第13話 偽物を探すなら張り込みで

 玉藻の前(偽)を探すのは良いんだけど、問題はその方法だ。


 ダンジョンに入って探す方法は、運の要素が強い。匂わせをしている人に対してこっそり近づくなら良い方法かもしれないが、相手は堂々とした偽物だ。


 また、偽物を発見した後どうするのかという問題もある。


 私たちは本物なので、相手が偽物だということが分かるけど、そんなのは第三者には分からない。お前の方が嘘を言っていると、逆にこちらが責められる可能性もある。


「どうせ耳と尻尾も偽物です! それを取ってやればいいんですよ!」


 うーん、愛里ちゃんが過激だ。


 でも、耳と尻尾は本物だけど、玉藻の前と偽っているパターンも考えられる。暴走気味の愛里ちゃんを抑えるために、私がしっかりしないと。


「出てきませんね」


「まだお昼前だよ?」


 結局私たちがどうしているのかというと、〈門〉が見える位置での張り込みだ。休憩スペースで駄弁っているという見方もできる。


〈門〉から出てくる人を片っ端から愛里ちゃんが鑑定し、玉藻の前(偽)を見つけるのが目的。


 鑑定自体はそれほど大変ではないけど、人が出てくるペースが一定ではないため、集中力を切らさないようにするのが難しい。


 ちなみに私の役割は愛里ちゃんの話し相手だ。


 そうしてさらに時間が過ぎ、お昼に作ってきたサンドイッチを食べ、おやつに焼きプリンを食べ、夕方になった。


「何の成果もなしです……」


 スマホで軽く調べた限り、今日も狐尻尾は現れたそうだ。14時頃に2件、15時に1件、そこからは目撃情報は無し。


 目撃情報が無い理由が、すでにダンジョンから出ているというものなら、愛里ちゃんの鑑定に引っかかるはず。


「それがないってことは、2つ可能性がある」


「1つは情報が嘘ってことですよね」


「うん。もう1つは、偽物と狐尻尾が別人の可能性」


 情報が嘘の可能性は考えるだけ無駄だ。どうしようもない。2つ目の別人の可能性については、愛里ちゃんに鑑定の仕方を変えてもらう必要がある。


 便利な〈鑑定〉スキルだけど、ちゃんと目的意識を持って鑑定しないと、望む情報は得られない。イメージとしては何でも答えてくれる質問に近い。


 今までは、「あなたは偽物の玉藻の前ですか?」と鑑定(質問)していたけど、今後は「あなたは偽物の玉藻の前、または、狐尻尾の匂わせをしている人ですか?」に変更する。


 これならば抜けはないだろう。


「今日はもうダメですね」


「そうだね。引き上げて情報を整理しよう」


「はい」


 偽物の調査はまだ始まったばかり。焦らず慎重にやっていこう。




 翌日も〈甲虫ダンジョン〉前に張り込み、〈門〉から出てくる冒険者の鑑定を続けた。


 その結果は、成果なし。


 ダンジョン内での目撃情報は相変わらずで、中層で画像付きの情報がDX(SNS)に投稿されていた。張り込み中にもその投稿は見ていたので、下手人が出てくるかと期待していたけど鑑定には引っかかっていない。


「見つかりませんね……」


「すごく慎重なのかも」


 例えば、人気のない夜にだけ出入りしているとか、ダンジョン内でキャンプしているとか、考えられる状況はいろいろある。


 ただそれだけに、玉藻の前(偽)として表に出てきているのが不思議だ。そこだけ嫌に大胆な動きだ。


 そうしてさらに翌日も同じ様に張り込み、同じように成果なし。ダンジョンに入る人は相変わらず多く、狐尻尾の情報もそうだ。


 最初に狐尻尾の情報があってから10日。〈甲虫ダンジョン〉から狐尻尾はいなくなった。


「今度はまた別のダンジョンに出没したみたいです」


「うーん。本当に何が目的なんだろう?」


「全然わかんないです。これだけ正体を悟らせないなら、そもそも見つからないことだってできると思うんですよね」


 それはそうだ。尻尾『だけ』が見つかり続けるなんて、普通はありえない。明らかにわざとだ。何らかの目的が合って匂わせをやっているのは確実なんだけど、ここに至ってもその意図が分からない。


 なんだかモヤモヤする。このモヤモヤはギュッとしても晴れないよ。


「地道に探すしかないんでしょうか」


「そうだね。情報収集の方法なんて、それ以外できないし」


 何度も言うようだが、私たちはレンジャーでもシーフでもストーカーでもない。ただのケモミミ美少女だ。


 できることは、スキルを使った地道な調査だけ。


「でも諦めません! 偽物を探し当てて、とっちめてやるんです! 私たちが本当の『マヨヒガ』です!」


「がんばろうね」

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