第6話 罠があるけど駆け抜ける
〈人形ダンジョン〉に入り始めてから5日目。ようやくその時が来た。
「あ、罠がありますよ!」
「どこ?」
「ここですここ!」
最初に気付いたのは愛里ちゃんで、指で指されたところをジッと見つめていると、私にもなんとなくわかるようになった。
「〈罠発見〉スキルが生えた」
「私にもありました!」
念願の、〈罠発見〉スキルを手に入れたぞ! まだスキルレベルは1だけど、これで〈人形ダンジョン〉を進む準備が整った。
このダンジョンは扉が多いので、罠を見つけるスキルがないと大変なのだ。「扉を見たら罠だと思え」、このダンジョンの標語の1つだ。
「解除は魔法でいいんですよね?」
「うん。わざわざ新しいスキルもいらないしね」
罠を見つけたら、次は解除となるわけだが、そっちは別に新しいスキルとかいらない。動作しないよう壊したり、防いだり、遠隔起動したり、罠があると分かれば対処はどうとでもなる。
「今日はもう少し罠を探す練習をして、来週から本格的に踏破を目指そう」
「そうですね。野営の準備はしてありますが、人の目があるときのことも考えておかないと」
Bランクダンジョン以上は1階層の面積がさらに広がる。Cランクで東京都の半分くらいだったのが、Bランクでは東京都丸々1つ分ほど。
室内型であることもあって、飛んでショートカットすることもできず、次の〈ダンジョンポータル〉にたどり着くまでに、ダンジョン内で野営する必要があることも。
室内型なのに野営とは?
「テントを立てて、中に入っちゃえば大丈夫かな」
「あ、それなら、調理済みの料理もいっぱい入れておきましょう!」
「たくさんお皿が必要になるね。お鍋もかな?」
「それじゃあ土日はお買い物ですね!」
改めて準備を整えての月曜日。今日から水曜日までの3日間で、5階層の〈ダンジョンポータル〉を目指す。
5階層までは冒険者協会の発行する地図があるため、行程にはかなり余裕があるはず。
地図の無い6階層以降は、探り探りの攻略になるため、今回の攻略が上手くいかなければ何か対策を考えないといけない。
それも今日からの攻略次第だ。
「準備できた?」
「はい! 完璧です!」
愛里ちゃんは大き目のリュックサックを背負っている。中身は空だ。これをマジックバッグだということにして、〈インベントリ〉のスキルをごまかす。
大容量のマジックバッグは珍しいものの、Bランクダンジョンに入る冒険者として持っていてもおかしくはない。
「それじゃあ行こうか」
「キャンプみたいで楽しみです! 行きましょう!」
1階層は他の冒険者も多いので駆け抜ける予定だ。地図を参考にしながら、Dギアで最短距離を案内してもらう。
たまに罠付きの扉に出会うが、罠の内容が「魔法が飛びだす」、「矢が飛び出す」、「落とし穴が開く」などのどうでもいいものばかりなので、基本無視して突き進んでいる。
落とし穴以外は軽く撃ち落とせるし、穴は飛び越えれば何の問題もない。罠が「ある」と分かればこんなものだ。
「アトラクションみたいで楽しいですね!」
「うん。森を走るのと同じくらい楽しいかも」
これは予想外の面白さだ。今でも〈狼ダンジョン〉へ行って森を駆けるのを習慣にしているが、それと同じくらいには楽しめている。
ただ、扉を開けるのがちょっと面倒くさいかな。これがなんとかできれば、もっと楽しいと思う。
「それなら私の魔法で開けましょう! 『水蛇手(すいじゃしゅ)』!」
伸ばした愛里ちゃんの腕から、水の蛇がシュルリと這い出て、ドアノブに食らいつくと器用にドアノブをひねって扉を開けた。
愛里ちゃんが、また新しい技名を考えてる! 『水蛇手』ね。ちゃんと蛇の頭の形もあって、芸の細かい細かい魔法だ。
私もやってみようかな。私の場合〈火魔法〉だから、『炎蛇手(えんじゃしゅ)』? あ、でも火魔法だとドアノブに触れるために、毎回魔力をギュッとしないとダメだ。ちょっとMPがもったいないか。
「私にもやらせて」
「いいですよ!」
「ほい」
同じ様に炎の蛇を出して扉を開けていく。MPは消費するけど悪くはない。それに訓練と考えると、悪くないどころかかなり良い。
周囲を探る〈気配察知〉と〈罠発見〉、走るための〈身体強化〉、罠を回避する〈軽業〉と〈跳躍〉に魔法を使う〈魔力操作〉。いろいろなスキルを使いながら楽しめる。
ちょっとだけモンスターとの遭遇が少ないのがデメリットだけど、それは階層を下っていけば解決されそう。
「先頭を交代しながら進もっか」
「わかりました!」
交代しながら進んで、お昼も食べて、夕方になる頃には2階層を踏破し、3階層へ繋がる階段で本日は野営(室内)となった。
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