第18話 偽物相手には役割分担で

 ひとまずロールプレイの準備は整った。


 いずれ実践する時がくるだろうが、まずは目の前の問題を片付けないといけない。


「変身!っと。それで彩華ちゃん、偽物を調べるって言ってたけど、私たちに手伝えることってある?」


「偽物にぎゃふんと言わせるためなら、何でも手伝いますよ!」


 元の姿に戻った愛里ちゃんも気炎を上げている。


「調査自体はこちらでやれます。ですが、少し素材アイテムを集めてもらいたいんです」


「素材アイテム?」


「はい。私たちのDギアをアップグレードします」


 ほう、アップグレードとな? 一体どういうことだろうか。


「Dギアはダンジョンに入った記録と、おおまかな位置情報を記録しています。そのため『マヨヒガ』が現れた時の情報を確認されると、私たちの正体を知られてしまう可能性があります」


「それを防げるようにするってこと?」


「そうです。実際には、Dギアとサーバーの間に錬金術製のダミーを挟んで、偽の情報を与えるようにします」


 詳しくは分からないけど、正体がバレるリスクが減るなら願ってもない。


「それに、こうしておけば、ダンチューブでの動画配信も可能です」


「え、配信できるんですか? やった! 『マヨヒガ』で配信しましょうよ、明さん!」


 正体不明の玉藻の前がいきなり動画配信、情報を得ようにも全くの不明……。良いね! ミステリアスだね!


「良いと思う。彩華ちゃん、必要な素材はどんなの?」


「お2人に入手してもらいたいのは『マルチドールコア』。〈人形ダンジョン〉深層の階層ボス、『マーダードール』から入手可能です」


『マーダードール』は、〈人形ダンジョン〉の30~40階層に出現する階層ボスだ。30階層は通常種、35階層はリーダーモンスター、最奥である40階層ではエリートモンスターのマーダードールが出現する。


「確定ドロップではないなので、入手するためには、何度か倒す必要があるかもしれません。その間に、私は情報収集を行います」


「情報がそろったら、ダンチューブでぎゃふんと言わせるんですね! 楽しみです!」


「偽物に好き勝手されるのは良くないもんね」


「はい。情報が集まり次第また連絡します」


「わかりました、彩華ちゃん! こっちは早速ダンジョンに行ってきますね。行きましょう、明さん!」


「うん。彩華ちゃん、またね」


「はい。さようなら、明さん、愛里ちゃん」




 彩華ちゃんと別れた私たちは、その足で〈人形ダンジョン〉へと向かった。


 ストレス発散目的で入っていたとはいえ、攻略目的ではなかったので、まだ10階層の〈ダンジョンポータル〉までしか到達していない。


 目標のマーダードールは30階層から出現するので、まずはそこまでの移動だ。


「『水蛇・ヤマタノオロチ』!」


 はりきっている愛里ちゃんの両手から伸びる水の蛇が、ドアを開け、罠を無効化し、モンスターを貫いていく。


 ほとんど速度を緩めることなく駆けていく私たちだけど、しっかりした地図がないのでそう簡単には次の階層への階段を見つけることはできない。


 一応ざっくりとした階段の位置は調べてある。調べたのは彩華ちゃんなんだけどね。


 また、いくつかの階層では、信憑性の高そうな地図を入手できた。これにより、2日で5階層を進む程度の速度で移動できている。


「明日には15階層に行けそうですね」


「そうだね。はい、サンドイッチ」


「ありがとうございます! はぐっ、もぐもぐもぐ」


 今日は12階層と13階層をつなぐ階段そばでキャンプだ。事前にご飯を用意していなかったので、簡単なサンドイッチでお夕飯。


「偽物をぎゃふんと言わせたら、彩華ちゃんと一緒にキャンプしたいですね」


「うん。でも彩華ちゃんは社長さんだから、あんまり遊ぶ暇はないかも」


 専業冒険者の私たちと違って、彩華ちゃんの本業は社長さんだ。そう簡単に、何日もダンジョンに入ることはできないんじゃないかな。


「あー、たしかにそうですよね。じゃあ、お泊り会をしましょう。それならいつでもできますよ!」


「良いと思う。彩華ちゃんに聞いてみようか」


「はい! 私が連絡します!」


 楽しそうにDギアをいじる愛里ちゃん。私以外にも、獣人のお友達ができて良かった。


 お友達には、臨時パーティーを組んだしおりちゃんや中内姉弟がいるけど、獣人であることは明かせない。秘密を抱えたままお友達でいるというのも、騙している様でつらいものがある。


 愛里ちゃんと彩華ちゃん、お互いが良いお友達になれたら良いな。


「決まりました! 明日、私の家でお泊りです!」


 心配は無用かな?


「うん、わかった。それじゃあ今日はもう寝ようね。寝ずの番は私がするから」


「はい!」


 テンションが高かった愛里ちゃんも、定位置である私の膝の上に来ると、すぐに眠りに落ちていった。

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