第24話 第一次迎撃戦なら10階層で
「そろそろ10階層では迎撃が始まる頃ですね」
「ん、大型ディスプレイで中継映像を流すみたい。見に行く?」
「そうしましょう」
10階層での迎撃は、威力偵察も含んでいる。どんなモンスターがどれだけいるのか。人によっては、ここのモンスターと戦ったことが無い人もいる。ドローンによる戦闘の中継はこういう時にも役立つ。
〈ダンジョンポータル〉周辺の迎撃エリアをドローンが映している。落とし穴やバリケードなどは、ほとんど意味をなさないため、スタンピードでは活用されない。あまりにモンスターの勢いが強いからだ。
「来た」
誰かが声を発した。
映像には、次第に広がっていく黒いうねりが見える。狂気に飲まれた行進は、こちらにまでその振動が伝わってきそうだ。
『まずは一当てする! 〈エンチャント〉の後は一発かましてやれ! 前衛は前に出過ぎるなよ! 5階層に戻れば休憩時間はたっぷりある! 死んでも死ぬなよ! 行くぞぉ!!』
『おうっ!!』
威勢よく声を上げた冒険者たちから、様々な魔法が飛んでいく。速度重視の〈ウィンドボール〉、一撃でモンスターを倒す〈ライトアロー〉、広範囲に燃え盛る〈ファイアカーペット〉。
それらを受けてもスタンピードの勢いはちっとも落ちない。倒したモンスターは消えてしまって障害にならないのも、スタンピードに限って言えばマイナスだ。
『来るぞぉ!! 前衛っ、怯むなよ!!』
『うおおおぉ!』
そして前衛とスタンピードが衝突した。弾け飛んだモンスターが空中で消失する。その陰からゴーストが殺到するが、鍛えた冒険者の剣戟によって見る見るうちに数を減らしていく。
しかしそれでも、後から後からモンスターの大群は供給され、全く終わりが見えない。
「いったいどれだけいるんだ……」
映像を見ているだけでスタンピードの空気に飲まれてしまった者もいる。
「俺たち人類は何度もスタンピードを食い止めてきた! 今回もやってやるさ!」
その逆に、決意を新たにする者もいる。
映像の中の戦闘は進み、迎撃エリアはモンスターの海に飲み込まれてしまいそうだ。なんとか〈ダンジョンポータル〉付近は確保しているが、それも時間の問題といったように見える。
そもそも、集まった冒険者、百数十名の内、4分の1ほどの冒険者しか10階層の戦闘に参加していない。初めから撤退ありきの迎撃戦なのだ。
しかしそれでも、その異常を指摘する冒険者がいた。
「おかしい、あまりに統率が取れすぎている。スタンピードだぞ?」
迎撃する冒険者たちを囲んだモンスターは、どっしりと足を止め、後方からはレイスの魔法が冒険者を狙っている。また、散発的に頭上からゴーストが突撃し、迎撃側の意識を一つに絞らせないでいた。
「しおりちゃん、今の状況ってどこかおかしいの?」
「そうですね。スタンピードとは、いわゆる暴走状態であると考えられています。モンスターの目的は、あくまで〈門〉への到達。冒険者を視界に入れれば攻撃してきますが、それ以外だと移動を優先するはずです」
「どう見ても、暴走しているようには見えないわね」
「僕には〈墓ダンジョン〉のボスよりもしっかりしている様に見えるよ」
「理由はわかりませんが、普通のスタンピードでないのは確かです」
迎撃エリアは次第にモンスターに押し込まれ、消耗した冒険者が〈ダンジョンポータル〉で撤退していく。そうすると更に冒険者側が不利となり、戦闘を開始してから十数分で第一次迎撃戦は終了した。
辛うじて死者はいないが、戦った冒険者たちの疲労は重く、HPを全損した者もいる。
初戦の結果に、中継映像を見ていた冒険者たちの心には不安が積もっていった。
「戻って休みましょう。普通のスタンピードとは異なるのです、もしかしたらここへの到着も早まるかもしれません」
「普通じゃないから何があってもおかしくないってことだね。僕が見てるから、皆は少しでも休んでて」
昼間のダンジョン攻略では、一番消耗の少なかった悠ちゃんが警戒を担当してくれた。
ブルーシートを地面に敷き、その上にクッションを置いて休憩だ。愛里ちゃんは、いざという時のために〈アイテムボックス〉に色々と物を入れていたみたい。
「愛里ちゃんは準備がいいですね」
「『こんなこともあろうかと』準備しておいたんです!」
あっ、あの顔は! 言ってみたかった台詞を言って満足している顔だ! 愛里ちゃんに先に言われてしまったから、もう私は使えないな。
でもゆっくり休憩できてありがたい。
「明さん明さん」
「小声でどうしたの愛里ちゃん?」
「相談があるんです。その……、私の〈水魔法〉をどこまで使うのか、ということで」
「なるほどね」
私の〈火魔法〉もそうだけど、転生特典でもらったスキルは、この世界で得たスキルよりもだいぶ高性能だ。
愛里ちゃんの〈水魔法〉を本気で使えば、スタンピードを抑えるのにかなり役立つだろう。
けれど同時に、どうしてそんなスキルが使えるのか?、という疑問も当然出てくる。その疑問に対して、相手が納得できる回答はできないだろう。転生なんて誰が信じるのかってことだ。
「でも、何もせず誰かが亡くなってしまったら、一生そのことが心残りになると思うんです」
「うん。そうだね」
別に強者の義務とかそんなんじゃない。もし本当に命の危険があるなら、すぐに逃げ出すと思う。でも、少し意識を変えるだけで何とかできるそうなら?
「大丈夫だよ、愛里ちゃん。こういう時に便利なものがあるでしょ?」
「便利なもの?」
「そう。ロールプレイだよ」
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