第7話 キャンプするならカレーで

「よし、テントはできた」


 事前に何度か練習したのもあって、さほど時間をかけずにテントがたった。3人用のもので大きさも十分。中に小さなテーブルを置く余裕もある。


 ちなみにペグ(地面に刺す杭のようなもの)は廊下にぶっさしてある。ダンジョン内なので時間が経てばちゃんと元通りになる。


「折角ゲットしたんですから、フェイクファーを敷いてみましょう!」


 愛里ちゃんの提案で、確保しておいたフェイクファーをテント内に敷いてみた。毛足が長く、もふもふで大変良い。


「ん、これはいいね」


「もっと欲しくなりますね……。冬までにもう少し集めましょう」


「そうだね。そうしよう」


「あっ、落ち着く前に〈水魔法〉で『クリーン』しますね」


『クリーン』というのは、愛里ちゃんの〈水魔法〉スキルによる魔法の1つだ。


 元々愛里ちゃんは、転生先がテンプレ中世風異世界だと思っていたので、身ぎれいにするために〈水魔法〉を取得した。その身ぎれいにするための魔法が『クリーン』だ。


 全身を〈水魔法〉の水で包み、微振動させることで汚れを浮かせ、洗い流す。効果は絶大で、お風呂の代わりとして十分な洗浄能力がある。


「明さんにかけますねー」


「わかった。覚悟はできてる」


「『クリーン』!」


「ううっ、うひゃっ、くすぐったい!」


 効果はあるんだけど、とってもくすぐったい。そりゃあ全身をくまなくぷるぷる微振動させるので当たり前かもしれない。


「もうちょっとで終わりますよー」


「ひゃあっ、ううっ、うふっ、ひうっ!」


 身体を捩ってもくすぐったさからは逃げられず、尻尾をもふもふされるよりも何倍もくすぐったい。くっ、耐えろ私!


「はい。終わりました」


「はぁ、ふぅ、はぁ、やっと終わった」


「そんなにくすぐったいですか? 自分でやっても全然そんなことないんですけど」


 愛里ちゃんは全くくすぐったくないようで、平然とした顔で『クリーン』を終わらせている。なんだか納得いかない。今度おもいっきりくすぐってあげようかな?


「それじゃあご飯にしよう」


「キャンプといったらカレーですよね!」


 愛里ちゃんの猛プッシュで、1日目の野営ご飯はカレーになった。ご飯を炊くのもカレーを作るのも家でやっているので、雰囲気だけだけどね。


 ドンとお鍋を〈アイテムボックス〉から取り出した。時間停止機能付きなので、出したカレーは熱々の状態。さらに取り出したご飯も同じだ。


 用意したカレーは6皿分。市販のカレールーの半量だ。私たち2人換算で言うと、1食分ともいう。


 あとはサラダ。あらかじめ1人分をお皿に盛って、ドレッシングもかけてある。スープは今回はなし。代わりにデザートに苺ゼリーがある。そして飲み物は牛乳だ。


「はい、どうぞ」


「いただきます! はむ、もぐもぐもぐ、おいしー!」


「ゆっくり食べてね」


 今更だが、階段付近はモンスターも近寄らないため、ゆっくりできる。他の冒険者の気配もないため、安全だ。


 私は自分のマジックバッグから、トッピング用のオクラ、焼きナスと焼きピーマンを取り出してカレーに乗せた。


「ん、完璧」


 カレーに焼きナスと焼きピーマンは相性抜群だと思う。異論は認める。


「あー、明さん自分だけ!」


「愛里ちゃんも乗せる?」


「乗せます!」


 こんなこともあろうかと、ちゃんと2人分用意してある。ただ、マジックバッグの中は時間停止ではないため、食べ物はこれだけ。


「トッピングはこれで終わりね。もう入ってないから」


「はい! まむっ、もぐもぐもぐ」


 私もカレーが冷めないうちに食べよう。


 うーん、おいしい! 私も愛里ちゃんもカレーは甘口派だ。溶け込んだ野菜の甘みも加わってマイルドなお味。トッピングも良いアクセントになっている。


「おかわりっ!」


 もう1皿目を完食したのか愛里ちゃん。カレーは飲み物じゃなくて食べ物だよ。ちゃんと噛んで食べてね。


「ん、私もおかわり」


 そうして2人で3皿ずつ、お鍋一杯のカレーを綺麗に食べきった。いやー満腹です。一応言っておくが、毎回こんなに食べるわけじゃない。実際お昼ご飯はおにぎり3個だけだ。


 獣人として体が丈夫なので、何も食べなくとも数日くらいなら大丈夫な予感がある。試したりはしてないけどね。


 同じ様に睡眠についても数日くらいなら寝なくても大丈夫だ。こっちはお試し済み。今日の野営は、私が寝ずの番をする予定になっている。明日は愛里ちゃんの順番だ。


「ゆっくり寝てていいんだよ?」


「眠ったらすぐ明日が来て、もったいないじゃないですか」


〈気配察知〉があるので、寝ずの番と言ってもテントの中にいるため、それほど負担ではない。なので、愛里ちゃんに膝枕する余裕がある。


「またいくらでもしてあげるから、今日はもう寝ようね」


「言質もらいました! 計画通り!」


「はいはい。おやすみね」


 トントンとあやす様に肩を叩いていると、愛里ちゃんはすぐに眠りに落ちていった。

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