第8話 ダンジョンキャンプは終了で

 野営した翌日。


 寝ずの番をしたが、快適なテントの中だったので体調は全く問題ない。


 攻略2日目は3階層からのスタートだ。あと2日で2階層分進めば良いから、今日は3階層をできるだけ見て回って4階層で野営、最終日に5階層を目指すことにした。


「『水蛇手(すいじゃしゅ)』!」


 愛里ちゃんの新しい魔法、『水蛇手』は昨日より進化していて、今は片手から4匹の水蛇が伸びている。ドアノブをひねる、ドアを押し開ける、罠を防ぐ、予備、で4匹だ。


 3階層を駆け抜けながら、モンスターがいればそっちに、罠があればそっちに、あっちにそっちにフラフラ移動している内に、1つの宝箱を見つけた。


「宝箱です!」


「おー、ボス以外で初めて」


「罠は……、残念ながらありませんね」


 罠がないのは残念なんだ。まあ、危険度の低い罠はアトラクションみたいな感じだもんね。


「愛里ちゃんが開けていいよ」


「いいんですか!」


 いいんです。というか、私たちのパーティーでは、〈マジックアイテム〉を発見した場合、パーティー共用にするという契約になっている。


 なので、愛里ちゃんが開けても私が開けても結果は一緒……、いや、まだ宝箱の中身が確定していないとかある? 開けたら中身が確定するシュレーディンガーの宝箱的な?


 私が深遠な謎について考えている間に、愛里ちゃんは宝箱を開けちゃってた。


「あっ、中身は〈マジックアイテム〉ですよ!」


 宝箱から取り出したのは、指輪よりも太目で指ぬきのような輪っかが6つ。その輪っかからは透明な糸がさらりと伸びている。


「〈操り人形の糸〉って言うみたいです。効果は、輪っかを指にはめて糸を人形に触れさせると、どんな人形でも操り人形にできる、と」


 6つあるのは、全部で1セットらしい。右手に3つ、左手に3つはめて使う。両手を使って人形を操る〈マジックアイテム〉だ。


「どうする? 使う?」


「戦闘では……、役立ちそうにないですね」


「うん」


 だって操るのは人形だ。例えば愛里ちゃんの寝室に置いてあるテディベアを操ったとして、モンスターにダメージを与えられるとは思えない。パンチをしてももふもふだ。もふもふパンチだ。


「じゃあ売っちゃう?」


 売却した場合は、均等に山分け。もし個人で欲しい場合は、売却金と同額を払ってパーティーから買い取る、という形になる。


「ちょっと試したいことがあるので、一旦保留でも良いですか?」


「ん、良いよ」


 置いておくと腐るわけでもなし、保留でも問題はない。とりあえずダンジョンを出たら詳細鑑定をしてもらいに関東局へ行かないとね。


 その後は特にめぼしいものもなく、3階層の攻略は終了し、4階層の入り口で野営となった。


「今日のお夕飯は煮込みハンバーグ」


「キノコたっぷりで美味しそう!」


 ご飯ではなく、パンでいただく。バゲットというやつだ。飲み物は甘さ控えめのリンゴソーダで、デザートはカットしておいた洋ナシ。


 お皿に残ったソースもバゲットと一緒に食べきって完食。


「今日の起きてる担当は私ですね」


「うん。何かあったらすぐに起こしてね」


「はい!」


「……何かなくても起こしても良いからね」


「えへへ」


 1人でずっと起きているのはちょっと暇だ。それに愛里ちゃんは結構寂しがり屋だからね。


 もし何かあれば、寝ながらでも〈気配察知〉が働いてくれると思うけど、できるだけ注意していよう。


「じゃあ眠るね」


「はい、おやすみなさい」


――――――

――――

――


「朝になった?」


「まだ午前0時ですよ」


「そっか。また寝るね」


――――――

――――

――


「朝?」


「まだ2時です」


――――――

――――

――


「まだ3時ですよ」


「何も言ってないよ」


「しっかり寝ないとダメですよ」


「うん」


 いやでも心配でね。寝始めたのが22時くらいだったから、睡眠時間は十分だ。もう起きててもいいんじゃないだろうか。


「寝てくださいね!」


「わかった」


 朝6時になった。よし、起きよう。


「おはよう」


「おはようございます。ちゃんと寝てましたか?」


「うん。朝食を食べたら4階層を回ろう」


「はい!」


 4階層も3階層と同様に、モンスターや罠を探して走り回った。


 今日の愛里ちゃんは、両手から合計8匹の水蛇を出している。


「『水蛇・ヤマタノオロチ』!」


 技名も変わってる! なるほど、8匹だからヤマタノオロチと。でも4匹ですら予備が1匹いたのに、8匹も出したら予備が5匹になっちゃうよ。


 愛里ちゃんのこだわりとして、真神(まかみ)モードの時は、犬・狼・龍がモデルの魔法、通常モードの時は蛇がモデルの魔法、という使い分けをしている。


 私たちの身元がバレるリスクを減らすためにも良い使い分けだ。


 私も炎蛇をぴろぴろ出しているけど、なんかコレジャナイ感。やっぱり狐がいいね。


「宝箱は見つかりませんでしたね」


「そう簡単には見つからないね」


 ゆっくり時間もかけて回ったけれど、残念ながら宝箱はなし。5階層の〈ダンジョンポータル〉へ移動して2泊3日のダンジョンキャンプ――もとい攻略は終了だ。


「今週はもうお休みにして、拾った〈マジックアイテム〉を鑑定してもらいにいかないとね」


「そうですね。というわけで、今日からお泊りにしましょう!」


 まあいいけど。今週はずっと愛里ちゃんと一緒ということになる。これもう半同棲じゃなくて全同棲だ。


「キャンプで空いたお皿とかお鍋とかの洗い物を手伝ってね」


「まかせてください!」


「ん、それじゃあ帰ろっか」


「はい!」


 ポータルで1階層へ戻り、ダンジョンの外へ出た私たちの耳に届いたのは、予想もしなかった会話だった。


「おい! また狐巫女が出たってよ!」

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