第3話 お礼なら黙認で

『分かりました。やってみましょう』


 山根ちゃんが頷いてくれたことで、冒険者強化計画は一歩前進だ。後は実際にやってみて、生産系〈スキル〉が生えてくれるのを祈ろう。


『それで、私たちはどんなお礼をしたらいいのかしら』


 ギブアンドテイク、相互利益はビジネスの鉄則だ。片方だけが得をする関係など、長続きしない。


「妾たちの要求は決めておる」


「はい。現在の『マヨヒガ』チャンネルを黙認していただけること。これのみです」


 これが私たちの要求だ。


 今って、ダンチューブの一角を違法に占拠している、みたいな感じになっている。電子的、物理的にはダンチューブ側を改変しているわけではないが、魔力的にはちょっとね。


 そういうわけで、いっそ黙認してもらおうというわけだ。


『それは……、局長』


『ふむ、嫌とは言わんだろう。何せアクセス数トップだからね。それよりもっと要求してもいいんだよ? チャンネルの収益化も可能だろう』


 動画の視聴回数によって収益が発生する仕組みがダンチューブにはあるが、それでお金を受け取るつもりはない。というか、お金を受け取ると身元がバレる可能性が非常に高い。


「ボクたちは銀行口座を持っていませんから、そもそも受け取る方法がありません」


『ああ、そりゃそうだね。山根、なんとかならないのかい?』


『そうですね。日本の法律では難しいですね。いっそ海外のネット口座を開いたらどうでしょう』


「その場合でも税金の支払いができません。そもそも戸籍がありませんから」


『戸籍があれば全部解決するってことかい?』


『概ねそうですね』


『キムンカムイちゃん、そうなのかい?』


「はい。ですがボクたちの戸籍を作成するなど無理でしょう」


『ほほ、私にまかせておきな。ツテはたくさんあるんだよ』


 にやりと笑う君枝ちゃん。すごくかっこいいです。というか、お礼の話しがでっかくなって私にはもうついていけない。


 結局、戸籍を作るっていうのがお礼になるの? 『本名:玉藻の前 本籍:マヨヒガ』とかになるんだろうか? 皆との続柄は姉妹とか? いやちょっと楽しみだぞ。


『それじゃあ、戸籍とダンチューブの黙認がお礼ってことでいいかい?』


「はい」


「うむ」


「オッケーっス!」



 なんだかお礼がすごいことになったけど、無事Web会議は終了した。後は2日後に、山根ちゃんが試した結果を報告してくれることになっている。


「ふー、無事に終わりましたね!」


「そうだね。お礼に戸籍って言われてビックリしちゃった」


「戸籍があれば、いろいろとできることも増えますし、君枝ちゃんには感謝です」


「早くポーションが作れるようになって、彩華ちゃんのお休みが増えるといいですね!」


「うん。そうだね」


「愛里ちゃんが手伝ってくれるだけですごく助かっていますよ」


「えへへ。私はまだ〈調合1〉だから作れる量がすくないけどね」


 Web会議では、生産系〈スキル〉が生えるかも、と言ったが、実のところ生えるのは既に確認してある。


 彩華ちゃんは、〈錬金術〉スキルの恩恵からか自信があったようだけど、私はちょっと不安だったのだ。なので、転生特典スキル以外で生産系〈スキル〉があることだけでも確かめた。


 やったことは単純で、彩華ちゃんから教わったポーション作りを、ダンジョン内でひたすら繰り返しただけ。薬研(やげん)で草をすりつぶし、卓上コンロで鍋を熱し、不純物を濾しとったら完成。


 ちなみに草というのは、ダンジョン内に生えていればなんでも良い。効果はまちまちだし、副作用が出たりするけど、練習だけなら気にする必要はない。


 あ、冒険者協会に渡したレシピは、ちゃんとした草を使うやつだから安心してほしい。その名も『ヒール草』。ダンジョン内だと割とメジャーな草だ。


「私も〈調合〉をとれたら良かったんだけどね」


「明さんには〈裁縫〉があるじゃないですか!」


 当然ながら、私も愛里ちゃんと一緒にポーション作りをやっていたんだけど、どうにも〈調合〉は生えてこなかった。


 それならばと、針と糸とフェイクファーでちくちくやってみたら〈裁縫〉が生えてきたのだ。前世では、コスプレを少々たしなんでいたからね。ちょっとした針仕事くらいならできる。


〈裁縫〉を得るための副産物として、もふ玉――フェイクファーでできたもふもふな球状クッション――が大量にできたので、彩華ちゃんのネクター社から売り出してもらった。意外に好評だとか。


「ボクにも〈鍛冶〉が増えましたし、生産職の冒険者が増えるのも、それほど時間がかからないかもしれませんね」


 愛里ちゃんが〈調合〉、私が〈裁縫〉ときて、彩華ちゃんが選択したのは鍛冶仕事だ。


 熊パワー、もとい、レッサーパンダパワーでガンガンハンマーを打ち鳴らし、黒鉄をガンガン変形させて立派なナイフを作っていた。


 今回の生産系〈スキル〉の検証は、冒険者を強化するのはもちろんだけど、私たちの装備を強化するのも目的のひとつだ。


 そう、ロールプレイの一大イベントと言っても良い。衣替え――、装備チェンジだ。

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