第19話 物欲センサーには気を付けて

「『水蛇手』!」


 マーダードールから放たれた矢を、愛里ちゃんが真っ向から撃ち落とした。罠で鍛えた水蛇手に、見え見えの矢など効果はない。


「えい」


 懐へ飛び込んだ私の元へ、左右から剣が襲ってくる。まずは左側の剣へ槍を叩きつけ、反動と槍のしなりを利用して右も弾く。


 矢を落とされ、剣を弾かれてがら空きになった胴体へ、くるりと槍を反転し石突を叩き込んだ。


「えい」


 衝撃で吹っ飛んだマーダードールの胴体はひび割れているがまだ倒れてはいない。空中で態勢を整え、壁にしっかりと4本足で着地する。反射するボールの様に、こちらへ飛び出そうとしたその時――、


「『水蛇・ヤマタノオロチ 断ち水』!」


 8本の水蛇から極細の水が放たれ、マーダードールの4本腕を切り落とした。


 急に腕を失ったマーダードールは、その重心の変化に対応できず、無様にも壁から滑り落ちている。


「えいっ」


〈疾駆〉を使い、一瞬で距離を縮めた勢いそのままに槍を突きだせば、マーダードールは消失し、魔石を1つドロップした。


「また魔石だけです!」


「やっぱりただのマーダードールじゃなかなかドロップしないね。レア枠だし」


 私たちがいるのは〈人形ダンジョン〉の30階層。今倒したのは、階層ボスの『マーダードール』だ。


 Dギアをアップグレードするために『マルチドールコア』を求めてマーダードールを倒しているんだけど、2日かけて8体倒し、ドロップは無し。マルチドールコアはマーダードールのレアドロップだ。


「階層ボスでレア狙いは、やっぱり無謀なんですかぁ……」


「運だからね。次で出るかもしれないし、出ないかもしれない」


 モンスターのドロップアイテムには、確定ドロップ、確率ドロップ、レアドロップの3つがある。


 確定ドロップはその名の通り100%得られる。確率ドロップは概ね20~40%で、モンスターによって異なる。そしてレアドロップは、数%と言われている。


 数時間に1回しかリポップしない階層ボスで数%を狙うのは、少し無謀かもしれない。


「次の階層ボスの『リーダーマーダードール』もレアドロップなんですよね?」


「うん。最奥の40階層まで行けば、『エリートマーダードール』が確率ドロップだね」


 30階層で2日粘った理由がこれだ。確率ドロップでマルチドールコアを狙うには、最奥の40階層まで行かないといけない。


 それがちょっと面倒くさかったのだ。


「諦めて進みます?」


「そうしよっか」


 急がば回れって言うしね。


「でも今日はお家に帰りましょう」


「ん、賛成」


 料理の補充もしたいし、ゆっくりベッドで休みたいので、今日はここまで。


「明さん、彩華ちゃんがお仕事終わったって言ってますよ!」


「わかった。買い物して帰るから、お夕飯の希望を聞いておいて」


「はい!」


 彩華ちゃんは、愛里ちゃん以上に料理ができない。普段は外食で済ませているそうなので、時間があるときは一緒に食事をとるようにしている。


「お魚が食べたいそうです!」


「お魚ね。スーパーに寄ってから何にするか決めよう」


 もう夕方過ぎなので、新鮮なお魚が残っているかあやしい。久しぶりにお刺身を食べたい気もするけど、見切り品とか残ってないかな。




「もぐもぐ、美味しいです」


「いっぱいあるから遠慮しないでね」


「はい」


 結局お刺身は無しで、メインはアジの南蛮漬けにした。野菜もとれるし、お酢のパワーで夏バテ対策もばっちりだ。


 彩華ちゃんも獣人なので、体格が小さい割に良く食べる。……と思ったけど、体格は私とほぼ同じくらいだし、お胸様は圧倒的な差でした。納得の食事量です。


 大きいステンレスのバットいっぱいに作った南蛮漬けは、余ることなく3人のお腹に収まってしまった。


「ごちそうさまでした!」


「ごちそうさまでした。明さん、いつもありがとうございます」


「うん、お粗末さま。いっぱい食べたね」


 さて、今日彩華ちゃんが家に来たのは、お夕飯を一緒に食べるのもそうだが、偽物の調査の報告もある。後片付けを3人で済ませ、リビングで彩華ちゃんの報告を聞くことにした。


「まず、近畿局エリアで確認された尻尾の持ち主ですが、話題目的の愉快犯であることがわかりました」


 あー、そっちにもいたね。パッと一瞬だけ話題になって、その後立ち消えていたから気にしてなかった。


「冒険者協会が発見し、犯人は厳重注意になっています」


「いいザマです!」


「こっちに出た偽物はどう?」


「偽物とダンジョン内で尻尾をチラ見せしていた人は別人です。尻尾の方はすでに特定が済んでいます。冒険者協会内部にも協力者がおり、目的はおそらくお金です」


 彼らが目を付けたのは、お狐様効果による冒険者の移動だ。


 ダンジョンで入手した魔石や素材アイテムなどは、まず冒険者協会で買取され、その後に各所へ販売される。冒険者からの直接買取はほとんどない。


 そこで犯人たちは、冒険者が入るダンジョンをコントロールしようとした。そのための方法がお狐様だ。


「複数の企業へ秘密裏に接触し、望む素材が手に入るダンジョンへ冒険者を集めていたようです。そして、納入量に応じてキックバックを受け取っていました」


「そんなことになってたんですね」


 はえー、賢いね。やってることはダンジョンで狐尻尾らしきものを匂わせするだけ。それでキックバックが得られるんならボロい商売だ。


「でも、玉藻さんの偽物が出てきたのは何だったんですか?」


「儲けを増やそうと欲をかいたようです」


 ふむふむ。玉藻の前(偽)の目的が〈マジックアイテム〉だと分かり、物見遊山だった冒険者も積極的に攻略し、モンスターと戦うようになっただろう。すると素材アイテムのドロップも自然と増えると、そういうわけか。


「人の人気で儲けようなんてひどい話です! やるなら正々堂々やればいいんです!」


「そうだね」


 このままじゃ、玉藻の前=守銭奴、みたいな悪いイメージが付いてしまう。これは良くない。ミステリアスじゃない。なんとか反撃したいところだ。


「絶好の反撃の機会があるんです。一週間後、偽物がダンチューブで生配信をするそうです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る