第21話 騎乗ゴーレムなら熊さんで

 騎乗ゴーレムは一旦お預けで、まずはDギアのアップグレードを行うことに。


 といっても、特に何が変わるわけでもなく、専用のアプリ的なものをインストールすれば作業は終わりだ。


「あと、これは玉藻さん用のDギアです」


「玉藻用の?」


「はい。明さんが変身するときは、装備も変わってしまうんですよね? なので、玉藻さん専用のDギアを用意しました」


 用意しましたって、これを扱えるのは冒険者協会だけだよ? もしかしてパクって……。


「これはボクが作ったものなので問題ありませんよ。なので実際には、Dギア風のものってことになります」


「彩華ちゃんってすごいね! なんでも作れるんだね!」


「何でもは無理です。作れるものだけです」


 あっ、高速耳ピクピク! 決め台詞も頂かれてしまった。彩華ちゃんなかなかやるね。


 Dギアはありがたくもらっておいた。今まで付けていた真っ白のタイプではなく、朱と白が混じった、どことなく数珠風のDギアだ。玉藻の前の巫女服ともマッチしていてとってもグッド。


「彩華ちゃん、ありがとう」


「いえ」


 む、高速耳ピクピクするかと思ったけど、耳がペタンとなっている。これはなんだろう。


「?」


「ぅ……」


「明さん! なでなでですよ!」


 なるほど。これはなでなで待ちだったか。いっぱい撫でてあげよう。なでなでなでなで!


「彩華ちゃんもようやく家に慣れてきたみたいで良かったです!」


「うぅっ……」


 恥ずかしがってる熊耳も可愛いね。


 よし、愛里ちゃんもなでなでしてあげよう。なでなでなでなで!


「えへへ」


 満足いくまで2人をなでなでしている間に、Dギアのアップグレードは終わった。


「それで、余った時間をどうしましょうか?」


「そうだね。2人は何か希望はある?」


「ボクは騎乗ゴーレムを作るのと、操作の練習くらいです」


「私も特にないですね」


「じゃあ彩華ちゃんについて行こっか」


 分かれて何かをする必要もないので、彩華ちゃんのゴーレム作製と試運転に付いていくことにした。というか、騎乗ゴーレムとか気になりすぎる。絶対見たい。


「会社の方は大丈夫なんですか? ポーションって彩華ちゃんが作ってるんですよね?」


「在庫はたくさん用意してありますし、補充は〈マジックアイテム〉で自動化しているので問題ありませんよ」


 1週間ほど留守にしても問題ないらしい。ということで早々に就寝し、明日はゴーレム作製だ。


 ちなみに最近の配置は、私・彩華ちゃん・愛里ちゃんの順だ。




「それではゴーレムを作製します」


 やって来たのは関東04〈狼ダンジョン〉。慣れたダンジョンということもあるし、森林型で隠れるのに便利だということもある。


 それになにより、『玉藻の前の偽物が生配信する予定のダンジョン』だということもある。この情報は、彩華ちゃんがゲットしてきたもので、公開されているものではない。


「材料は、魔石とマルチドールコアに、金属系材料と爪や牙などの素材アイテムです」


「フェイクファーも渡しておくね」


「ありがとうございます」


 ここでもフェイクファーが大活躍だ。出来上がるゴーレムもきっともふもふになる。いっぱい集めておいて良かったね。


「それでは、錬金!」


 集めたアイテムがぐにょんぐにょん変形し、2メートルほどの白い巨体が出来上がった。


「ふぅ、完成です」


「おっきいですね!」


「うん。大きいし、もふもふしてる」


――べあっ


 鳴き声は「べあ」らしい。つぶらな瞳と小さなお口、ピコピコ動く耳と尻尾、そしてもふもふな体に意外と似合っている。


「彩華ちゃん、名前を付けましょうよ!」


「そうですね。うーん、金太郎……、はちょっと変ですね。キンタ……、キンクマ……」


 ちょっと雲行きがあやしくなってきたぞ? 彩華ちゃん、一旦「キン」から離れようか。


「そうすると、やはりベアですか。ベアー、ベアタロウ、ベアクマ……。うん、決めました」


 私と愛里ちゃんに緊張が走る。


「ベアトリクスにします」


「「……」」


 セーーーフ! 多分セーフ! 最初は太郎で男性名だったのに、最後はベアトリクスで女性名じゃないかとか、いろいろあるけどセーフ!


「良い名前だと思います!」


――べあ!


 あれ、そういえば、ゴーレムを操るのに〈操り人形の糸〉を使うって話だったけど、普通にベアトリクスは動いているよね。


「マルチドールコアが予想以上に高性能だったので、疑似人格を搭載できました。独立行動ができますし、〈操り人形の糸〉を使って動作の補助や強化もできます」


「良く分かりませんが、彩華ちゃんはすごいですね!」


「うん。すごいね」


 それじゃあベアトリクスに試乗だ!


 背中の毛皮の下の足を乗せる用のステップと肩の持ち手で、背中に騎乗することができる。また、腰に接続するシートベルトのようなものもあるので、手放し騎乗も可能だ。


「最初はゆっくり歩いてみます」


 彩華ちゃんを乗せたベアトリクスがゆっくりと歩きだした。足運びは軽快で、少々の藪や木の枝などはものともしない。


「揺れはどうですか? 気持ち悪くなったりしてないですか?」


「大丈夫そうです。ベアトリクスが気を使ってくれてますので」


――べあっ


「じゃあスピードを上げてみよう」


「はい。明さんに付いていきます。ベアトリクス、よろしくお願いします」


――べあ!


 徐々にスピードを上げて森の中を走る。ベアトリクスは、体格に見合わず器用で、障害物を避けてなかなかのパルクールを見せている。たまにどうしようもなくて木を粉砕しているのはご愛敬。


 問題は、背中に乗っている彩華ちゃんだけど。こちらも問題なさそう。楽しそうに耳が高速ピコピコしている。


「ベアちゃんやりますね!」


「補助も不要で十分ですね」


「うん。これなら『マヨヒガ』でもやっていけるよ」


――べあっ!

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