第1話 最初に会うのは冒険者協会で
【まえがき】
4章開始です。よろしくお願いします。
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7月の終わり、突如として予告されたお狐生配信と、それを乗っ取った『マヨヒガ』の出現。
夏の暑さにも負けない熱い話題は全世界を駆け巡り、『Mayohiga』はどこでも通じる言葉になった。ついでに『Okitsune-sama』も。
そして愛里ちゃんの新聞切り抜きも厚くなった。もうノート4冊目だ。
「マヨヒガ~♪ マヨヒガ~♪ マヨっ、マヨっ、マっヨヒガ~♪」
鼻歌なんて歌っちゃたりして、絶賛『マヨヒガ』フィーバー中で楽しそう。
一方彩華ちゃんは、お仕事の方が忙しくてあまりお休みが取れていない。基本的に朝と夕は一緒にご飯を食べているんだけど、夜遅くまでお仕事をしている。
「『マヨヒガ』のダンジョン攻略動画に触発されたのか、冒険者の活動が活発になってきています。それに伴ってポーションの消費も増加しています」
彩華ちゃんが社長を務めるネクター社は、冒険者にポーションと〈マジックアイテム〉を販売する会社だ。
商品はほぼ全て彩華ちゃんの〈錬金術〉スキルで作製している。在庫はまだ余裕があるが、消費ペースが早まればそれも焼け石に水だ。
「私たちに手伝えることはある?」
「彩華ちゃんのためなら、何でもしますよ!」
「ありがとうございます。明さん、愛里ちゃん」
ポーションの供給について、彩華ちゃんには何か考えがあるみたい。
「そのために『マヨヒガ』として冒険者協会にコンタクトを取りたいと思います」
「おぉ……」
「『マヨヒガ』の出番なんですか!」
「はい。冒険者協会に『生産職』を増やしてもらいます」
「『生産職』?」
「はい。武器や防具を作ったり、ポーションを作ったりしてもらう予定です」
「彩華ちゃんみたいですね!」
「狙いはそこです」
ポーションを作る人が少ないなら、作る人を増やせばいいじゃない! そういうことだ。
でも、今までポーションを作製したというのは彩華ちゃん以外聞いたことがない。実際に可能なのかな?
「検証も兼ねていますが、可能だと思います」
「どうやるんですか?」
「〈ステータス〉を得る際、モンスターを倒せば戦闘用の〈スキル〉が得られますよね。これを『生産活動』に変えれば、生産用の〈スキル〉が得られるのではないかと考えています」
「なるほど!」
「ほー」
コロンブスの卵的発想だ。モンスターを倒して〈ステータス〉を得る。これが固定観念になってしまっている、と彩華ちゃんは言っているわけだ。
「現実として、ボクはポーションの作製に成功しているわけですから、同じことが別の人で出来てもおかしくありません」
「そうだね」
「あっ、でも彩華ちゃん、自分の手で何かを作ってる職業の人も〈ステータス〉をとってるはずです。その人たちが、今まで生産用の〈スキル〉をもらっていないのって、おかしくないですか?」
たしかに。愛里ちゃんの指摘はもっともだ。
ずいぶん前だけど、私のような獣人がなんでスキルが生えやすいのか考えたことがあった。その時に、元々持っている技能が〈スキル〉化することがあるという話をした。
剣道を頑張っている人が、ダンジョン内で剣を振り回すと〈剣術〉スキルが生えたっていうアレ。
この理屈で行くと、例えば鍛冶師の人が〈ステータス〉を得ると、〈鍛冶〉スキルみたいなのが生えてきてもおかしくないということになる。
「推測になりますが、ダンジョン外の物を使った生産と、ダンジョン内の物を使った生産に違いがあることが考えられます。その最たるものが魔力です」
「魔力ですか!」
私も最近ちょっとずつ理解できている魔力。〈スキル〉を使ったり、体内でぐるぐるできる『気』みたいなやつ。
この魔力は、人間だけでなく、ダンジョン内のモンスターや魔石、素材アイテムなんかにも宿っている。
「これを加工したことがあるかどうかが、生産用〈スキル〉を得るために重要だと考えています」
◇ ◇ ◇
その日、冒険者協会日本支部・関東局は、静かな混乱の最中にあった。突如として、『マヨヒガ』から会いたいとの連絡があったのだ。
『マヨヒガ』、今や誰もが知ることになった名前。経歴は、名前以外一切不明。その名前すらも本人の自称に過ぎない。
しかしその人気は、留まるところを知らず、各所への影響力もまた甚大だ。
加えて、戦闘力についても目を見張るものがある。6月に起こったスタンピードへの助力は記憶に新しい。
『ダンジョン審判教』が背後についた、通称〈亡霊ダンジョン〉でのスタンピード戦では、その力を遺憾なく発揮し、人的被害ゼロでの封じ込めを成功させた。
その後の、一連の偽物騒動を鑑みるに、まだまだ実力を隠していると見るのが一般的な意見だ。
その『マヨヒガ』からの会いたいとの連絡だ。
いや『マヨヒガ』チャンネルへコンタクトを取ったのは冒険者協会からなのだが、それはそれ。実現可能性が著しく低いであろうという予測から、担当者が気軽に送ったコメントだった。
それに返信があり、その上会いたいだなんて。
そういうわけで、まさか断るわけにもいかず、『マヨヒガ』に対してどういう風に接すれば良いか、何を話すのか、誰が会うのか、上を下への大騒ぎとなった。
まあそれらの議論は、『マヨヒガ』からWeb会議を提案されて、ほとんどが無駄になったんだけどね。
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