第20話 物欲センサーに勝つには無心で?

 偽物のダンチューブでの生配信。


 欲をかいた犯人たちは、さらに儲けを増やすため、生配信を行う計画だという。


 すでに配信予告が作られていて、生配信を行うチャンネルの登録者はうなぎ上りだ。


「配信者の特定は済んでいます。生配信に『マヨヒガ』が登場すれば、面白いことになると思いませんか?」


「やった! 偽物をぎゃふんと言わせられます!」


「彩華ちゃんも結構過激だね」


 高速耳ピコピコ! これはやる気を表しているんだね。


「そのためには、絶対に『マルチドールコア』が必要です」


 話しはマルチドールコアに戻ってきた。何の策も無しに生配信へ突入するのは、身元がバレるリスクが大きい。


 それに、途中で配信を止められる危険性もあるので、こちらでも配信を継続できるよう手を打っておく必要がある。


 要は私たちも配信すればいい。


「このチャンネル登録者だって、私たちの人気のおかげなんですよ? 本当なら『マヨヒガ』チャンネルの登録者だったんです!」


 それはちょっと暴論ではないだろうか。でも言いたいことは分かる。


「明日からはダンジョンを降りていって最奥を目指そう」


「最奥まで移動するのに4日くらい。ボスを倒して彩華ちゃんが錬金術して、ギリギリになりますね」


「錬金とDギアのアップグレードは1日もかかりません。あとは生配信のために、突き付ける証拠を整理しておきますね」


 作戦の成功は、私たちが『マルチドールコア』を入手できるかどうかにかかっている。


 物欲センサーに打ち勝つには無心だ。無心でマーダードールを倒すんだ。




「……なんか出ちゃいましたね」


「うん」


 決意を新たにした翌日。30階層の階層ボス、マーダードールを倒して先に進もうとしたところ、ポロっと『マルチドールコア』がドロップした。物欲にまみれ切っていたのにどうして?


「良いことですよね?」


「うん」


「戻りますか?」


「うん。戻ろっか」


 ダンジョンに来たばかりだが、すぐに戻ることにした。滞在時間は1時間ほど。そのまま仕事中の彩華ちゃんの元へ押しかけ、『マルチドールコア』を手渡した。


 女社長姿でとても驚いていたが、熊耳がどう反応しているのかは分からない。くっ、これなら夜に、元の姿でいるところで渡せば良かった。大失敗だ。


「すぐに作業に取り掛かります。また夜に伺いますね」


「よろしくね、彩華ちゃん!」


「ご飯作って待ってるね」


『マルチドールコア』が手に入るかどうか、時間との勝負だ!みたいなテンションで今日が始まったのに、一瞬で片が付いたので暇になってしまった。あとテンションの落差で気が抜けちゃった。


「どうします?」


「どうしよっか?」


「もう1回〈人形ダンジョン〉に行きますか?」


「え、どうして?」


「もう1個『マルチドールコア』があったら、彩華ちゃんも嬉しいかなーと」


「暇だし。そうしよっか」


「はい」


 なんとなーく緩んだテンションのまま、なんとなーくマーダードールを倒すと、もう1個マルチドールコアがドロップした。


「どうしてですか?」


「物欲センサーのせいかな……」


 さすがに3個目は落ちず、夕方になったのでダンジョンを出て帰宅。


 2個目のマルチドールコアを彩華ちゃんに渡すと、熊耳がピーンってなってた。やっぱりね。そうなると思ってたんだ。


「1個で良かったんですが、これはどう使いますか?」


「私たちには必要ないし、彩華ちゃんが使って良いよ」


「はい! 彩華ちゃんにプレゼントです!」


「ありがとうございます。それなら騎乗ゴーレムを作るのにちょうど良さそうです」


 騎乗ゴーレム! なかなかロマンがありそうな名前じゃないですか。一体どんなものなんだ。


「『マヨヒガ』でいうと、龍や狐のようなものです」


「あっ、確かに。私にはリューちゃん、明さんにはココちゃんがいますが、彩華ちゃんには相棒がいませんでしたね」


「そっか。忘れてた」


 いけないいけない。まだ一緒にダンジョンに入ってないから、完全に忘れてた。玉藻の前と真神が悠々と移動している脇で、キムンカムイがダッシュしてたらミステリアスじゃない。移動手段は必須だ。


「どんなゴーレムにするんですか?」


「やはり、熊型でしょうか」


「それが王道かな」


「あっ! 彩華ちゃん、よく考えて作らないと、すっごく揺れて気持ち悪くなっちゃいますよ!」


 あー、そんなこともあった。初めてリューちゃんを作ったときは、上下左右にぐねんぐねん揺れていて、一瞬でグロッキーだったね。


「アドバイスありがとうございます。4足歩行にすると、ゴーレムの体の大きさから揺れるのはどうしようもないですね……」


「いっそのこと2足歩行にするとか?」


 熊だからって4足歩行にこだわることはないでしょう。どうしても揺れがダメなら、最悪飛んでしまえばいい。本当に飛べるかは知らないけど。


「背中にキャリー用の台座を付けて……、ありですね。飛ぶのは難しくありません。手持ちの魔石で足りるでしょう」


「ほぇー、熊さんって飛べるんですね」


「ゴーレムの操作には、〈操り人形の糸〉を使わせてもらっても良いですか?」


〈操り人形の糸〉は〈人形ダンジョン〉で手に入れた〈マジックアイテム〉で、愛里ちゃんが試したいことがあると確保していたやつ。試したいことってなんだったんだろうか。偽物騒動でうやむやになっちゃってた。


「もちろん良いですよ!」


「試したいことがあるって言ってなかった?」


「ぬいぐるみに乗れるかなって思ったんですが、全然ダメでした! はい、彩華ちゃん」


「愛里ちゃんと2人で試してみたんです。ぬいぐるみだとパワー不足で乗れませんでしたが、ゴーレムならパワーは十分です」


 なるほど。2人で仲良く遊んでたんだね。


「他に必要なものはある?」


「少しフェイクファーを貰えますか?」


「たくさんあるよ」


 文字通り、あげるほどある。


「ありがとうございます。早速錬金で……、は止めておいた方がいいですね。ゴーレムで床が傷つきそうです」


あら、残念。

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