ということで連絡をとった。


『生産職』が増えれば、冒険者のアイテムや武具を強化できるため、間違いではない。それに潤沢な消耗品があれば、少し奥へ、少し長くダンジョンで活動でき、レベルアップにも繋がるだろう。


「うむ。説明はキムンカムイにやってもらうでの。キムンカムイよ、頼むぞ」


「はい。我々『マヨヒガ』が提案するのは、冒険者によるHP回復ポーションの作製です」


『なんだって!?』


 君枝ちゃんが思わず立ち上がるほど驚いている。いいね!


 今まで不可能と思われていたポーションの作製。それを知るミステリアスな存在、『マヨヒガ』。最高だ。


 大衆的ミステリアスもいいけど、こういった特異的ミステリアスもとても良い。なんというか、世界を裏から操ってる感がある。実際には操ってなんてないけどね。


『ポーションの作製が、可能だということですか?』


「はい、理恵ちゃん。こちらのポーションはボクが作製したものです」


 あっ、理恵さんもちゃん付けなんだ。ということは、唯一の男性参加者の山根さんもちゃん付けで呼んだ方が良い? ちょっと私には判断付かないんだけど。


「山根ちゃんはもう〈ステータス〉を得ているっスか?」


『いえ。多様性の観点から、一部の冒険者職員は〈ステータス〉を得ていません』


 ちゃん付けをスルーした! なるほど、ちゃん付けでも良いんだ。変に気を使わなくて良かったってことか。ナイスだ愛里ちゃん。


「それならば都合が良いの」


 それより、山根ちゃんが〈ステータス〉を得ていないことの方が重要か。彩華ちゃんの推測では、〈ステータス〉を得る際の行動が重要になる。


 これを検証するためには、倫理観がしっかりしていて情報セキュリティ意識が高い人が必要だ。総務課長になるくらいの山根ちゃんなら、適任だろう。


「まず、HP回復ポーションのレシピをお伝えしておきます。資料1をご覧ください」


 どこからともなく画面に映し出された資料1に山根ちゃんが驚いてる。君枝ちゃんと理恵さんは、それよりも内容に気が向いているようだ。


「〈ステータス〉を得る前の人に、ダンジョン内でこのレシピ通りにポーションを作製してもらえば、生産系の〈スキル〉が得られるのではないかと考えています」


『ほう、興味深い』


『生産系の〈スキル〉はいまだに発見されていませんが、無いとは言えませんね』


『つまり、私が被験者になって検証を行うということでしょうか』


「山根ちゃんでなければダメというわけではありませんが、成功した場合の影響を考えると、誰でもとはいかないでしょう」


『面白いじゃないか。まずやってみたら良い。山根もそろそろ〈ステータス〉を得たっていい頃だろう』


 君枝ちゃんは乗り気だ。実際失うものは何もない。いや、山根ちゃんの「〈ステータス〉を持っていない」というステータスは失われるんだけど、君枝ちゃんの口ぶりからすると、あまり問題ではなさそうだ。


『分かりました。やってみましょう』

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