第26話 おしおきするならもっと本気で
「わ、私たちが知っているのは、以上、です」
「はい。調査した情報通りです。玉藻さん、これで許してあげましょう」
「う、うむ。そうじゃな」
依頼主をごまかそうとする冒険者たちに向けて、都合3発の矢(ビーム)が放たれた。ちょっとずつ狙いが近付いていくのがとっても怖そう。
社長をやっているくらいだし、締めるところはきっちり締めるのは彩華ちゃんの方針なんだろう。結局冒険者たちは、全てを暴露した。
「じゃあ最後は玉藻さんの偽物っスね!」
冒険者たちをまとめて水で包んで遠ざけた愛里ちゃんは、いまだにリューちゃんの中でぐるぐるしている偽物女を私たちの前へと移動させた。
あまりにぐるぐるするものだから、偽物の巫女服がはだけて、ちょっといかがわしい感じになってしまっている。
ちなみに、肝心の部分はドローンカメラに映らない様、愛里ちゃんがしっかりガードしているので、問題はない。たぶん。
「それじゃあ出すっスよ!」
リューちゃんから吐き出された偽物女は、息も絶え絶えで、悲鳴を上げる元気すらなさそうだ。
この状態でちゃんとごめんなさいとかできるのかな?
「そんな演技とか良いっス。さっさと立つっスよ」
「くっ、分かったわよ! 立てばいいんでしょ立てば!」
え、ええー! あのぐったりしたのって演技だったの? うわぁ……。ちょっと怖いよ、この人。
「もう偽物だってバレてるんスから、どうしてこんなことをしたのかさっさと話すっス」
「はあ? そんなのお金のために決まってるでしょ。くだらないこと聞いてないでさっさと開放しなさいよ! 犯罪よ犯罪!」
「はぁ、元気っスねぇ」
うわぁ、ドン引きだ。ここまで見事な開き直りなんて、そうそうないんじゃないだろうか。開きすぎて扉がすっ飛んでいくレベルだよ。
「しょうがないっスねぇ……」
ポツリと呟いた愛里ちゃんが、女の方へ降りて行った。何をするんだい愛里ちゃん?
「……喚くな人間、喰らうぞ」
「ひっ……」
偽物女の耳元で小さくささやいた声は、私の狐耳にもしっかり聞こえていた。いつもの元気な声とは全く異なり、地の底から響くような低音には、呆れ・怒り・嘲笑・恨み、様々な感情が感じられる。
愛里ちゃんってあんな声も出せたんだね。正直言って……、すっごく良いロールプレイだと思います!
いいね、いいね! キャラ変っていうのは、出すタイミングが難しいんだけど、こういう要所で出すのもアリだね!
くぅ、かっこいい! これは私も負けてらんないね!
「どうやら、少しお灸が足りなかったようじゃな」
ふわりと右手を頭上に掲げ、〈狐火魔法〉を使う。
「あっ、ああっ……」
生み出したのは、夜の森に輝く青白い太陽。辺りを真昼に塗り変える、巨大な狐火。
「お主、これをくろうてみるか?」
「ぅぁっ……」
移動用の狐とは異なり、周囲をチリチリと焼き焦がす狐火によって、距離の近い木の天辺が燃え出した。パチパチと生木が弾ける音だけが森に漂う。
「ふっ、返事もできんか」
かっこよく狐火を出したは良いものの、偽物女が反応してくれなくなっちゃった。さらに狐火を大きくするとか、太陽のプロミネンスみたくガスを噴き出すとか、もうちょっと遊びたかったんだけどな。
「玉藻さん、火事は危ないっスよ!」
しょうがないから狐火は消したけど、燃えた木はそのまま。慌てた愛里ちゃんが消火してくれた。一応私も鉄扇で吹き飛ばすつもりではいたんだよ。だけど愛里ちゃんの〈水魔法〉の方が穏便だ。ありがとう。
「本人の口から聞けなくなってしまったので、代わりにボクが説明します。まずは資料1をご覧ください」
すらすらと偽物女の所業を説明していく彩華ちゃん。それはさながら、プレゼンテーションのようで、会社を率いる社長としての威厳がたっぷり。
「以上のように、複数の企業によって玉藻さんの偽物が作られ、冒険者を誘導し、利益を得ていました」
彩華ちゃんの説明が終わった。
使った資料はDギアをハッキングして得たものだ。よって、この資料を基にして偽物女たちを罰するのは難しいだろう。そもそも犯罪なのかも疑問だ。だけど、偽物としての活動を辞めさせるには十分だ。
それに、この資料は、以前臨時パーティーを組み、スタンピードの時にも『マヨヒガ』として接触した、後藤理恵さんに送ってある。
Dギアをハッキングして得た資料だけど、裏を返せば、冒険者協会なら合法的に得られる資料だ。理恵さんなら有効活用してくれるだろう。
「もう、終わりだわ。終わったのよ……。あはは……」
ああ、偽物女も粗相しちゃってるし。派手男と似たものだね。まあでも、これに懲りたら二度と悪いことはしないでしょ。後は理恵さんたち冒険者協会におまかせだ。
「うむ。偽物たちも反省した様じゃ。これにて生配信を終わるとするか」
――反省ww
――反省っていうか、ね?w
――正直……、ちょっと興奮した
――さすが玉藻の前様っス!
――キムンカムイちゃんの冷たい視線がやばいw
「それじゃあ最後に挨拶するっスよ! キムンカムイちゃんもこっちこっち」
「あ、はい」
「玉藻の前さんお願いっス」
締めの挨拶は皆で考えたやつだ。
「妾たちは『マヨヒガ』。この世界に迷い込んだ稀人。そしてお主らの友人。お主たちが礼を持って接するなら、こちらも礼を返そう。だが、非礼には容赦はしない。それが『マヨヒガ』。また会おう」
「バイバイっス!」
「さようなら」
決まったかな?
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