第12話 騙るなら玉藻の前で

 10階層の〈ダンジョンポータル〉へと到着した私たちは、11階層から15階層を少し時間をかけて調査することにした。


 新人さんの発見報告は、中層の11~20階層に満遍なく分布している。時間が経てば深い階層に移動していく――、というわけでもなく、行きつ戻りつしているようなので、出会える可能性はなくはないだろう。


〈気配察知〉に反応があった冒険者の所へ駆けていき、遠目で〈鑑定〉する。これを繰り返す。


「今日はハズレでしたねー」


「匂わせはさりげなさが肝心だからね。すぐに見つかるようじゃミステリアスじゃない」


 私の〈気配察知〉スキルのレベルは6。感知できる範囲は半径600メートル弱くらい。開けていたり、目視できるともう少し広がるけど、1つの階層をくまなく探せるとかというと無理がある。


「長期戦になりそうです」


「うん。今日も目撃情報がありそうだから、調べて対策をとらないと」


 傾向と対策。これが重要だ。家に帰ったら、改めて情報を洗いなおそう。


「今日のご飯はなんですか?」


「今日は冷しゃぶ。いろんなタレで食べようね」


「おいしそうです! 早く帰りましょう!」


 いっぱい食べて元気を付けて、また明日から頑張ろう。そう思ってたんだけど、事態は私たちの予想を超えて進行していった。




――まず、名前を教えてもらえますか?


『うむ。妾の名前は玉藻の前じゃ』


――その耳と尻尾は本物なんでしょうか?


『もちろん本物じゃ。妾は狐の妖怪じゃからな』


――妖怪は実在したと?


『当然じゃ。そこらにおる猫も、猫又かもしれぬぞ』


――それは夢がありますね。ところで、スタンピードの時一緒にいた方は仲間なのでしょうか?


『仲間というとちと違うの。あれは式神のようなものじゃな。真神という』


――つまり、あの方も玉藻の前さんのお力の1つということでしょうか?


『そういうことじゃ』


――教えていただきありがとうございます。最後に、関東局エリアのダンジョンに入っている理由を聞かせていただけますか?


『うむ。実は関東局エリアのダンジョンに探し物があるのじゃ。何かは言えんが〈マジックアイテム〉であるとは言っておこうかの。もし妾の望むものをくれるというのなら……、褒美を取らせるのも吝か(やぶさか)ではないの』


――今回は質問にお答えいただきありがとうございました




「な、なんですかこれはー!!」


「愛里ちゃん、落ち着いて」


 お夕飯の冷しゃぶを食べ終え、まったりしながらテレビを見ていたところ、『緊急特番! 謎の狐巫女に突撃インタビュー成功!!』という番組が始まるのを偶然見つけた。


 狐巫女は、玉藻の前と名乗り、自身は妖怪でありダンジョンへは〈マジックアイテム〉を探しているのだと語った。


 もちろん、私はインタビューなんて受けていない。


「これ、偽物ですよ!」


「そうだね」


「どうして落ち着いているんですか、明さん!」


 落ち着いているのは、狐尻尾の匂わせがあった時から、この可能性を少しは考えていたから。もちろん私にも不快感はある。けれど、裏を返せばそれほどまで私たちの人気が上がってきたということでもある。


 しかし、これほど大掛かりにやってくるとは思わなかった。テレビで放送しているということは、企業ぐるみの仕業だろう。


 どこまでが偽物の筋書きなのかは分からないけど、何の目的でこの番組を放送したのかが分からない。いや、視聴率は取れるのかもしれないけど、バレたらそれどころじゃないでしょ。


 あ、違うか。放送局も騙されたと言い張れるのか。その場合、玉藻の前の偽物をトカゲの尻尾切りすればいいだけだ。汚いな、放送局汚い。


「私たちが本物だって皆に言わないと!」


「それができればいいけど、方法がないよ」


「テレビ、は無理でもダンチューブで動画配信ができますよ!」


 残念ながら、それは無理なんだよ愛里ちゃん。ダンチューブでの動画配信は、Dギア経由で行う。そして、Dギアは冒険者証とペアリングされているので、ダンチューブ運営からは動画配信している冒険者が誰か一発でわかる。


「ぐぬぬぬっ」


 ぐぬぬぬって言ってる人、初めて見たよ。


 でも私はちょっと感心してる。テレビに映っていた玉藻の前(偽)は、かなり私の玉藻の前(本物)にそっくりだった。


 毛並みは圧倒的に私の方が良いけど、巫女っぽい服とか、口調とかはかなり真に迫っている。耳と尻尾もちゃんと動いていた。


「褒めてどうするんですか、褒めて!」


「ごめんごめん」


 そうは言っても、現状他にできることがない。堂々と私たちが姿を晒して、反論するっていうのも手だけど、偽物の目的がわからないとちょっとね。


 私たちを釣り出すのが目的だとしたら、罠にはまりに行くようなものだ。


「明さん! こうなったら何が何でも偽物を探しますよ!」


 偽物は放送の中で、これからもダンジョンに入る予定だと言っていた。見つけることができれば、本当の目的が何なのかを探ることはできるだろう。


「ん。わかった。頑張って偽物を探そうか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る