第17話 ロールプレイ仲間なら歓迎で

「ところで彩華ちゃん。さっきのお姉さん姿はなんだったの?」


「あれは幻影です。愛里ちゃんのように耳と尻尾を隠せなかったので、〈マジックアイテム〉を作って、姿を偽っていたんです」


 ほほう。私の〈変身〉スキルみたいなものかな。


 アイテム名は〈幻影の腕輪〉。登録した姿の幻影を纏うことができるというもので、実体との動きの齟齬(そご)もある程度補正してくれるんだとか。


 そうは言っても幻影なので、直接接触があると違和感を持たれるし、声もそのままなので、声を変えるマジックも併用する必要がある。


「身分証明はすべてあの女社長姿に書き換えてあります。Dギアのサーバーをハッキングするより、よほど簡単でしたよ」


 自慢げに耳を高速ピコピコさせる彩華ちゃんだけど、言ってることはかなり過激だよ。


 彩華ちゃんの事情が分かったので、今度は私たちの事情を説明する番だ。といっても、私たちの動きは調査済みで、玉藻の前と真神について少し補足するくらいで終わり。


「転生特典のスキルを使うために、ロールプレイというものをしていたんですね」


「うん。パーティー名は『マヨヒガ』。愛里ちゃんが考えてくれたんだよ」


「私が考えました! 良い名前ですよね?」


「はい。良い名前だと思います」


 今度は愛理ちゃんが自慢げだ。2人の相性は結構良いみたい。


「お2人とは別の玉藻の前もロールプレイの一環なんですか?」


 おっと、それを聞いちゃいますか。自慢げだった愛里ちゃんが今度はプンプン怒っている。よほど偽物が許せないようだ。


「あれは偽物です! 私たちが本物なのにひどいですよ!」


「なるほど。調べても関連性が見えてこないので不思議に思っていたんですが、玉藻の前を騙る偽物でしたか」


「うん。愛里ちゃんと調べてたんだけど、犯人が分からなくて困ってたの。彩華ちゃんは何か知ってる?」


「いえ。明さんたちの周囲にそれらしい人がいない、というところまでしか調査していません。良かったら詳しく調査してみましょうか?」


「良いの?」


「はい。その代わりと言ってはなんですが、私も『マヨヒガ』に入れて欲しいのです」


 なになに、彩華ちゃんもロールプレイに興味があるのかな? 彩華ちゃんの場合、普段の生活が女社長モードだから、『マヨヒガ』の姿としてレッサーパンダ――じゃなかった、熊耳モードでいれば良いね。


「もちろんです! 良いですよね、明さん!」


「うん。ロールプレイ仲間が増えるのは嬉しい」


「早速設定を考えましょうよ! まずは名前からです!」


 愛里ちゃんもずいぶん積極的になったものだ。私の薫陶がばっちり身に付いているようで嬉しい。


「彩華ちゃんは、何か希望の名前はありますか?」


「熊獣人ですから、熊に関連するものがいいですね」


「熊、熊……、キムンカムイなんてどうでしょう。山の神でヒグマのことを指します」


「キムンカムイですか。良いと思います」


 キムンカムイね。私はよく知らないけど、愛里ちゃんが言うなら間違いないでしょう。


 口調は特に変えずそのままでいくようだ。女社長モードとは差別化できているので、このままで問題ない。むしろ一人称がボクっ娘でポイント高いよ。


「それじゃあちょっと練習してみましょう。明さんも玉藻の前になってください」


「うん、良いよ。変身! 直接会うのは初めてじゃの。キムンカムイよ」


「わぁ、すごいです。一瞬で変化するんですね。初めまして玉藻さん、ボクはキムンカムイです」


「あたいもいるっスよ!」


「真神さんは元気いっぱいですね」


 口調は変わっていないので、彩華ちゃんのロールプレイは問題ない。


「問題があるとすれば、衣装じゃな」


 問題は衣装だ。私は巫女服、愛里ちゃんは狩衣、そして、彩華ちゃんだけが白衣に現代の服。


「ボクだけ浮いてますね」


 あまりにも違和感。それはそれでアピールポイントになるかもしれないが、急に増えた獣人が1人だけ現代風の服を着ていると、ちょっと情報過多だ。


 あとから衣装チェンジで現代風になるのはアリだけど、最初はある程度の統一感が欲しい。


「つまり、少しだけ古めかしい衣装にしておけばいいんですね」


「そうじゃな。キムンカムイは何か希望はあるか?」


「特にありませんが、白衣はやめて毛皮でも羽織ってみますか?」


「良いと思うっス。それなら下が現代の服でもカバーできるっスよ」


 彩華ちゃんの白衣の下は、ちょっとフリルの付いたブラウスとキュロットスカートに薄手のストッキングだ。毛皮を羽織ればカバーできる……、できるかな? 本人が乗り気だしいいか。


「装備を作るのは〈錬金術〉ですぐできますよ」


「すごいっス! あっ、それなら、フェイクファーっていうもふもふな素材があるんで、使うと良いっス!」


 お、それは良い考えだ。ストレス発散のために〈人形ダンジョン〉に潜っているので、フェイクファーの在庫はたんまりある。冬のためにかなりの量を確保しておいたのだ。


「ありがとうございます。使わせてもらいますね。装備を作るときは、素材アイテムと魔石を使います」


 ふむふむ。特に設備とかはいらないようだ。大釜でぐーるぐーるとかも不要だ。すごいな錬金術。


 そして今回使用するのは、フェイクファー1枚、魔石(大)1個、黒鋼インゴット1個、触媒として砕いた魔石が少々。


「錬金!」


 ひとまとめにした素材に彩華ちゃんが手をかざして一声。


 光が素材を包み、ぐにょぐにょと変形した後に、純白の毛皮の羽織が完成した。


「ボクの装備、どうですか?」


 毛皮に包まれる彩華ちゃんの頭の上で、得意げにピコピコ揺れる熊耳。うん、可愛いね。

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