第23話 発生したのはスタンピードで

 『スタンピード』とは、ダンジョン内のモンスターがある一定密度まで高まったときに発生する、モンスターが1階層にある〈門〉へ目掛けて一斉に移動する現象だ。


 スタンピードが予期される場合、〈門〉周辺の住民は即座に避難が指示される。それは、モンスターが〈門〉へ到達した場合、『ダンジョンブレイク』が発生するから。


 もっと正確に言えば、ダンジョンブレイクが発生した際に、モンスターの『覚醒』を促す人間を減らすために行われる。


 覚醒前のモンスターであれば、ダンジョン内と同じように対処ができる。


「私たちも戻りましょう」


「はい」


 スタンピード発生の可能性の第一報はここに来るまでに入れてある。冒険者には、スタンピードに対応する義務があるため、この後はしおりちゃんたちと一緒に待機ということになるだろう。


 10階層の〈ダンジョンポータル〉で帰還し、ダンジョンを出た。外は少しあわただしく、空気も重い気がする。


「明さん!」


「ただいま」


「しおりちゃん、私は付いていてあげられないから、皆をよろしくね。あと明ちゃん、道中での話は皆に共有して良いから。どうせ後で、全体にアナウンスすることになるし」


「はい。わかりました」


「ん、皆に話しておきます」


「それじゃあ絶対に無理をしないように。また後でね」


 冒険者協会の職員さんの方へと去っていった理恵さんを見送り、私たちは少し脇へ行って情報共有することにした。


「こちらには、スタンピード発生の可能性の緊急連絡が来たばかりです。ニュースにもなっていますね」


「理恵さんの予想では、『ダンジョン審判教』がここでスタンピードを起こそうとしているみたい。6階層から10階層までは全然モンスターがいなかった」


「スタンピードはモンスターの密度が一定以上になると発生すると言われています。浅い階層のモンスターが深い階層に移動しているとしたら」


「ん、理恵さんも少し焦ってた」


「まったく、審判がどうとか知りませんけど、迷惑な宗教ですね!」


「本当よね。どうしてこう頭のおかしな人は他人を巻き込むのかしら」


「でも、どうやってモンスターを移動させたんでしょうか? モンスターが階層を移動できるなんて、僕は聞いたことがありません」


「階層を超えて移動できるのは、イレギュラーモンスターだけ、というのが通説ですね」


 何か特殊な方法があって、それをダンジョン審判教が利用しているのかも。冒険者協会はそれを知っていて、だから理恵さんが焦っていた。ありえそうだ。


「冒険者協会からお知らせします! 現在スタンピードの発生が予想されています! 冒険者の方は、入り口すぐのホールへお集まりください! そちらで状況をご説明いたします! 繰り返します!」


「説明があるみたいね」


「僕たちも行きましょう」


 あわただしく動き回っている冒険者協会の職員さんたちは、施設内の壁を移動させている。壁は天井から吊り下げられていて、床のロックを外せば、ある程度自由に配置できるようだ。


 その壁は、2か所を除き〈門〉を囲むように配置されていて、開いた2か所からは大きな空間へ繋がるようになっている。


「〈門〉を囲む施設は、いざという時の防壁代わりにもなるんです。こうして移動経路を限定し、ダンジョンブレイクに備えるわけですね」


「ほー。しおりちゃん詳しいね」


「勉強しましたからね。日本でも何度かスタンピードは発生しています。まさか自分が遭遇するとは思いませんでしたが」


 ホールへ集まった私たちに、改めてスタンピードの可能性が説明された。その最中にも、連絡を受けた冒険者が集まってきて、否が応にも緊張感は高まっていく。


 説明の途中、〈門〉から5人の冒険者が飛び出してきた。その顔は険しく、すぐに冒険者協会の職員に連れられて去っていったが、ホールに集まる冒険者たちに与えた影響は凄まじい。


 皆確信したのだ。


「皆さん、スタンピードが確認されました。〈門〉への到達予想時間は、3時間です」


 現在のスタンピードの先頭は15階層を超えた所、5階層を1時間のペースで移動している。


 私たち冒険者は、10階層の入り口に布陣し、そこで第一次の迎撃に当る。これは、10階層へ移動可能な冒険者だけで行われる威力偵察のようなものだ。


 本番は5階層での第二次迎撃。〈ダンジョンポータル〉を利用できる冒険者は即座に向かい、利用できない冒険者は1階層から走って移動する。今から走れば、十分迎撃に間に合う。


 そして、最終防衛ラインは1階層の〈門〉前だ。


「スタンピードの主力は、ゴースト、レイス、スケルトンです。物理攻撃がメインの皆さんはご注意ください」


 ここ〈亡霊ダンジョン〉の厄介なところで、単なる物理攻撃はあまり有効ではない。しおりちゃんのような〈エンチャント〉を使える人がパーティーにいればいいが、そうでない場合は、臨時パーティーとして魔法を使えるソロ冒険者が組み入れられたりする。


 スタンピードの迎撃に際して、パーティーの人数制限なんて意味はない。6人でも7人でも臨時パーティーを組んで迎撃に当る。


 私たちの場合は、ほぼ全員が魔法を使えるという、魔法過剰パーティーであるので、このまま5人で迎撃に参加する。


「詳細な説明は、5階層・10階層の迎撃拠点で行います。また、迎撃エリアの振り分けも現地で行います。冒険者証の登録が済んだ方から、順次移動をお願いいたします」


「私たちは5階層行きです。皆さん、落ち着いて、いつも通り行きましょう」


「ん、無理しないように」


「明さんのエンチャントがあれば、余裕よね」


「有希ちゃん、油断はダメだよ」


「私も頑張ります!」

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