第15話 会社訪問なら速攻で

 ネクター株式会社 代表取締役社長 竹内彩華(たけうちあやか)


 年齢は18歳。会社の公式ホームページに掲載されている写真によると、年齢よりもずっと大人びて見える。もちろんケモミミや尻尾は付いていない。


 起業したのは4月初旬で、当初はHP回復ポーションを冒険者協会に提供していた。しかし〈マジックアイテム〉の販売を機に、冒険者への販売に転換。今でも冒険者協会との取引はあるが、メインは冒険者相手となっている。


 直営の販売店を『東京アドヴェンチャーセンター』内にかまえ、いつでもポーションの在庫があり品切れがないと評判で、業績は右肩上がりだ。


「と、いうことらしいです」


「すごい会社の社長さんなんだね」


 会社については大小様々なうわさがあった。


 国がバックについている。他国のスパイだ。違法なポーションだ。人体実験をしているんだ。などなど。


 それほどまでに、回復ポーションの安定供給というのは、関心を集める事柄なのだ。




「すごいビルですね」


「自社ビルらしいよ。すごいよね」


 手紙を受け取った翌日。私たちはネクター株式会社に訪れている。


 だって、会いに来るのはいつでもいいって書かれてたから、翌日でもいいでしょ。


 悩んでいてもしょうがないし、何かを仕掛ける時間を取らせたくない。電光石火の早業で、カウンターを決めてやるのだ。


「作戦は良い?」


「はい。何を企んでいるのか、丸裸にしてあげます!」


 作戦はこうだ。開幕に愛里ちゃんの〈鑑定〉で竹内彩華さんの企みを暴く。あとは流れで。


 ずさんだって? いいんだよこれで。舞台は完全アウェーで、持っている情報にも格差がある。何かあったときの心づもりだけしておけばそれでいい。


 もしものときは、『水蛇・ヤマタノオロチ』と『炎蛇手』の出番だ。頑張って炎蛇をぴろぴろするぞー。


「竹内の準備が整いました。社長室へご案内いたします。どうぞこちらへ」


「ん、わかりました」


「は、はい!」


 秘書さんが私たちを呼びに来た。いよいよ決戦の時。


「こちらが社長室です。私はここまでの案内のみを仰せつかっています。社長室へはお2人でお入りください」


〈気配察知〉には、室内に1人だけ反応がある。複数人との対戦も覚悟していたんだけど、竹内さんはタイマン(こちら側2人)をお望みの様だ。


「失礼いたします。前田様と山本様をお連れしました」


「入ってちょうだい」


 ノックの後に中から聞こえてきたのは、少し低めのはっきりした声。ネクター社公式ホームページの写真のイメージとぴったりだ。


「失礼します」


「し、失礼しまーす」


 重厚なデスクに座るのは、竹内彩華その人。艶のある髪を肩甲骨あたりまでストレートに伸ばし、前髪は真ん中から左右に分けている。


 意志の強い目は、凛々しさを感じられ、紹介されずとも見るからに仕事のできる女性といった風貌だ。


「愛里ちゃん」


「あっ……、むんっ! えっ?」


 行け愛里ちゃん! 先制の〈鑑定〉! パリンと何かが弾け飛ぶ音がした。


「防がれたっ!?」


「あら。保険が役に立ったみたいね。何をしたのかは分からないけど、落ち着いてお話しましょう。さ、座って」


 竹内さんが立ち上がったため、即座に戦闘態勢に移る。竹内さんは余裕の表情で話し合いを求めているけど、油断はできない。


「愛里ちゃん、どうしたの?」


 視線は竹内さんから外さずに、愛里ちゃんに尋ねた。


「ダメです。何も得られませんでした」


 こちらの手の内が予想されていたのかな? 私たちが何かをしたことはバレているようだけど、それが〈鑑定〉であることまではバレていないようだ。それもブラフだったらお手上げ。


 むしろ、その情報をこちらに明かすこと自体に意味を持たせているふしがある。端的に言うと、ミステリアスだ。くっ、やるな!


「争う気はないの。お話をして、良い関係が築きたい、それだけなのよ」


「……わかった。話をする。愛里ちゃん、座ろう」


「わかりました」


「話をする気になってくれて嬉しいわ」


 デスクから立ち上がった竹内さんと一緒に、社長室内の応接スペースに座った。


「まずは、そうね。どうしてあなたたちを呼んだのか。その疑問に答えましょう」


 そう言って、おもむろに立ち上がると、右手に着けた腕輪をポチポチと操作しだした。


「いくわよ」


 竹内さんの姿が一瞬ブレた。


「これがボクの本当の姿」


 竹内さんの立っていた場所には、白衣を羽織った少女が立っている。その頭には小さな丸い耳。そして、見えないけれど、後ろには丸い尻尾があるだろう。


「ボクの名前は竹内彩華。熊の獣人です。よろしくお願いします」

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