第25話 第二次迎撃戦なら5階層で

 交代しながらしばらく休憩していると、1階層から移動してきた冒険者たちが5階層へと到着した。これから最終的な担当エリアが設定され、パーティーで配置につくことになる。


 私たちの位置は、ほぼ中央。魔法使いが固まっていることもあり、左右に配置されるパーティーへのサポートも期待されている位置だ。


「き、緊張してきました」


「落ち着いて、悠。ここがダメでもまだ1階層がある。その頃にはもっと冒険者が集まってるでしょう」


「そ、そうだね、有希ちゃん」


「皆さん、冒険者協会からHP回復ポーションをもらってきました。1人1本ずつです」


「ん、ありがとう」


「ありがとうございますっ、しおりさん!」


 支給物資が行き渡り、迎撃エリア全体に冒険者も散開している。スタンピードがやってくるのはもうすぐだ。


「愛里ちゃん、大丈夫?」


「はい、大丈夫です。それにいざとなったら、リューちゃんでやっちゃえば良いって思ったら、少し気が楽になりました」


「ん。空を飛べるし、逃げるのも簡単だからね」


 愛里ちゃんと2人で相談して、迎撃戦が苦しそうなら、玉藻の前と真神の姿を解禁して戦うことにした。


 私の〈狐火魔法〉は玉藻の前の姿でないと使えないので、まず愛里ちゃんが〈水魔法〉を派手に使い、その隙に私が玉藻の前に変身する。そんな感じ。


 玉藻の前と真神が出ている間、前田明と山本愛里はいなくなるけど、そこは戦闘時のどさくさと、謎のケモミミ2人組のインパクトでどうにかなると信じてる。信じてるよ?


 冒険者が合流して少し騒がしくなった迎撃エリアも、少しすると静かになった。現在は、スタンピードの先頭の位置を探りに出た偵察の情報の状態。10階層の戦闘からもうすぐ1時間となる。


「来た! 中継映像だ!」


 偵察が持つドローンからの映像が、迎撃エリアに映し出された。


 遠目に見えるのは、モンスターの群れ。10階層で減ったモンスターは少なくないが、ここまでくる間の階層でモンスターを吸収し、幾分かは戻っているだろう。


 モンスターの総数は、およそ3万と予想されている。今は冒険者が200人くらい集まっているから、1人当たり150匹を倒せば解決だ。


 なんとか、なりそう?


 あとは、さっき有希ちゃんが言ったように、1階層へ撤退してからの迎撃もある。2回に分けてもいいなら、きっと大丈夫だ。


「来たぞー!!」


 偵察に出ていた冒険者が戻ってきた。その後ろには、押し寄せる津波のような黒いうねりが見える。中継映像越しとは迫力が全く違う。


「臨時パーティーとしてこのダンジョンで100匹以上のモンスターも相手にしてきました。落ち着いてやれば大丈夫です。愛里ちゃん、最初は私に合わせてやっていきましょう」


「はいっ!」


「明さんのエンチャントもあるし、軽く蹴散らしてあげましょ」


「僕の魔法で、浄化してあげます!」


「ん。エンチャントは自重しない」


 スタンピードは、迎撃エリアに向けて、包囲するように全方位から迫って来ている。これも異常な点だ。効率的に冒険者に対処しようという意思が感じられる。


「相手はタダのスタンピードじゃないわ! 人間を相手にしていると思って戦いなさいっ!!」


「あ、理恵さんだ」


 指揮所のような一段高い位置で大声を上げていたのは理恵さんだった。


「乱戦は避け、まずは遠距離で数を減らす! 魔法スキルを使える者はMPを消費しすぎないよう注意しなさいっ!!」


「おうっ!!」


「はいつ!!」


「ここでスタンピードを終わらせる! 勝つのは私たちよ! 攻撃開始っ!!」


 理恵さんの号令で攻撃が開始された。


「私たちもやりますよ! 〈ダークアロー〉!」


「はいっ、アクアアロー!」


 まずはしおりちゃんと愛里ちゃんの魔法が飛んだ。アロー魔法は速度と貫通力があり、遠距離でも十分なダメージが期待できる。


 他のパーティーからも魔法が飛び、スタンピードの先頭へと降り注ぐ。


 一切の防御をとらないモンスターたちは、魔法によって倒れ、消失していくが、スタンピード全体の動きに変化はない。倒す数よりも迫る数の方が多く、迎撃エリアを包囲する輪は、着々と縮まっていく。


 だが、モンスターとの距離が縮まれば、冒険者が取れる手段も多くなる。


「これなら届きます! 〈ターンアンデッド〉!」


 悠ちゃんの〈神聖魔法〉も攻撃に加わった。また、スキルレベル1から使用できる〈ウィンドボール〉などのボール魔法も、距離が近ければ十分な威力だ。


 冒険者から放たれる魔法の密度が上がり、一瞬だけスタンピードの勢いと拮抗した。


「敵の魔法よっ!!」


 モンスターの後方から、魔法が放たれた。


「〈ダークシールド〉!」


 けれど、その戦法は、10階層での第一次迎撃戦ですでに見ている。


 私たちの所へ飛んできた魔法は、しおりちゃんのシールドで防がれ、左右のパーティーも盾で防いだり、そもそも回避したり、各々で対処している。


「後方に範囲魔法っ!!」


「了解!! 〈ファイアカーペット〉!」


 カーペット魔法は、一定範囲に攻撃できる魔法だ。カーペットと言うが、ある程度の空中にも効果がある。不思議だ。


 スキルレベル5から使える魔法で、後方から魔法を撃ってくるモンスターへのカウンターとして使用する。なかなか使用できる冒険者がいないため、集中運用はできないが、それでも効果は見てわかるほどに顕著だ。モンスターからの魔法が明らかに減っている。


「その調子よ! 前衛はもう少し堪えなさい! 相手の魔法が薄くなれば突撃よっ!!」


 順調だ。こちらの魔法を抜けてくるモンスターも前衛で処理可能な範囲で、モンスターの後方から飛んでくるやっかいな魔法も、範囲魔法の効果で徐々にその数を減らしている。


 いける。勝てる。スタンピードを止められる。


 冒険者たちの希望とは裏腹に、迎撃エリアの中心、冒険者たちの背後に、ゆらめく魔力が集まっていた。

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