第22話 空を飛ぶなら熊さんで

 騎乗ゴーレムのベアトリクスが出来上がって良かったんだけど、2メートルの巨体をどう持ち運ぶのかという疑問が浮かんだ。


「そこは考えてあります。ベアトリクス、スタンバイモード」


――べあっ


 シュルシュルとベアトリクスの体が縮み、30センチほどのぬいぐるみサイズに変化した。


「なんですかこれ!? ベアちゃんがちっちゃくなっちゃいました!」


「マジックバッグのちょっとした応用です。ここからさらにベアトリクスをマジックバッグに入れることはできませんが、リュックに偽装すれば持ち運びに便利です」


 ぬいぐるみサイズになったベアトリクスの背中には、なるほどリュックのようなショルダーベルトが付いている。


 実際に彩華ちゃんに背負ってもらうと、熊モチーフのリュックに見えなくもない。


 この形態とは別に、一般的なリュックに偽装するモードもあって、女社長の時に背負っていても違和感はない。


「とっても可愛いですね!」


「愛里ちゃんのベッドに置いてある熊さんを参考にしました」


 なるほど。愛理ちゃんの頭を守っているあの熊ちゃんか。


「飛行モードも試してみます」


「そういえば飛べるって言ってたね」


「どんな風に飛ぶんでしょうか!」


「ベアトリクス、騎乗モード」


――べあっ


 再度大きくなったベアトリクスに彩華ちゃんが跨る。


「〈操り人形の指輪〉を使います。ベアトリクス、飛行!」


――べあ!


 トンと2足で飛び上がったベアトリクスは、空中で四肢を伸ばし、宙に浮いている。いわゆるスーパーヒーロー飛行スタイルだ。


「おー! 安定してますね!」


「どれくらいの移動速度なんだろ?」


「移動してみます」


 スーッと前後左右にスライド移動するベアトリクス。見た感じ、氷の上を滑るような動きだ。細かい制御は難しいのかもしれない。


「どう? 自由に動けそう?」


「速度は出そうですが、小回りは利きそうにないです。もう少し慣れればマシになるかと」


「どれくらい乗っても大丈夫です? 私もベアちゃんに乗って飛んでみたいです!」


 愛里ちゃんのお願いに答えて、前から彩華ちゃん・私・愛里ちゃんの順で、4足形態になったベアトリクスの背中に跨った。


「飛べるかな?」


「彩華ちゃん、お願いします!」


「やってみましょう。ベアトリクス、飛行!」


――べあぁっ!


 4足で力強く踏み切ったベアトリクスが宙に浮く。一瞬だけ不安定になったが、彩華ちゃんが制御を取り戻し、その後は安定して浮かんでいる。


「少しMPの消費が増えましたが、飛行は十分可能です。ただ、小回りは全く利きません」


「もふもふで気持ち良いですけど、3人乗りは止めておいた方が良さそうですね」


「そうだね。リューちゃんをもふもふにした方が良いかも」


「リューちゃんをもふもふに!? 今度試してみましょう!」


 ベアトリスの試乗も終わったが、時間はまだお昼前。折角ダンジョンへ来ていることだし、彩華ちゃんのレベル上げをすることにした。


 彩華ちゃんは、あまりダンジョン攻略の時間が取れていないので、レベルがまだ7だ。いざという時のためにレベル10くらいにはなっておいて欲しい。


〈狼ダンジョン〉はDランクダンジョンなので、今日1日頑張れば十分届くと思う。


「彩華ちゃんのスキルは〈盾術〉と〈属性魔法【地】〉だっけ?」


「はい。冒険者証にはその2つを登録してあります」


「魔法系ってことは、私と同じ感じですね!」


「切り札として、〈錬金術〉製のクロスボウも持っています。名前は〈回転式魔力クロスボウ〉です」


 魔力で矢を生成し打ち出すもので、チェンバーを回転させて矢の属性を切り替えられる優れもの。弦を引く機構も魔力駆動で連射性も良い。


 また、〈錬金術〉スキルの補正が乗るようで、威力は申し分ないどころか、「飛翔体が矢っていうかビーム?」という感じ。


 私や愛里ちゃんが撃つと、普通に矢が飛ぶよ。


「これなら攻撃力は十分だね」


「〈気配察知〉も練習しながら進みましょう!」


「索敵は〈マジックアイテム〉頼りで行っていたので、ちょうど良い機会ですね。頑張って練習します」


 やはり森。獣人との相性は抜群だ。〈気配察知〉、〈身体強化〉、〈隠密〉などをバランスよく鍛えることができる。


 ついでに〈軽業〉と〈疾駆〉も鍛えてもらおうとしたんだけど、2人ともそんな動きは無理と拒否されてしまった。〈軽業〉と空中〈疾駆〉ができるようになると森が一層楽しくなるんだけどな。残念だけど次の機会にしよう。


「ここの階層ボスもいませんねぇ」


「人気ダンジョンですから仕方ないです。それでもレベル10まで上がりました。成果としては十分です」


 10階層まで降りてきて、階層ボスとは一度も戦えていない。それでも道中で大量のウルフを倒しているので、経験値は十分だ。


 成果として、〈気配察知〉と〈隠密〉、そして新スキルの〈専心〉が彩華ちゃんに生えてきた。


〈専心〉というのは、一点に集中することで遠距離攻撃が命中しやすくなるスキルらしい。反面、周囲への注意力が減るので、後衛向けのスキルだね。


 キリが良いので今日はここまで。


「久々のダンジョンだったので、疲れました」


「頑張ったね、彩華ちゃん」


 ダンジョンから出る前になでなでだ。人目のあるところでは女社長モードでいるので、なでなでは今しかできない。


「私も疲れました!」


 こっちもなでなでだ。

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