第4話 一人は寂しいから添い寝して
「お腹いっぱいです」
「デザートのプリンがあるよ?」
「それは別腹です!」
愛里ちゃんはしっかりとデザートのプリンも完食した。2個。
愛里ちゃんの家には食洗器があるので、洗い物は楽ちんだ。油がひどいフライパンだけ別に洗って、他はボタン1つ。
「ふぅ。私もお腹いっぱい」
愛里ちゃんにつられて、私も結構な量を食べた。お腹がポッコリしている。
リビングのソファで休んでいると、愛里ちゃんが寄ってきた。
「明さん、お願いがあるんですけど……」
「ん、どうしたの?」
「そのぉ、膝枕、してもらってもいいですか?」
尻尾を抱えて上目遣いで聞いてくる愛里ちゃん。別に膝を貸すくらいはどうってことないし、初めてということもない。
「いいよ。はい、どうぞ」
「えへへー、お邪魔します」
ぐりぐりとふとももに頭を擦り付けて、なんだかいつもより甘えん坊さんだ。ピクピク動く犬耳を避けて、きれいな水色の髪をなでる。
「今日はいつもより甘えん坊だね」
「そんな気分なんです。明さんってお姉ちゃんみたいです」
今は同じ年齢だけど、前世の年齢を足したら年上だ。そういう意味ではお姉ちゃんと言えなくもない。
「並んでお料理して、一緒にご飯を食べて、家族みたいでした」
私たちは転生をしている。前世の家族を思い出すことはあっても、それで感傷的になることはない。女神様がうまいことやってくれているんだろう。
けれど、それは前世を思い出してならないというだけで、今この瞬間をどう思うかは別だ。
「さみしくなっちゃった?」
「……はい」
愛里ちゃんの家は、一軒家だ。一人暮らしするには十分すぎる広さで、言い換えれば、1人では広すぎる。使っていない部屋もいくつかある。
「今日は、泊っていってくれませんか?」
「うーん、でも私、元は男だったんだよ? 嫌じゃないの?」
「明さんは明さんですよ。嫌じゃありません」
反転してこちらを向いた愛里ちゃんが、私のお腹にぐいぐいと頭を押し付けてきた。これはかなりの甘えん坊さんモードだ。お腹に当る息がくすぐったい。
「わかった。今日は泊っていくね」
「やった! こんなこともあろうかと、お揃いのパジャマは用意してあります!」
〈アイテムボックス〉から取り出したのは、黄色のパジャマ。ついでに肌着もあるのは、さすが『こんなこともあろうかと』だ。抜かりないね。
「一緒にお風呂に入りましょう!」
「それはダメ」
「えー、私は気にしませんよー」
女の子なんだからもっと慎みを持たないと。……これってセクハラかな? でも一緒にお風呂に入るのはダメ。まだ早い。
「それじゃあお風呂は諦めるので、添い寝してください」
添い寝か。お風呂に入るよりはマシだ。Cランク冒険者試験に合格したお祝いもあるし今日だけは添い寝してあげよう。
「わかった。添い寝はしても良いよ」
「よし、計画通り」
何も聞こえなかったということにしておこう。ソファから勢い良く立ち上がって、たったかお風呂へ駆けていく愛里ちゃん。
「お風呂が終わったら、ベッドでごろごろしましょう!」
「ゆっくりお湯につかるんだよ?」
「はーい!」
声は大きいが、どう考えてもテキトーな返事だ。まったく元気な妹だ。
愛里ちゃんはこちらに転生してから、耳と尻尾を隠す方法がわからず、苦労していた。そこに同じく転生した私が現れて、少し依存気味になっている。
時がたって落ち着いてくれば、マシにはなると思うけど、できれば秘密を共有できる人が何人かいれば心強い。
「私と愛里ちゃんの2人がいるんだから、他に転生してる人がいてもおかしくないよね」
自分だけが例外と考えるのは無理がある。2人いるなら、3人目もいるだろう。問題はその人が愛里ちゃんにとって良い人かどうかだ。ちゃんと見極めないとね。
「なんだか、本当にお姉ちゃんになった気分」
私も少しは寂しかったということなんだろう。愛里ちゃんとの疑似家族は、私にとっても嫌なものではない。
予想よりは遅く、それでも早めに愛里ちゃんがお風呂から出てきた。〈水魔法〉を使うので、髪が濡れたままとかがないだけマシかな。
ちなみに私たちの耳と尻尾、出している間は汗をかいたり皮脂がたまるので洗う必要がある。ただ、消すと汚れなんかは取り残されて、再度出すとある程度綺麗になる。洗った後の水もきれるので、これで乾かすのも楽ちんだ。
「えへへ。いつもはこの3人に囲まれて寝てるんです」
私もお風呂に入って、愛里ちゃんの宣言通りベッドへと移動した。ベッドの上には、大きなテディベアと、デフォルメされた犬と狐のぬいぐるみが置いてある。
頭上にテディベア、両脇に犬と狐を抱えて、愛里ちゃんが実践してみせてくれた。ベッドはとても大きく、そうやっていても空きスペースは十分にある。
「明さんはここです! 狐さんの代わりにここに来てください!」
「はいはい」
誘われるままに愛里ちゃんの隣へと移動した。ベッドの質はとても良く、なんだか自分のベッドとの差について少し考えてしまった。
「んー!」
「くすぐったいよ」
すぐさま抱き着いてきた愛里ちゃんは、まだ甘えん坊さんモードが継続中だ。やはりお腹にあたる息がくすぐったい。それと尻尾がぱたぱた暴れて、愛里ちゃんの後ろにいる犬のぬいぐるみが落っこちそう。
「温かいです……」
ひとしきりじたばたして、静かになった愛里ちゃんはもう眠そうだ。夏と言っても、夜はまだ少し冷える。布団をかけてあげて、このまま寝ちゃおう。ベッドでごろごろするのはまたの機会に。
頭をなでていると、愛里ちゃんの尻尾がほとんど動かなくなってきた。
「……お姉ちゃん」
「ゆっくりお休み。愛里ちゃん」
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