第27話 偽物騒動なら落着で

 あの生配信の後、偽物たちを〈ダンジョンポータル〉へ移動させ、私たちもこっそりダンジョンを抜け出した。


 配信している場所が〈狼ダンジョン〉であることは特定されていたようで、〈ダンジョンポータル〉前も〈門〉前もすごい人だかりで、見つからずに出るのに結構苦労した。


 まあ野次馬に紛れて移動しただけなので、肉体的にはそうでもないか。


 偽物たちは、やってきた冒険者協会の職員に連れられて関東局へご案内だ。なんでも、一応罪になるらしい。


 それよりも影響の大きかったのは、偽物を使って利益を得ようとした会社の方だ。


「株価が急激に下落しています。これを機に競合から敵対的買収を仕掛けられていますね」


「何だか良く分かんないけど、ざまぁってことですよね!」


 たぶんそう。


 あと普通に罪にも問われている。冒険者協会からも捜査が入っているらしい。


「それよりも見てくださいよここ! えへへ、『マヨヒガ』って書いてありますよ!」


 玉藻の前の偽物が出現した、という話題は一気に広がった。『マヨヒガ』という謎でミステリアスな名前と共に!


『マヨヒガ』、一体どういった存在なんだ……、ミステリアスだ……。いいね!


 愛里ちゃんは、念願の『マヨヒガ』フィーバーにニヤニヤしっぱなし。いくつも新聞を買ってきては、私たちの記事を切り抜いて集めている。スクラップブックってやつ。


 そして、有名になったと同時に増えたのが、私たちとコンタクトを取りたいというお願いだった。


「『マヨヒガ』チャンネルのコメント欄にまた増えています」


 今までは、どこにいるかもわからない存在だったのが、公式(?)チャンネルを持つようになったのだからこうなるのは予想できた。


 日本だけでなく、海外からのお誘いもある。


「海外の新聞にも『Mayohiga』って載ってるんですよ!」


〈人語理解〉スキルを持つ愛里ちゃんは、英語でも中国語でもタガログ語でも、どんな人語であっても読むことができる。


 切り抜いた新聞の山ができないか、ちょっと心配だ。


「新しい動画を投稿してほしいという声も多くなっていますね」


「新しい動画かぁ……。愛里ちゃんは何かやりたい?」


 コンタクトを求めるコメント以外にも、純粋に『マヨヒガ』の動画を求める声もある。むしろ、数自体はこっちの方が多い。母数もあるから当然かもしれないけどね。


 チャンネルの運営は、愛里ちゃんに一任してあるので、何かやりたいのならやってみても良い。


「私たちのダンジョン攻略動画なんてどうでしょう! リューちゃんに乗って駆け抜けるんです!」


「それってちゃんとした『攻略』動画になるかな?」


 攻略というより、散歩とか疾走になりそうだ。特にココやリューちゃんに乗ってのダンジョン攻略は、高速で移動しながら転生特典スキルの魔法をバンバン撃ちまくるストロングスタイル。誰も真似できないし、真似しようとも思えないだろう。


「ダンジョン配信のトレンドを分析した結果、悪くない案だと思います。というより、『マヨヒガ』は話題性が著しいので、どんな動画を出しても視聴数は稼げるでしょう」


「人気に胡坐をかいていてはダメです! しっかり面白い動画をお届けしないと!」


 どちらが言うことももっともだ。何もせずに座っているだけの動画でも視聴数は稼げるだろう。


「じゃあ、ちょっとだけダンジョン攻略動画を撮ってみようか。力は小出しで、底が知れない強者感を出していこう」


「良いですね! やりましょう!」


「撮影と編集はまかせてください」


 偽物騒動が起こった時はこんなことになるとは思ってもみなかった。でもこんなロールプレイも悪くない。私たちこそが『マヨヒガ』なんだ。


「早く行きましょう!」


「準備完了です」


「うん。行こっか」



――――――――――――――――――――

【あとがき】

 これにて3章終了です。お読みいただきありがとうございました。

 掲示板回を1つ、登場人物紹介を1つ挟んで4章となります。

 4章もよろしくお願いします。

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