第3話 Cランク冒険者になったらお祝いで
土曜日の午後。今日は愛里ちゃんのCランク冒険者試験の日だ。
私たちは、関東局が近い愛里ちゃんの家でお昼を食べた後、試験へと向かった。
「ご予約されていた山本さんですね。試験の準備は整っています。このまま進み、2番試験場と書かれた部屋へお入りください。中に係の者がおります」
「はい。わかりました」
「見学のパーティーメンバーの方もご一緒で大丈夫です」
「はい」
試験を予約していたため、受付での手続きは一瞬で終わり、すぐさま試験となった。受付前では予約の時間を待っている冒険者も数人いる。試験日が限られている分、こうやって効率的に回す必要があるんだろう。
「あ、2番試験場、ここですね。失礼しまーす」
室内は、私が試験を受けた場所よりも少しだけ小さい。だいたい15メートル四方の部屋。
「試験票を、はい、ありがとうございます。山本さんですね。見学の方は私と一緒にいてください。山本さんは中央へ」
「試験官の金田です。よろしくお願いします」
「金田さん、よろしくお願いします!」
「お二人ともよろしいですね。それでは試験を始めます。試験開始!」
試験が始まった。私と係の人は、安全のため少しへこんだ壁の中にいる。
愛里ちゃんはまず小手調べにアクアボールで牽制をするようだ。打ち出した数は4。本気を出せばもっと増やせるけど、最初だからね。
対する試験官の金田さんは、ウィンドボールで相殺狙い。うーん、だけど威力の差で、押し負けている。2発のウィンドボールで1発のアクアボールしか撃ち落とせてない。
残りのアクアボールをなんとか回避して仕切り直し。愛里ちゃんは様子見だ。
「これはもうCランク確定ですね……」
係の人のつぶやきが聞こえた。やったね愛里ちゃん。もう合格っぽいよ。
「これはどうですか!」
だというのに愛里ちゃんは、今度はアクアアローを4発宙に浮かべている。なんだか金田さんが挑戦者側に見えてくる。不思議だ。
「受けて立ちます!」
金田さん受けちゃうのかぁ。
射出されたアクアアローは曲線を描きながら金田さんへと放たれた。その内の1発をシールドで減衰させ、いつの間にかエンチャントを施した武器で相殺を狙う。アクアアローの包囲を突破するつもりだ。
「甘いです!」
そこは愛里ちゃん。武器で相殺される前にアクアアローが分裂し、細かなアクアボールとなって金田さんを打つ。さながら散弾銃のようだ。
「くっ!」
たまらず防御姿勢を取る金田さんの眼前に、アクアアローがぴたりと静止した。
「チェックメイトです!」
「……完敗です」
「良い勝負でした」
試験場の中央で、ぐっと握手する愛里ちゃんと金田さん。
「お二人とも、これは試験ですよ」
そうだったとわたわたする金田さんから、文句なしの合格をもらって、無事愛里ちゃんもCランク冒険者の仲間入りだ。
「やりました!」
「ん。良かったね」
特に何が変わったわけでもない冒険者証を眺めて、愛里ちゃんが嬉しそうにしている。Cランクになったからと言って、冒険者証の色や材質が変わったりはしない。見た目は普通のままで、Cランクのところにチェックマークが付くだけだ。
「合格のお祝いをしないとね」
「お肉がいいです! 骨付きのやつ!」
お祝いに愛里ちゃんの好きな料理を作るという約束をしている。骨付き肉をご所望とは、ちょっと犬っぽい。
「マンガ肉みたいなのは難しいけど、骨付きのリブロースステーキはできそう」
「早速お買い物に行きましょう!」
こんな時でもないと骨付き肉を食べようと思わないから、私も楽しみだ。購入したお肉は、正味1kg。お肉以外にもちらし寿司を作るので、1kgで足りると思う。
台所の広い愛里ちゃんの家で調理開始だ。
「愛里ちゃんにはちらし寿司を手伝ってもらうね」
「わかりました!」
今日の愛里ちゃんのミッションは、薄焼き卵とそれの細切りだ。それ以外の具材は、お刺身用の切り身を使うから手間がかからない。
私の方のステーキも、お高いお肉だから凝ったことはしない。塩だけでいく。
「それじゃあ卵を焼いてみよう」
「はい!」
「油をのばして、そう。卵を入れたらフライパンをまわす」
「よいしょ」
「うんうん。もういいよ。端っこから剥がして完成」
「きれいにできました!」
ちゃんと手入れしたフライパンを使えば、難しいことはない。これを取り出さずにフライパンの中で巻けば卵焼きにもなる。愛里ちゃんの作れるレシピに1品追加だ。
「冷ましたら細切りにしよう。大葉もね」
「きゅうりのリベンジです!」
包丁の扱いは、慣れるまでやるしかない。多分すぐに上達できると思う。体の扱いが上手い獣人だからね。
ちらし寿司の方はほぼ終わり。あとはご飯が炊けたら酢飯を作って具材を乗っけるだけ。
「じゃあステーキを焼こう」
「メインディッシュですね!」
「最初は2枚ずつ焼こう。物足りなかったら追加で」
「私は最初から3枚にします!」
「ふふ、いいよ」
相当楽しみなんだろう、愛里ちゃんの尻尾がぶんぶん揺れている。焼く工程はシンプルなのでそれほど時間もかからない。だからそんなにフライパンに近づかない。危ないからね。
お肉を休ませている間にちらし寿司を完成させて調理は終わり。実食だ。
「おいふぃいでふ!」
「おぎょうぎ悪いよ。ちゃんと飲み込んでからね」
両手に骨付き肉を持っているのには目をつぶろう。ちらし寿司の錦糸卵はちょっと不揃いだけど、しっかり切れている。指示は出したけど、愛里ちゃんの手によるものだ。
「ちらし寿司も上手にできたね。おいしいよ」
「言ってくれればいつでも作れます!」
3合のちらし寿司と、1kgのお肉。結局全部をペロリと完食だ。
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